第53話:ここは何かが出るらしいですわ!
午後のお茶会。
アリサさんは紅茶を一口飲んだあと、庭の方へ視線を向けました。
「麗奈さん」
「何ですの?」
「ここ、出るらしいですわね」
「何が出るっていうのですの? ……お湯ですの?」
「出ると言ったら、定番はお化けじゃない。何よ、お湯って。温泉でも湧いてるの?」
「知りませんわ。昨日まで地下通路の存在すら知りませんでしたもの」
アリサさんが聞いた話によると、夜になるとわたくしの屋敷の庭の奥に白い影が立ち上るらしいのです。
近所に長く住む方から聞いたのだとか。
「昔から、この辺りでは有名だったそうですわ」
「わたくしは一度も聞いていませんの」
「最近越してきたばかりでしょう?」
「屋敷の主人ですのよ?」
「あら、屋敷を買うときの資料も読んでいなかった主人でしたわね」
それを言われると弱いですの。
夜。
わたくしとアリサさんは、小春と橘を連れて庭の奥へ向かいました。
ノアも一緒です。
先日見つけた離れの向こう。
木々が密集した場所から、確かに白いものが立ち上っています。
「……あれですの?」
「ええ」
「随分と輪郭の曖昧なお化けですわね」
「幽霊に輪郭を求めないでくださる?」
近づくにつれ、地面から水の流れる音が聞こえてきました。
白い影も、ゆらゆらと空へ昇っています。
ノアは怖がるどころか、地面へ伏せてくつろぎ始めました。
「番犬として、もう少し警戒なさい」
「わん」
橘が懐中電灯で地面を照らします。
石の隙間から、透明な水が流れ出していました。
「少々、温かいようです」
「温かい?」
小春が指先で触れます。
「本当です。お湯ですよ」
「お湯ですの!?」
わたくしは驚いて、その場へしゃがみ込みました。
「屋敷の庭から、お湯が出ていますわ!」
アリサさんが、怪訝そうにこちらを見ます。
「麗奈さん」
「何ですの?」
「最初に私が出ると言ったとき、『お湯ですの?』と言っていましたわよね」
「……わたくしが?」
「ええ」
「そのようなこと、申しましたかしら」
「あなた、自分で言ったことも覚えていませんの?」
「……忘れましたわ」
橘が購入時の資料を調べると、敷地の端に湧水があることだけは記載されていました。
成分も水温も未調査。
長年放置されていたため、草木に埋もれていたようです。
「まずは専門機関へ調査を依頼いたします」
「では、温泉と決まったわけではありませんのね」
「現時点では、温かい湧水でございます」
「十分ですわ! 露天風呂を造りますの!」
「離れを温泉宿にするのもよろしいですわね!」
「話が早すぎます」
屋敷へ戻る途中。
わたくしは急に足を止めました。
「……あ」
「どうしましたの?」
「思い出しましたわ」
「何を?」
「わたくし、最初に『お湯ですの?』と申していましたの」
「今さら思い出したんですの?」




