第20話:猫に名前をつけて差し上げますわ!
庭園を整えてから、あの白い猫が頻繁に姿を現すようになりました。
わたくしが近づけば威嚇するくせに、小春の足元では平然とくつろいでいます。
「納得できませんわ!」
「何がです?」
「あの猫ですの!」
テラスの前。
白猫は、小春に顎を撫でられて目を細めています。
「わたくしの庭なのに、わたくしへ懐かないなんて不敬ですわ!」
「猫に身分制度はありませんよ」
「では、本日から導入しますの!」
わたくしは猫の前へしゃがみました。
「あなたへ、高貴な名前を授けて差し上げますわ」
猫は欠伸をしました。
「白銀公爵エリザベート・フォン・ローゼンベルクですの!」
「長いですね」
「略して、エリザですわ」
猫は反応しません。
「エリザ」
無視。
「エリザベート」
無視。
「白銀公爵!」
猫は後ろ足で耳をかき始めました。
「聞いていますの!?」
小春が、何気なく声をかけます。
「シロ」
「にゃあ」
猫が振り返りました。
わたくしは固まりました。
「……いま、返事しましたわね?」
「しましたね」
「なぜですの!?」
「分かりやすいからでは?」
「わたくしが三十分かけて考えた名前ですのよ!」
「猫には関係ありません」
わたくしは猫へ向き直りました。
「あなたの名はエリザですの!」
「にゃあ」
「……いま返事しましたわ! エリザが返事を!ようやくわかりましたのね」
猫はそのまま、小春の膝へ乗りました。
「シロ」
「にゃあ」
「むきいいいいっ!」
腹立たしいですわ!
「では正式名称を、白銀公爵エリザベート・フォン・ローゼンベルク。通称シロにしましょう」
「通称の方しか使われなくなりますわ!」
「すでに。ですかね」
その日の夕方。
橘が猫用の皿を用意していました。
皿には、小さく《シロ》と書かれています。
「橘まで!?」
「実用性を優先いたしました」
「正式名称も書きなさいな!」
「皿に収まりません」
高貴な名前を授けたはずなのに。
屋敷の全員が、その猫をシロと呼びました。
わたくし以外は。




