張り合っちゃってさ♡
西の大陸に入って数日後。街道から少し外れた森の開けた場所で、僕たちは大所帯となって初めての合同野営を迎えていた。
「さて、そろそろ夕飯の準備をして、テントを張ろうか」
僕が荷物を下ろして声をかけた瞬間、背後でバチバチと激しい火花が散る音がした。
「アレン、夕飯の支度なら私たちが手伝うわ! 見て、王都の職人に特注させた最新型の魔石コンロよ。火加減も自動で調整してくれるの」
エリアリアさんがドヤ顔で銀色に輝く調理器具を取り出すと、クラリスさんも得意げに胸を張る。
「食材も、私の商会から取り寄せた高級霜降り肉と、貴重な香辛料が揃っておりますわ。これで、アレン様の手を煩わせることなく素晴らしいお食事が作れます!」
すると、向かい側に陣取っていたクオンが、ふさふさの尾を揺らしながら鼻で笑った。
「ふん、大自然の真ん中でそんな玩具に頼るとは、人間の小娘どもは風情を知らぬな。おいゴウ、あれを出してやれ」
「おうっ! アニチャン、森の奥で『幻の黄金キノコ』と、丸々と太った大猪を捕まえてきたぞ!」
どすんと地響きを立てて巨大な獲物を置くゴウ。さらにクオンが青白い狐火を指先に浮かべる。
「火加減など、妾の妖術を使えば思いのままだ。アレン、こちらの新鮮な食材と妾の火で、野趣あふれる飯を作ろうではないか」
「ちょっと! アレンは上品な味付けが好きなのよ!」
「馬鹿め、アレンは妾たちと大和国で大自然の味を堪能してきたのだ!」
料理の手伝いを巡る火花は、そのまま「寝床の場所取り」へと飛び火した。
「ご飯の後は、私が持ってきたこの『特製シルクの天蓋付き魔道具テント』で寝るんだから! 中はふかふかのベッドなんだよ!」
リティさんが王都の高級宿をそのまま持ってきたような豪華なテントを広げると、僕の首元にいたカザネが「シュルル」と涼しげな声で反論する。
「作り物の寝床など窮屈なだけじゃ。アレンはわらわのひんやりとした鱗と、クオンの温かい毛並みに包まれて眠るのが好きなんじゃよ。なあ、レン?」
「キュウイッ!」
レンも「僕のお腹の上が心地いいはずだよ!」と言わんばかりに胸を張る。
右を見れば高級魔道具と上質な品々を掲げるヒロインたち。左を見れば大自然の恵みと自慢のモフモフをアピールする妖怪組。
「さあアレン! どっちを選ぶの(じゃ)!?」
全員の期待に満ちた視線が、中央で板挟みになっている僕に集中した。
「……ええと。どっちも、すごく魅力的だね」
僕は苦笑しながら【限定空間収納】を展開した。
「だから、みんなのいいところを、全部一緒に使わせてもらうよ」
僕はまず、ゴウが獲ってきた大猪の肉と黄金キノコを素早く捌いた。それをクラリスさんの持ってきた高級魔石コンロに乗せた大鍋に投入する。
「クオン、コンロの魔石の補助として、鍋の底全体を包むように狐火を当ててくれる? セレナさんは、お肉が柔らかくなるように少しだけ水魔術で水分を足してほしいな」
「え、ええ。これくらいなら……」
「ふん、妾の火のコントロールを見せてやろう」
人間の魔道具と大妖の火、そして王都の香辛料と幻のキノコ。
本来なら交わることのない二つの素材が、僕のスキルによる温度管理と調合によって見事に融合し、辺りにとろけるような良い匂いを漂わせ始めた。
「よし、特製『黄金キノコと大猪の煮込みシチュー』の完成だよ」
僕が人数分の器によそって手渡すと、一口食べた全員の目がパァッと見開かれた。
「……美味しいっ! 猪のお肉が王都の高級牛みたいに柔らかくて、でも野性の旨味がしっかり残ってるわ!」
「人間の香辛料も悪くないのう。キノコの出汁と合わさって、いくらでも腹に入りそうじゃ」
さっきまでいがみ合っていた両陣営が、夢中でシチューを頬張りながら、お互いの持ってきた素材の良さを素直に認め合っている。
そして食後。
僕はリティさんの豪華な魔道具テントの床に、ゴウが集めてくれた香りの良い薬草と柔らかい落ち葉を敷き詰め、その上に王都のシルクのシーツをふわりと掛けた。
「テントの温度調整は切っておくね。その代わり……」
僕が合図すると、レンとクオンがテントの中に入り、ふかふかの体と尻尾を丸めて、大きくて温かい天然の湯たんぽになってくれた。
「これで、風を防げるふかふかのベッドと、モフモフの温かさの両方が楽しめるよ」
夜も更けた頃。
広々としたテントの中は、信じられないほど平和な空気に包まれていた。
僕の右腕にはエリアリアさんが安心しきった顔で抱きつき、左側にはリティさんが丸くなっている。首元にはカザネがひんやりと巻きつき、お腹の上ではレンがすうすうと寝息を立て、頭の下にはクオンのふさふさの尻尾が枕代わりに敷かれている。
「……アレン。あなたって人は、本当に……」
寝袋の中から僕を見つめるセレナさんが、呆れたような、でもとても幸せそうな笑みを浮かべて呟いた。
「どんなに反発し合っていても、あなたの手にかかれば、みんな綺麗にまとまってしまうのね」
「僕はただ、美味しいものを食べて、みんなで温かく眠りたかっただけですよ」
誰もが僕の作り出した心地よい空間にすっかり骨抜きにされ、争う気力すら手放して深い眠りに落ちていく。
少し重たくて、とても騒がしくて、でもびっくりするくらい温かい。新しい仲間たちと過ごす初めての合同野営は、こうして静かに夜の闇へと溶けていった。




