おかあ……さん?
氷の空洞に駆け戻った僕は、息を切らしながら巨大な白い狼を見上げた。
「フェンリルさん! 見つけましたよ、娘さん!」
僕の報告に、フェンリルはピンと耳を立て、立ち上がった。
「おお、本当か! よくやってくれた。さあ、詳しく話を聞かせて……ん?」
フェンリルはふいと言葉を区切り、巨大な鼻先を僕の首筋へと近づけてきた。スンスン、と冷たい息が僕の衣服や頬をかすめる。
「……フェンリル、さん?」
「おや。お前……ずいぶんと濃く、うちの娘の『匂い』が染み付いているな」
フェンリルの青い瞳が、面白がるように細められた。威厳ある大妖の顔に、なんとも言えないニヤニヤとした笑みが浮かぶ。
「ほうほう。匂いどころか、ずいぶんと親密な印までつけてもらったようじゃないか。やるねぇ、小僧。ただのお使いかと思えば、まさかうちの気難しい娘をあっさりと落とすとは」
「い、いや! 違いますって! やめてくださいよ!」
僕は顔を真っ赤にして、ぶんぶんと両手を振った。
落としたどころか、完全に主導権を握られて朝まで、されていたなんて、娘を持つ親の前で言えるわけがない。
「これはその、なりゆきというか、罠にかかって不可抗力で……!」
「くくっ、言い訳する姿も初々しいねぇ。まあいい、あの頑固な娘がお前を気に入ったというなら、親としては安心だ。後でじっくり『義理の息子』として酒でも飲みながら話を聞かせてもらおうか」
「だから誤解ですってば……!」
からかってくる大妖の言葉に、僕は居たたまれなくなって足踏みをした。
これ以上この話題を引っ張られると、精神的に持たない。
「と、とにかく! 娘さんは、森を守る役目があるからここには来られないそうです。だから、僕がフェンリルさんをあっちの森へ案内します!」
「なるほど、あの子らしい。よし、ならば私の魔法で直接向かおう。お前の記憶を頼りに座標を合わせるぞ」
フェンリルの足元に、巨大な青白い魔法陣が展開された。
冷たい魔力の風が渦を巻き、僕たちの体を包み込んでいく。
「しっかり掴まっていな。義理の息子よ」
「アレンです!」
僕の抗議は転移のまばゆい光にかき消され、僕とフェンリルは娘さんの待つ山神の森へとワープしていった。
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