第59話:屋敷の撮影ですわ!
地域の広報誌を作っている方から、屋敷を撮影したいと連絡がありました。
「ついに取材ですの!」
「屋敷の撮影ですね」
小春が申します。
「屋敷の主人も必要でしょう?」
「建物だけでいいそうです」
「主人のいない屋敷など、魂のない身体と同じですわ!」
「写りたいんですね」
「記録として必要なだけですの!」
撮影当日。
わたくしは正装で玄関前へ立ちました。
撮影者の方が、少し困った顔をします。
「今日は建物を中心に撮らせていただきます」
「わたくしは、どちらへ立てば?」
「まずは屋敷だけを」
「では、あとで人物入りもお願いしますの」
最初に撮影したのは、修繕の終わった玄関と庭。
続いて応接室。
廊下。
離れ。
撮影者は、綺麗な場所だけでなく、まだ壁紙の剥がれた部屋にも興味を示しました。
「そちらは、まだ直していませんの」
「この状態も素敵ですよ」
「剥がれていますわよ?」
「修復の途中が分かるので。古いものを残しながら暮らしていることが伝わります」
わたくしは、剥がれた壁紙を見ました。
これまでは、人に見せたくない場所だと思っていました。
けれど、この方には、屋敷が変わっていく途中そのものが面白いようです。
「では、こちらも撮ってよろしいですわ」
「ありがとうございます」
庭で最後の撮影をしていると、ノアが走ってきました。
「ノア、待ちなさい!」
綱を持ったまま引っ張られ、わたくしは画面の端を横切りました。
ぱしゃり。
「あっ」
「いまのは撮り直しですわ!」
「自然でいい写真ですよ」
「自然すぎますの!」
後日届いた広報誌には、屋敷の写真が大きく掲載されていました。
その隅に、ノアに引かれて走るわたくしも小さく写っています。
「主人も必要だったでしょう?」
「狙った写り方ではありませんけどね」
「写っていれば同じですわ!」
広報誌は、額へ入れて応接室に飾りました。
わたくしが小さすぎる点だけは、不満ですけれど。




