第49話:わたくし専用の香りですわ!
お嬢様には、すれ違っただけで分かるような香りが必要です。
「わたくし専用の香水を作りますわ!」
用意したのは、薔薇。
柑橘。
どこかで拾ったいい匂いがする謎の木片。
それから、いくつかの香料。
「ご自分で作るんですか?」
小春が不安そうに尋ねました。
「混ぜればよろしいのでしょう?」
「そんな簡単ではないと思いますけど」
「料理より簡単ですわ!」
料理を得意とした覚えはありませんけれど。
まずは薔薇の香り。
「少し弱いですわね」
追加。
次に柑橘。
「爽やかさが足りませんの」
追加。
さらに謎の木片。
「気品が必要ですわ!」
追加。
完成した液体を小瓶へ移し、手首へ一滴つけました。
「どうですの?」
小春が顔を近づけます。
「……強いですね」
「華やかということですわ!」
「強いです」
「屋敷の広さに負けない香りが必要ですの!」
わたくしは首元と髪にも香水をつけました。
応接室へ入ると、橘が一瞬だけ動きを止めます。
「何か申したいことがありまして?」
「いいえ」
「正直に答えなさい」
「香りが非常に明確でございます」
「褒めていますの?」
「存在を見失うことはないかと」
その後、廊下を歩くたび、ノアがくしゃみをしました。
シロはわたくしを見るなり、別の部屋へ逃げます。
「失礼ですわね!」
窓を開けても、香りは消えません。
むしろ屋敷中へ広がっていきました。
「お嬢様」
小春が鼻を押さえながら申しました。
「少し薄めませんか?」
「……少しだけですわよ」
浴室で洗い流したあとも、髪にはまだ香りが残っていました。
翌朝。
橘が廊下の窓をすべて開けています。
「まだ残っていますの?」
「お嬢様がお通りになった場所が分かります」
「それはもう香水ではなく、足跡ですわ!」
専用の香りは完成しました。
ただし、取り扱いは要注意ですわ。




