第11話︰夜ふかしなんてしてませんわ!
お嬢様たるもの、夜更かしなどいたしません。
夜は早く床に就き、朝日とともに目覚める。
規則正しい生活こそ、気品ある令嬢の基本ですわ。
「というわけで、わたくしはもう休みますの」
午後十時。
わたくしは小春と橘へそう宣言し、優雅に寝室へ戻りました。
「おやすみなさいませ、お嬢様」
「ええ。あなた方も、あまり遅くまで起きていてはいけませんわよ」
扉を閉める。
ベッドへ入る。
ランプを消す。
完璧ですわ。
わたくしは布団の中で、そっとスマートフォンを取り出しました。
眠る前に、少しだけ情報収集をするだけですの。
お嬢様として世間の流行を把握しておくことは、大切な務めですもの。
動画を一本。
続けて、もう一本。
その関連動画を一本。
さらに、その下に表示された猫の動画を一本。
「……この猫、丸くて可愛すぎますわね」
気づけば、画面には午前零時四十分と表示されていました。
「まだ零時ですのね」
昔のわたくしなら、まだ夜の始まりですわ。
しかし、いまのわたくしはお嬢様。
そろそろ眠らなくてはなりません。
そう思った直後、扉が開きました。
「お嬢様」
「ひゃあっ!?」
慌ててスマートフォンを布団の中へ隠します。
小春が、じっとこちらを見ていました。
「まだ起きてたんですか?」
「起きていませんわ」
「喋ってますけど」
「寝言ですの」
「目も開いてます」
「目を開けて眠る高等技術ですわ。私ともなればこんなこと朝飯前ですわよ」
小春がベッドの脇へ近づきました。
布団の中から、動画の音声が流れます。
『かわいい猫ちゃんの――』
わたくしは素早く停止しました。
「領地の情報収集ですの」
「猫の動画でしたよね?」
「動物を慈しむ心は、貴族の教養ですわ!」
「さっき丸くて可愛いって言ってましたけど」
「感想を述べただけですの!」
小春はため息をつき、ベッドの横へ置かれたスマートフォンを取り上げました。
「お預かりします」
「なっ、返しなさいな!」
「明日の朝に返します」
「これは横暴ですわ! 使用人による反乱ですの!」
「明日も昼まで寝るつもりですか?」
「明日こそ、日の出とともに起きますわ!」
小春はまったく信用していない顔で、スマートフォンを持って部屋を出ていきました。
「おやすみなさい、お嬢様」
「ちょっ……」
扉が閉まります。
静かになった寝室で、わたくしは天井を見上げました。
スマートフォンがない。
動画も見られない。
通知も確認できない。
「眠れませんわ……」
そのまま一時間ほど寝返りを繰り返し。
ようやく眠りについたのは、午前二時を過ぎてからでした。
翌朝。
小春が寝室へ入ると、わたくしは布団へ潜ったまま動かなかったそうです。
「お嬢様、朝ですよ」
「……あと五分ですの」
お嬢様の夜は短く。
朝は、やはり遠いのでした。




