第52話:今日は何もしませんわ!
「本日は、何もしませんわ!」
朝食の席で宣言すると、小春が手を止めました。
「何もしないんですか?」
「ええ。完全な休養日ですの!」
ここ数日、買い物へ出かけ、香水を作り、地下通路まで探検しました。
お嬢様にも休息は必要です。
「では、お部屋で休まれますか?」
「そのつもりですわ」
食後。
わたくしは寝室の椅子へ座りました。
十分後。
「……暇ですわ」
何もしないというのは、思ったより難しいものです。
廊下へ出ると、小春が掃除をしていました。
「何をしていますの?」
「掃除です」
「見れば分かりますわ」
「今日は何もしないのでは?」
「きちんと仕事をしているか監視するだけですの!」
小春の後ろをついて歩きます。
しばらくすると、橘が書類を整理していました。
「それは何ですの?」
「屋敷の修繕にかかった費用の請求書でございます」
「見せなさい」
「お休みされるのでは?」
「少し確認するだけですわ!」
次に庭へ出ると、ノアが尻尾を振りながら駆け寄ってきました。
「遊びませんわよ。今日は休養日ですもの」
ノアは大きな玩具をくわえ、わたくしの足元へ置きました。
「……一度だけですわ」
投げる。
ノアが走る。
持ってくる。
「もう一度ですの?」
再び投げます。
気づけば、何度も繰り返していました。
「お嬢様」
小春が庭へ出てきました。
「全然休んでませんね」
「身体を動かした方が休まることもありますの!」
「書類も見てましたよね?」
「頭の運動ですわ!」
「掃除にもついてきました」
「監視がてらに屋敷内を散歩していただけですの!」
すべて言い訳してから、わたくしは少し考えました。
「……休むのも、難しいものですわね」
「何もしなくてもいいんですよ」
庭の椅子へ腰掛けます。
ノアが足元へ伏せました。
少し離れた日向では、シロが丸くなっています。
風が庭の木々を揺らし、暖かな陽射しが差し込みました。
「では、ここからは本当に何もしませんの」
「分かりました」
目を閉じます。
静かです。
何もしない時間というのも、悪くありません。
「小春」
「何ですか?」
「お菓子を持ってきてくださる?」
「何もしないのでは?」
「空腹には耐えられませんの!」
完全な休養には、まだ少し練習が必要なようですわ。




