第10話:わたくし、立派なお嬢様ですの!
お屋敷へ来て、まだ一日。
購入したお屋敷は、とても年季が入っていました。
床掃除では転びました。
自分で淹れた紅茶は苦すぎました。
甲冑には押し倒されました。
朝は起きられず、庭では猫に泥を付けられ、犬用の玉座まで買いました。
けれども。
「悪くありませんわね」
夜。
わたくしは一人、玄関ホールへ立っていました。
掃除した床は、まだ一部しか綺麗になっていません。
シャンデリアも半分は灯っていません。
天井からは雨水が落ちています。
思い描いたお嬢様生活とは、かなり違いました。
もっと優雅で。
もっと華やかで。
何もしなくても、すべてが整っていると思っていましたのに。
「お嬢様」
橘が後ろから声をかけました。
「まだ起きていらしたのですか」
「領地の視察ですわ」
「玄関ですが」
「このやり取り、二度目ですわね」
小春も毛布を持って現れました。
「お嬢様、風邪をひきますよ」
「わたくしを子ども扱いしないでくださる?」
「はいはい」
「返事が軽いですわ!」
小春が、わたくしの肩へ毛布を掛けます。
「明日は、二階を掃除ですね」
「明日もするんですの?」
「終わってませんから」
「使用人を増やしますわ」
「お金は?」
「甲冑と犬用玉座を売りますの」
「少し成長しましたね」
「最初から計画どおりですわ!」
二人が笑います。
わたくしも、少しだけ笑いました。
一人で画面を見ていたころ、こんなふうに誰かと一日を過ごすことはありませんでした。
失敗ばかりでしたけれど。
思ったより、悪くありません。
「明日は、完璧なお嬢様になりますわ!」
「無理だと思います」
「小春!」
「では、立派なお嬢様に」
「もう立派ですの!」
その瞬間。
天井から落ちた雨水が、わたくしの頭へ直撃しました。
「橘……明日、屋根を最優先で直しなさい」
「かしこまりました」
憧れのお嬢様生活、第一日目。
優雅さは、まだありません。
ですが、屋敷と使用人と、少しだけ賑やかな毎日は手に入りました。
明日こそは、きっと。
きっと完璧なお嬢様になってみせますわ!




