第3話:本物のお嬢様は床など磨きませんわ!
「腰が痛いですわ……」
掃除開始から、わずか十五分。
わたくしは玄関ホールの床に座り込んでいました。
「休憩には早いです」
メイドの小春が、容赦なく申します。
「休憩ではありませんの。床に残った汚れを、近距離から観察しているだけですわ」
「寝転がってますけど」
「視察ですの!」
屋敷の床は、信じられないほど汚れていました。
拭いても拭いても雑巾が黒くなります。
「お嬢様、本当に掃除したことないんですか?」
「ありますわよ!」
「いつです?」
「小学生のころですわ」
「何年前ですか」
「女性に年齢を尋ねるなんて無礼ですわ!」
「同い年くらいですよね?」
「お黙り!」
腹立たしいことに、小春はまったく怯みません。
ネットで読んだ物語では、メイドはもっと主人へ忠実だったはずですの。
「メイドなら、『お嬢様はお休みください。ここは私が』くらい言いなさいな」
「お嬢様はお休みください」
「そう、それでよろしいの」
「ただし、今日の夕食は抜きになります」
「なぜですの!?」
「掃除が終わらないので、料理する時間がありません」
「なんという横暴!」
「使用人が二人しかいないからです」
すべて、使用人が少ないせい。
つまり、わたくしは悪くありませんわ。
わたくしは立ち上がり、再び雑巾を握りました。
「仕方ありませんわね。これは掃除ではありませんの」
「では、何ですか?」
「領地の浄化ですわ!」
「玄関ですけど」
「細かいですわ!」
勢いよく床を拭きます。
右へ。
左へ。
さらに右へ。
そのまま雑巾が滑り、わたくしの身体も前へ滑りました。
「きゃああああっ!」
床の上を一直線に進み、玄関扉へ激突。
後ろで小春が拍手しました。
「速いですね、お嬢様」
「助けなさいな!」
「でも、その部分だけ綺麗になりました」
わたくしが滑った跡だけ、床が一本の道のように輝いています。
わたくしは立ち上がり、髪を整えました。
「……計算どおりですわ」
「では、残りも滑ります?」
「絶対に嫌ですわ!」




