第50話:アリサさんに貸しを作りますわ!
アリサさんが屋敷を訪れた日のこと。
珍しく、少し困った顔をしていました。
「どうしましたの?」
「実は、持ってきたはずの手袋が見当たりませんの」
「忘れ物ですの?」
「どこかで落としたのかもしれませんわ」
完璧なお嬢様にも、忘れ物をすることがあるようです。
わたくしは少し嬉しくなりました。
「仕方ありませんわね。わたくしの物を貸して差し上げますの!」
「よろしいんですの?」
「ええ。恩に着なさい!」
衣装部屋から、新しい手袋を持ってきます。
白い布地に、小さな薔薇の刺繍。
アリサさんが手を通すと、少しだけ大きいようでした。
「麗奈さん」
「何ですの?」
「指先が余っていますわ」
「あなたの手が小さいんですの!」
「麗奈さんが大きいのでは?」
「何ですって!?」
それでも、外へ出るには問題ありません。
アリサさんは手袋を見つめ、少し笑いました。
「ありがとうございます」
「珍しく素直ですわね」
「借りたのですから、当然でしょう?」
「これで、わたくしに一つ借りができましたわ!」
「何を要求するつもりですの?」
「まだ決めていませんの」
お菓子。
紅茶。
ゲームで一回だけ手加減。
いろいろ考えられます。
そのとき、橘が応接室へ入りました。
「九条院様。こちらを玄関でお預かりしておりました」
差し出したのは、手袋。
「あら」
「迎えの方が、お車に残っていたと」
アリサさんは自分の手袋を受け取りました。
「見つかりましたわ」
「では、貸しはどうなりますの!?」
「もうお借りする必要はありませんもの」
「一度借りたでしょう!?」
「数分だけですわ」
「時間の問題ではありませんの!」
アリサさんは、借りていた手袋を外そうとしました。
しかし少し考え、もう一度はめ直します。
「せっかくですから、今日はお借りしますわ」
「では、貸しは残りますのね?」
「小さな貸しですわよ」
「貸しは貸しですの!」
その日の夕方。
アリサさんは手袋を丁寧に畳み、小さな菓子箱と一緒に返してくれました。
「これは?」
「お礼ですわ」
「貸しを返したつもりですの?」
「ええ」
「では、わたくしがこの菓子を分けて差し上げたら、今度はあなたに貸しができますわね」
「どうして貸しを作り続けようとしますの!?」
結局、菓子は二人で半分ずつ食べました。




