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第38話:泥棒が入りましたわ!

「泥棒ですわ!」


 朝から、わたくしの叫び声が屋敷中に響き渡りました。


 小春と橘が、急いで寝室へ入ってきます。


「どうしたんですか?」


「なくなっていますの!」


「何がです?」


「いろいろですわ!」


 昨夜、机の上に置いていたはずの髪飾り。


 お気に入りの扇子。


 取っておいた焼き菓子。


 靴下の片方。


 それから。


「わ、わたくしの下着までありませんの!」


「声が大きいです」


「それどころではありませんわ! 下着泥棒ですのよ!?」


 小春が部屋を見回します。


「どこに置いていたんですか?」


「それが分かれば苦労しませんわ!」


「置いた場所も分からないんですね」


「昨日までは、ちゃんとありましたの!」


「昨日のどの時点です?」


「昨日ですわ!」


「範囲が広すぎます」


 細かいことばかり聞かないでくださる?


 物がなくなった。


 それだけで十分、事件ですの。


「橘、すぐに門を閉じなさい!」


「すでに閉まっております」


「では、屋敷の者を全員集めなさい!」


「ここに全員おります」


 わたくし。


 小春。


 橘。


 それから、窓辺で丸くなっているシロ。


 たしかに全員ですわ。


「……犯人は、まだ屋敷の中にいるかもしれませんの」


「私たちを疑ってます?」


「違いますわ! 可能性を広く考えているだけですの!」


 まずは寝室を捜しました。


 机の引き出し。


 ベッドの下。


 衣装棚。


 どこにもありません。


 次に応接室。


 食堂。


 廊下。


 音楽室。


 浴室。


 しかし、なくなった物は一つも見つかりませんでした。


「本当にありませんね」


 小春も、少しだけ真剣な顔になっています。


「でしょう!? だから最初から申しているんですの!」


「戸締まりに異常はございません」


 橘が窓や扉を確認しました。


「壊された形跡もありません」


「では、どうやって入ったんですの?」


「現時点では、何とも」


 窓も扉も閉まっている。


 それなのに、物だけが消えている。


 しかも髪飾りやお菓子だけでなく、靴下や下着まで。


「相手は、相当な手練れですわね」


「盗む物の選び方は妙ですけど」


「わたくしを困らせることが目的なんですの!」


 考えてみれば、以前から物が見つからなくなることはありました。


 扇子。


 鍵。


 読みかけの本。


 片方だけの手袋。


 あのときは、どこかへ置き忘れただけだと思っていましたけれど。


「まさか、以前から狙われていたんですの……?」


「お嬢様」


 橘が静かに申しました。


「原因が分からない以上、防犯対策を強化した方がよろしいかと」


「当然ですわ!」


 わたくしは扇子を開こうとして、扇子がなくなっていることを再び思い出しました。


「まず、門番を百人雇いますの!」


「多すぎます」


「では五十人!」


「玄関前に入りきりません」


「十人!」


「現実的ではありません」


「では、どうすればよろしいんですの!?」


 橘は少し考えたあと、答えました。


「番犬を迎えてはいかがでしょう」


「番犬?」


「はい。大きく、頼りになる犬を」


 お嬢様の屋敷を守る、忠実な番犬。


 悪くありませんわ。


「よろしいでしょう」


 わたくしは大きく頷きました。


「わたくしにふさわしい、気品があって賢くて、優雅な犬を連れてきなさい!」


「承知いたしました」


「ただし、大きすぎる子は駄目ですわよ」


 橘は一瞬だけ黙りました。


「善処いたします」


 その間が、少し気になりました。

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