第18話:昔のわたくしを話してはなりませんわ!
弟が我が屋敷へ来てからというもの、わたくしの威厳が危機にさらされています。
「姉ちゃん、昔は朝なんか全然起きんかったで」
「余計なことを言わないでくださる!?」
昼食の席。
弟は、小春へわたくしの過去を次々と話していました。
「目覚まし止めて、また寝るんよ」
「いまも同じですね」
「小春!」
「あと、掃除しろって言われたら、机の上の物を全部引き出しに突っ込んで終わり」
「それは効率的な収納ですの!」
「片づけとは言わんやろ」
橘まで、わずかに口元を緩めています。
このままでは、お嬢様として築き上げた完璧な印象が崩れてしまいますわ。
「弟」
「何?」
「昔のわたくしについて話すことを禁じますの」
「何で?」
「国家機密だからですわ!」
「どこの国家?」
「一ノ瀬領ですの!」
「庭しかないやん」
「広大な領地ですわ!」
小春が楽しそうに笑っています。
完全に面白がっていますわね。
「小春。午後のお茶を用意なさい」
「はい」
「わたくしは橘と修繕箇所を確認してきますの。弟へ妙な話を聞いてはなりませんわよ」
「分かりました」
「絶対ですのよ!」
念を押して、わたくしは橘と部屋を出ました。
廊下の角を曲がったあと、弟は庭へ出ました。
小春が紅茶を運んでくると、弟は整えられた花壇を眺めていました。
「すごい屋敷ですよね」
「最初は、もっと大変でした」
「やっぱり?」
「お嬢様も毎日、掃除や庭仕事をしています」
「姉ちゃんが?」
弟は驚いた顔をして、それから少し笑いました。
「……でも、安心しました」
「安心?」
「都会に出てからも、ちゃんとやれてるのか心配だったんです。姉ちゃん、一人で何でも抱え込むくせに、生活は結構めちゃくちゃなんで」
弟は、屋敷の方へ目を向けました。
「でも、ここでは一人じゃないんだなって」
小春は静かに頷きました。
「毎日、かなり騒がしいですけど」
「それは見てたら分かります」
弟は、少しだけ口元を緩めます。
「でも、あんな姉ちゃんは初めて見ました」
「昔は違ったんですか?」
「家では、もっと静かでした」
少し間を置いて、弟は続けます。
「姉ちゃんが楽しくやってるなら、それでいいです」
「何をこそこそ話していますの?」
わたくしは、二人の背後から声をかけました。
弟が振り返ります。
「姉ちゃんが昔からだらしないって話」
「やはり話していたんですのね!?」




