謎の石像
「おい、そこ! 何を痴話喧嘩している! 前方からオークの群れだぞ!」
「あっ、すみません! いきます!」
ガレンさんの鋭い声に、エリアリアさんが咄嗟に白銀の剣を構えて前に出る。
彼女は迷いなく踏み込み、オークの群れを次々と鮮やかに斬り伏せていった。その無駄のない動きを見たガレンさんが、感心したように顎を撫でる。
「ほう。見事な太刀筋だ。剣の理合をよく理解している。**まるで3段や4段の昇段審査で求められるような、基本に忠実で美しい『形』**だな。日頃から修練を怠っていない証拠だ」
「あ、ありがとうございます!」
「……フン。どうせ夜な夜なアレンに剣の素振りを褒めてもらって、ニヤニヤしながら練習しているだけでしょうに。気持ち悪い」
「なっ、なんでそれを……っ! み、ミラン! あんた、まさか宿屋の窓から覗いて……っ!?」
「愛です」
「ストーカーよ!!」
調査の道中は、常にこんな調子だった。
僕がガレンさんの荷物まで丁寧に収納し、温かいお茶を完璧なタイミングで提供したことで「君、冒険者を辞めてギルド職員にならないか?」とスカウトされたりもしたが、その度に4人の女性陣から「「「「絶対にダメ(です)!!」」」」と凄まじい殺気を向けられ、ガレンさんが冷や汗をかく一幕もあった。
やがて、僕たちは迷宮の下層——かつてアビス・ベヒーモスと死闘を繰り広げた、巨大な広間へと辿り着いた。
「ここです。ここで、突如空間が歪み、あの化け物が現れました」
エリアリアさんの報告を受け、ガレンさんが慎重に広間の中央へと足を踏み入れる。
僕たちも周囲を警戒しながらそれに続いた。
広間は静まり返っており、魔物の気配はない。しかし、前回ここに来た時には「絶対になかったはずのモノ」が、そこには鎮座していた。
「……なんだ、あれは」
ガレンさんが足を止め、目を細めた。
広間の最奥。薄暗い緑色の燐光に照らされるようにして、奇妙な石像が一つ、ポツンと置かれていたのだ。
「前回は、あんなものありませんでしたよ……?」
僕が恐る恐る近づくと、その石像の異様な造形が明らかになった。
神仏を模したものでも、魔物を象ったものでもない。それは、どこか古い書物に記されている『怪談』にでも出てきそうな、顔のない不気味な僧侶のような姿をしていた。
表面にはびっしりと、見たこともない言語の呪符のような文様が彫り込まれている。
「……妙ですね」
いつの間にか僕の隣に来ていたミランが、タロットカードを石像に向けてかざした。
「この石像から、微弱ですが……あの『アビス・ベヒーモス』と同じ、狂った魔力の残滓を感じます」
「なんだと? つまり、これが厄災を呼び寄せた元凶だというのか?」
ガレンさんが剣の柄に手をかけ、警戒を強める。
戦乙女の3人も一斉に武器を構え、僕をかばうように陣形を組んだ。
「だとしたら、ただの石像じゃないわ。誰かが意図的にこれを設置して、ダンジョンに化け物を呼び込んだ『召喚の楔』のようなものかもしれないわね」
セレナが杖の先を光らせながら、冷静に分析する。
その時だった。
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