第2話:使用人を百人雇いますわ!
お屋敷の玄関扉は、開けた瞬間に倒れました。
それでも、内部は思ったより立派でしたの。
広い玄関ホール。
天井から吊るされたシャンデリア。
左右へ伸びる大階段。
床に積もったフカフカな埃。
天井の隅を埋め尽くす蜘蛛の巣。
「掃除を始めます」
執事の橘が、淡々と告げました。
「掃除?」
「はい」
「誰が?」
「我々が」
「我々とは?」
「私と、小春と、お嬢様です」
橘の隣で、メイド服を着た少女が頭を下げます。
「メイドの小春です。よろしくお願いします」
わたくしと同じくらいの年齢でしょうか。
柔らかそうな茶色い髪に、少し眠そうな目。
ひどく普通ですわ。
「使用人は、お二人だけですの?」
「はい」
「少なすぎますわ!」
小説のお屋敷には、最低でも数十人はいるものです。
廊下に整列するメイド。
庭を整える庭師。
料理長。
御者。
門番。
謎の戦闘能力を持つ老執事。
「百人雇いなさい!」
「流石に給与を支払えません」
「では五十人!」
「無理です」
「十人!」
「厳しいかと」
「……あと一人」
「その一人分の給与で、屋根が直せます」
わたくしは天井を見上げました。
その瞬間、上から雨水が一滴落ちてきます。
額に直撃しましたわ。
「屋根修理を優先なさい!」
「かしこまりました」
「ですが、それでは誰が掃除をするんですの?」
橘が無言で雑巾を差し出しました。
わたくしは雑巾を見ます。
次に橘を見ます。
もう一度雑巾を見ました。
「わたくしは、お嬢様ですのよ?」
「存じております」
「お嬢様は、掃除などいたしませんわ」
「では、この屋敷では誰が掃除をするのでしょう」
橘。
小春。
わたくし。
三人。
「……二階はあなた方に任せますわ」
「お嬢様は?」
わたくしはドレスの裾を持ち上げました。
「一階を制圧いたしますの!」
「たった一人で?」
「お黙りなさい!」
こうして、憧れのお嬢様生活は、雑巾がけから始まりました。




