第42話:雨の日も優雅ですわ!
その日は、朝から雨が降っていました。
「庭へ出ますわ」
わたくしが申すと、小春は窓の外を見ました。
「雨ですよ」
「見れば分かりますの」
「何をしに?」
「雨の日の庭園を歩くんですわ!」
晴れた日の庭ばかり楽しむのは、真のお嬢様ではありません。
雨に濡れる薔薇。
水面を揺らす雫。
傘を差して静かに歩くわたくし。
絵になりますわ。
「小春、傘を」
「ご自分で持たないんですか?」
「お嬢様は、使用人に差してもらうものですの!」
玄関を出ると、小春がわたくしの横で傘を差しました。
悪くありません。
ですが、傘は一人用です。
「肩が濡れていますわ」
「二人で入ってますから」
「もう少し、こちらへ寄せなさい」
「私が濡れます」
「使用人の務めですの!」
「嫌です」
小春が傘をわたくしへ渡しました。
「ご自分でどうぞ」
「ちょっと!」
仕方なく、自分で傘を差します。
それでも庭園を歩けば、十分に優雅です。
「どうですの? 絵になるでしょう?」
「足元に気をつけてくださいね」
「分かっていますわ」
一歩進んだ瞬間。
ぬかるみに靴が沈みました。
「……」
「言ったばかりですよ」
「少々、土が柔らかかっただけですの」
靴を引き抜こうと力を込めます。
抜けません。
「小春」
「はい」
「手を貸しなさい」
「使用人の務めですか?」
「友人としてのお願いですわ!」
「そういうときだけ友人なんですね」
小春に引いてもらい、ようやく足が抜けました。
ところが勢い余って、後ろへよろけます。
後をついてきていたノアがすぐに身体を寄せ、わたくしを支えました。
「ノア……!」
「わん!」
「役に立ちましたね」
「当然ですわ。わたくしの番犬ですもの!」
その直後。
ノアが全身を大きく震わせました。
ぶるぶるぶるっ!
「きゃああっ!」
泥水が、わたくしのドレスへ飛び散ります。
雨の日の庭園は、とても風情がありました。
眺めているだけなら。




