第32話:ピアノを嗜みますわ!
お嬢様には、音楽の教養が必要です。
そこで、屋敷の音楽室に残されていた古いピアノを修理させました。
「本日より、ピアノを始めますわ!」
「弾いたことはあるんですか?」
小春が尋ねます。
「動画で見たことがありますの」
「ないんですね」
「鍵盤を押せば音が出るのでしょう?」
簡単ですわ。
わたくしは椅子へ腰掛け、両手で鍵盤を押しました。
じゃあん!
屋敷中に、不穏な音が響きます。
「少し調律が必要ですわね」
「昨日終わっています」
「では、ピアノとの相性ですの」
「お嬢様の腕です」
仕方なく、講師を呼びました。
「まずは右手だけで、ゆっくり弾いてみましょう」
「ド、レ、ミ……」
「よくできています」
「当然ですわ!」
「では、もう一度」
「まだ同じことをするんですの?」
「基礎ですから」
十分後。
「もっと華やかな曲を教えなさいな」
「基礎ができてからです」
「お嬢様に地味な練習は似合いませんの!」
「地味な練習を重ねなければ、華やかな演奏はできません」
正論でした。
腹立たしいですわ。
その日の夕方。
誰もいない音楽室で、わたくしは再び鍵盤へ指を置きました。
「ド、レ、ミ……」
ゆっくり。
何度も。
「練習していたんですね」
「ひゃあっ!?」
扉から小春が顔を出しています。
「違いますの! ピアノの動作確認ですわ!」
「明日も確認します?」
「当然ですの!」
翌日から毎日、屋敷に不器用な音階が響くようになりました。




