第12話:お嬢様の公式アカウントを開設しますわ!
立派なお嬢様には、世間へその名を知らしめる義務があります。
かつての貴族令嬢は、舞踏会や社交界で名声を築いたのでしょう。
しかし、いまは現代。
時代に合わせた社交場が必要ですわ。
「というわけで、公式アカウントを開設しますの!」
昼食後。
わたくしは食卓へスマートフォンを置き、高らかに宣言しました。
「もうアカウント持ってますよね?」
向かいに座る小春が申します。
「あれは個人用ですの」
「一日中、猫の写真を見てるやつですか?」
「領民の暮らしを視察するためのものですわ!」
「猫は領民なんです?」
「我が領地ではそうですの!」
小春は理解していない顔でした。
ですが、構ってはいられません。
今回作るのは、麗奈個人のものではない。
由緒ある我が屋敷と、その当主であるわたくしの公式アカウントです。
「まずは名前ですわね」
わたくしは入力欄へ指を滑らせました。
《麗奈お嬢様公式》
「そのままですね」
「分かりやすさは大切ですの」
「自分でお嬢様って付けるんですか?」
「事実ですもの!」
続いて、プロフィール。
《広大な領地と由緒ある屋敷を治める令嬢。趣味は紅茶と舞踏会。庶民の暮らしにも関心がありますわ》
「広大な領地って、雑草だらけの庭ですよね」
「広大なのは事実ですわ」
「舞踏会、したことないですよね」
「今後のやる予定ですの!」
「紅茶も失敗してましたけど」
「あなたは細かいことばかり覚えていますわね!」
プロフィール画像には、昨日撮影したわたくしの写真を設定しました。
お気に入りのドレス。
優雅に開いた扇。
少し顎を上げた、完璧なお嬢様らしい表情。
「ふふん。我ながら隙がありませんわ」
「後ろに雑巾が写ってますよ」
「……消しゴムマジックとやらで消しなさい」
「そもそも掃除中に撮るからですよ」
画像を切り抜き、投稿を作ります。
最初の言葉は重要。
格式と気品に満ちた、歴史に残る挨拶でなくてはなりません。
十分ほど悩んだ末、わたくしは投稿しました。
《ごきげんよう。わたくしですわ!》
「誰ですか?」
「わたくしですわ!」
「初めて見る人には分かりませんよ」
「プロフィールを見れば分かりますの!」
投稿から一分。
反応はありません。
五分。
まだありません。
十分。
何もありませんわ。
「故障かしら」
「開設したばかりですから」
「公式ですのよ?」
「自称ですけどね」
「公式とは、本人が認めれば公式ですわ!」
さらに五分後。
通知が一件届きました。
「来ましたわ!」
初めての反応。
初めての支持者。
記念すべき、我が社交界の第一歩です。
期待に胸を膨らませ、通知を開きました。
小春が、わたくしの投稿へ「いいね」を押していました。
「あなたですの!?」
「誰もいなくてかわいそうだったので」
「同情で押すものではありませんわ!」
「じゃあ、取り消しますね」
「待ちなさい!」
小春が指を止めます。
わたくしは視線をそらしました。
「……公式アカウントの威厳に関わりますので、そのままにしておきなさい」
「はいはい」
「あと、フォローもしなさい」
「お願いの仕方が偉そうですね」
「使用人として当然の務めですの!」
こうして、わたくしの公式アカウントは始動しました。
フォロワー、一名。
もちろん、最初から計画どおりですわ。




