第56話:草むしりへ参りますわ!
土曜日の朝八時。
わたくしは町内の公園に立っていました。
「本当に来ましたね」
小春が申します。
「来ると申したでしょう?」
「起きられないかと」
「だから目覚まし時計を3つも用意しましたの!」
「見事に全部止めていましたけど」
「最終的には起きましたわ!」
公園には、町内会の方々がすでに集まっていました。
軍手とごみ袋、鎌が用意されています。
「一ノ瀬さん、その格好で大丈夫?」
町内会長が、わたくしの服を見ました。
今日はドレスではありません。
動きやすい長袖と長ズボン。
つばの広い帽子。
「草むしりにドレスで来るほど、わたくしも無謀ではありませんの」
「似合ってるよ」
「ありがとうございます」
作業が始まりました。
公園の端に生えた草を抜き、ごみ袋へ入れていきます。
「お嬢様、意外と手際がいいですね」
「意外とは何ですの?」
「もっと一本ずつ眺めるかと」
「草むしりくらいできますわ!」
田舎では珍しい作業ではありませんでした。
口には出しませんけれど。
根元を持ち、土ごと引き抜く。
固いものは鎌で切る。
小春より、わたくしの方が早いくらいです。
「一ノ瀬さん、慣れてるねえ」
「少々、経験がありますの」
「お庭が広いから?」
「そ、そういうことですわ!」
危ないところでした。
作業開始から一時間。
公園は随分すっきりしました。
わたくしは汗を拭い、腰を伸ばします。
「疲れました?」
「少しだけ」
小春が水筒を渡してくれました。
「無理してません?」
「していませんわ」
「手、赤くなってますよ」
軍手を外すと、指先が少し赤くなっています。
「これくらい平気ですの」
「では、残りは私が」
「最後までやりますわ」
自分で引き受けた当番です。
途中で小春へ任せるつもりはありません。
作業が終わると、町内会長から缶の飲み物をもらいました。
「お疲れさま」
「ありがとうございます」
「またよろしくね」
「ええ」
帰り道。
「お嬢様」
「何ですの?」
「今日は言い訳しませんでしたね」
「何のことですの?」
「手が痛いのに、平気なふりをしていたことです」
小春が笑いました。
「帰ったら手当てします」
「お願いしますわ」
草むしりは、思っていたより悪くありませんでした。
朝が早いこと以外は。




