第5話:これは必要経費ですわ!
屋敷には、威厳が必要です。
そこでわたくしは、玄関に飾る甲冑を注文しました。
全身を覆う黒銀の甲冑。
剣まで付属した、本格的な一品です。
「素晴らしいですわ!」
玄関ホールへ運び込まれた甲冑を前に、わたくしは腕を組みました。
「これで、我が屋敷の格式も上がりますわね」
「お嬢様」
橘が領収書を見ています。
「なんですの」
「こちらのお値段ですが」
「高級品ですもの。当然ですわ」
「屋根の修理費と同額です」
わたくしは甲冑を見ました。
次に、天井から落ちてくる雨水を見ました。
「甲冑は、雨を防げますわ」
「屋内で着用するおつもりですか」
「屋根へ立たせなさい」
「一部分しか防げません」
「では甲冑を増やしますの!」
「屋根を直してください」
小春が甲冑の周囲を歩きます。
「これ、邪魔ですね」
「邪魔ではありませんわ! 不審者から屋敷を守る守護騎士ですの!」
「動かないですよ」
「雰囲気で威圧しますわ」
そのとき。
甲冑が、ゆっくりと前へ傾き始めました。
「お嬢様、離れてください」
「わたくしの騎士が倒れそうになってますわ!」
わたくしは咄嗟に両手を伸ばしました。
重い。
想像の五倍は重い。
「ちょっ、助け、助けなさいな!」
甲冑を抱えたまま、わたくしは床へ押し倒されました。
金属音が屋敷中に響きます。
「お怪我は?」
橘が甲冑を持ち上げました。
「ありませんわ……」
「守護騎士に襲われましたね」
小春が申します。
「これは、忠誠心を試されたのですわ」
「負けてましたけど」
「負けてませんの!」
甲冑の兜が外れ、床を転がります。
中から、説明書が落ちました。
小春が拾い上げます。
「転倒防止金具を必ず取り付けてください、だそうです」
「先に言いなさいな!」
「説明書には書いてあります」
「注意書きとは、どうしていつも小さいんですの!」
橘が静かに答えました。
「読む方が少ないからでしょう」
「わたくしは読みますわ!」
「屋敷の注意書きは?」
「昔の話を持ち出すのは卑怯ですわ!」




