第1話:お嬢様、爆誕ですわ!
わたくし、一ノ瀬麗奈。
本日より、お嬢様になりますの。
理由は単純。
お金持ちになったからですわ!
数年前、部屋に引きこもりながら作ったサービスが、なぜか大企業に売れましたの。
友人はいない。
外出もしない。
会話相手は、ほとんど画面の向こう。
けれども、お金だけはある。
ならば、幼いころから憧れていたお嬢様になるしかありませんでしょう?
「こちらが、わたくしのお屋敷……!」
わたくしは大きな門の前で、胸を張りました。
門の向こうには、三階建ての洋館。
尖った屋根。
蔦の絡まる外壁。
割れた窓。
半分外れた雨どい。
玄関前には、腰まで伸びた雑草。
「……写真よりも、少々趣がありますわね」
「少々でしょうか」
隣に立つ執事の橘が申しました。
「古い建物には歴史が宿るものですの。むしろ、この退廃的な雰囲気こそ、本物のお屋敷の証ですわ!」
「築百二十七年です」
「完璧ではありませんの!」
「三十七年間、無人です」
「由緒がありますわ!」
「雨漏りが十二か所ございます」
「天然の噴水ですわ!」
言い切った直後、玄関上部から板が落ちてきました。
橘が静かにわたくしを引き寄せ、板を避けます。
「いま、屋根が落ちましたが」
「歓迎の演出ですわね」
「お嬢様」
「なんですの」
「購入の際、注意事項は確認されましたか?」
「当然でしょう?」
「現状渡し、とございましたが」
「……現在の状態で渡してくださるという意味でしょう?」
「そのままという意味です」
知っていましたわ。
もちろん。
わたくしは震える手で、屋敷の鍵を握りました。
「問題ありませんわ。お金ならありますもの!」
橘が手元の書類を確認します。
「屋敷の購入費と家具代で、予算の七割を使用しております」
「七割も残っているのですわね!」
「七割を使いました」
「……三割もありますのね!」
今日から始まる、優雅なお嬢様生活。
その第一歩として。
「んぐぐぐぐぐ……」
わたくしは、外れかけた玄関扉を二人がかりで持ち上げました。




