表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
11/16

第11話︰夜ふかしなんてしてませんわ!

 お嬢様たるもの、夜更かしなどいたしません。


 夜は早く床に就き、朝日とともに目覚める。


 規則正しい生活こそ、気品ある令嬢の基本ですわ。


「というわけで、わたくしはもう休みますの」


 午後十時。


 わたくしは小春と橘へそう宣言し、優雅に寝室へ戻りました。


「おやすみなさいませ、お嬢様」


「ええ。あなた方も、あまり遅くまで起きていてはいけませんわよ」


 扉を閉める。


 ベッドへ入る。


 ランプを消す。


 完璧ですわ。


 わたくしは布団の中で、そっとスマートフォンを取り出しました。


 眠る前に、少しだけ情報収集をするだけですの。


 お嬢様として世間の流行を把握しておくことは、大切な務めですもの。


 動画を一本。


 続けて、もう一本。


 その関連動画を一本。


 さらに、その下に表示された猫の動画を一本。


「……この猫、丸くて可愛すぎますわね」


 気づけば、画面には午前零時四十分と表示されていました。


「まだ零時ですのね」


 昔のわたくしなら、まだ夜の始まりですわ。


 しかし、いまのわたくしはお嬢様。


 そろそろ眠らなくてはなりません。


 そう思った直後、扉が開きました。


「お嬢様」


「ひゃあっ!?」


 慌ててスマートフォンを布団の中へ隠します。


 小春が、じっとこちらを見ていました。


「まだ起きてたんですか?」


「起きていませんわ」


「喋ってますけど」


「寝言ですの」


「目も開いてます」


「目を開けて眠る高等技術ですわ。私ともなればこんなこと朝飯前ですわよ」


 小春がベッドの脇へ近づきました。


 布団の中から、動画の音声が流れます。


『かわいい猫ちゃんの――』


 わたくしは素早く停止しました。


「領地の情報収集ですの」


「猫の動画でしたよね?」


「動物を慈しむ心は、貴族の教養ですわ!」


「さっき丸くて可愛いって言ってましたけど」


「感想を述べただけですの!」


 小春はため息をつき、ベッドの横へ置かれたスマートフォンを取り上げました。


「お預かりします」


「なっ、返しなさいな!」


「明日の朝に返します」


「これは横暴ですわ! 使用人による反乱ですの!」


「明日も昼まで寝るつもりですか?」


「明日こそ、日の出とともに起きますわ!」


 小春はまったく信用していない顔で、スマートフォンを持って部屋を出ていきました。


「おやすみなさい、お嬢様」


「ちょっ……」


 扉が閉まります。


 静かになった寝室で、わたくしは天井を見上げました。


 スマートフォンがない。


 動画も見られない。


 通知も確認できない。


「眠れませんわ……」


 そのまま一時間ほど寝返りを繰り返し。


 ようやく眠りについたのは、午前二時を過ぎてからでした。


 翌朝。


 小春が寝室へ入ると、わたくしは布団へ潜ったまま動かなかったそうです。


「お嬢様、朝ですよ」


「……あと五分ですの」


 お嬢様の夜は短く。


 朝は、やはり遠いのでした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ