第57話:ノアを散歩させますわ!
ノアは、毎日散歩へ連れていく必要があります。
普段は橘か小春が担当していますが、本日はわたくしが行くことにしました。
「主人として当然ですわ!」
「引っ張られないでくださいね」
小春が太い綱を渡してきます。
「先日、背中へ乗ったときも無事でしたでしょう?」
「無事ではありましたけど」
門を出ると、ノアは嬉しそうに歩き始めました。
大きな身体。
揺れる尻尾。
通りすがりの人が、次々と振り返ります。
「大きい犬ですね」
「ええ。我が屋敷の番犬、ノアですわ!」
「かわいいねえ」
「触ってもいい?」
子どもたちが集まってきました。
「急に近づいてはいけませんの。まず手の匂いを嗅がせなさい」
わたくしが教えると、ノアは大人しく子どもたちの手へ鼻を近づけました。
「ふわふわ!」
「でっかい!」
「乗れそう!」
「乗ってはいけませんわ!」
わたくしは乗りましたけれど。
子どもたちと別れ、再び歩き始めます。
角を曲がったところで、ノアが急に足を止めました。
「どうしましたの?」
道の向こうから、小春が歩いてきます。
買い物帰りのようです。
「ノア」
小春が手を振った瞬間。
ノアが走り出しました。
「待ちなさいな!」
綱が強く引かれます。
「ちょ、速いですわ!」
わたくしは必死に踏ん張りましたが、靴が地面を滑りました。
転ぶ直前、小春がノアの首元を押さえます。
「お嬢様、大丈夫ですか?」
「……ぎりぎりですわ」
ノアは小春へ身体を寄せ、嬉しそうに尻尾を振っています。
「主人は、わたくしですのよ?」
「わん」
「返事だけは立派ですわね」
帰り道は、小春と二人で綱を持ちました。
近所の方から声をかけられるたび、ノアは尻尾を振ります。
「ノアちゃんのお姉さん」
先ほどの子どもが、後ろから呼びました。
「一ノ瀬麗奈ですわ!」
「麗奈お姉ちゃん!」
「……それなら許しますの」
ノアの散歩をしているうちに、わたくしの名前まで覚えられてしまいましたわ。




