レベルを上げて物理で殴る
ピキッ……。
静寂に包まれた広間に、石像にヒビが入る乾いた音が響いた。
顔のない石像の頭部が、まるで僕たちを見下ろすように、ゆっくりと、ギギギ……と不気味な音を立てて動き始めたのだ。
「動いた!? 皆、下がって!」
エリアリアさんが叫ぶ。
さらに石像の表面に刻まれた呪符の文様が、禍々しい赤色に発光し始める。
空間が歪み、あの時と同じ、強大な厄災の気配が広間を満たそうとしていた。
明らかにマズい。また、あんな化け物が出てくるなんてことになれば、今度こそ全滅——
「ああっ! アレン、危ない!!」
「えっ?」
リティの悲鳴。
僕が気づいた時には、なぜかミランが、石像と僕の間に飛び出していた。
ヤンデレとはいえ、かつての後衛職。彼女が自ら前に出るなんてあり得ない。
「ミランさん!?」
「ふふっ……アレン。見ていてください。私こそが、あなたを守るのにふさわしい唯一の存在だということを……ッ!」
彼女は恍惚とした表情で、石像に向かって杖を振り上げた。
そして、まさかの行動に出る。
「えいっ」
ガンッ!!!!
魔法を唱えるでもなく。
聖なる祈りを捧げるでもなく。
ミランは、僕が毎晩ピカピカに磨き上げていたその純銀の杖の『物理的な質量』をもって、発光し始めた石像の頭部をフルスイングでぶん殴ったのだ。
「……え?」
「「「「は?」」」」
僕と戦乙女たち、そして歴戦のガレン室長の声が綺麗にハモった。
バキィッ! という快音と共に、怪談染みた不気味な石像の頭部は、ピンボールのように広間の壁へと飛んでいき——粉々に砕け散った。
赤く発光していた呪符の光は消え失せ、歪みかけていた空間もスン……と元に戻る。
「ふぅ。不快な石像ですね。私とアレンの愛の空間を邪魔するなんて」
杖についた石の粉を払いながら、ミランがふわりと微笑む。
圧倒的な暴力(物理)による、元凶の破壊。
恐怖もへったくれもない、あまりにも強引すぎる解決法だった。
果たして、これは一体誰の仕業だったのか?
そして、この超絶物理特化のヤミ僧侶を抱え込んだまま、僕はこの先どうやって生き延びていけばいいのか?
……とりあえず、今夜のタロット占いの結果が『無事に家に帰れる』であることを、僕は強く、強く祈ったのだった。
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