第13話︰急にライバルが現れましたわ!
その日の午後。
わたくしが応接室で紅茶を飲んでいると、屋敷の前に黒い車が止まりました。
「お客様です」
橘が静かに告げます。
「どなたですの?」
「九条院家のお嬢様だそうです」
聞いたことのない名前ですわ。
ですが、九条院。
いかにも本物らしい響きですこと。
「通しなさい」
「よろしいのですか?」
「当然ですわ。わたくしは、この屋敷の主人ですもの」
数分後。
応接室へ、一人の少女が入ってきました。
年齢は、わたくしと同じくらい。
淡い金色の髪を綺麗に巻き、上品な白いドレスを身につけています。
歩き方も姿勢も、妙に堂々としていました。
「あなたが、一ノ瀬麗奈さん?」
少女は扇子を閉じ、わたくしをまっすぐ見ました。
「ええ。そういうあなたは?」
「九条院アリサですわ」
名乗ったあと、アリサは応接室を見回しました。
壁のひび。
少し傾いた絵画。
床に置かれた雨漏り用の桶。
その視線が、ひどく気になりますの。
「ずいぶん……趣のあるお屋敷ですのね」
「由緒があると言ってくださる?」
「古いとは申しておりませんわ」
「そう聞こえましたの!」
アリサは向かいの椅子へ腰掛けました。
小春が紅茶を運んできます。
「それで、何のご用ですの?」
「最近、この辺りに妙なお嬢様が現れたと聞きまして」
「妙とは何ですの!」
「急に屋敷を買い、急に使用人を雇い、急にお嬢様を名乗り始めた方ですわ」
全部、わたくしですの。
ですが、認めるわけにはいきません。
「世間は噂好きですわね」
「ところで、一ノ瀬さん」
アリサがカップを持ち上げました。
「こちらの茶葉、何かお分かりになって?」
来ましたわ。
本物のお嬢様による試験。
当然、分かりません。
わたくしには、紅茶は紅茶ですの。
背後に立つ小春を見ると、さりげなく棚の缶を指差しました。
そこには小さく、ダージリンと書かれています。
「ダージリンですわ」
「まあ」
アリサの眉が、わずかに動きました。
「正解ですのね」
「当然でしょう?」
本当は小春の正解ですわ。
「では、こちらのお菓子は?」
銀皿の上には、小さく焼かれた菓子が並んでいます。
名前など知りません。
橘を見ると、口元だけで何かを伝えています。
ま、ど、れーぬ。
「マドレーヌですわ!」
「……よくご存じですのね」
「バカにされたものですわ」
アリサは少し悔しそうに唇を尖らせました。
どうやら本当に、わたくしを試しに来たようです。
「来週、我が家でお茶会を開きますわ」
「お茶会?」
「あなたにも、特別に参加を許して差し上げますの」
「許していただかなくても結構ですわ!」
「あら。まさか、怖いのかしら?」
「行きますわよ!」
反射的に答えてしまいました。
アリサは満足そうに、扇子で口元を隠します。
「では、楽しみにしておりますわ」
その顔。
完全に勝負を挑んでいますの。
「こちらこそ」
わたくしも負けじと微笑みました。
「後悔させて差し上げますわ!」
「何をですの?」
「……参加を許したことをですわ!」
アリサが帰ったあと。
わたくしは椅子へ崩れ落ちました。
「小春」
「はい」
「来週までに、紅茶とお菓子を全部覚えますわ」
「全部は無理です」
「では、お嬢様らしいものだけですの!」
「かなりありますよ」
わたくしは頭を抱えました。
こうして、わたくしの前に。
急に、ライバルが現れたのでした。




