すれ違い続ける二組
東の果て、大和国。
かつてアレンが土砂崩れから人々を救い、そして彼らから心無い罵声を浴びせられたあの村の跡地に、隕石でも墜落したかのような凄まじい魔力の旋風が降り立った。
「ハァ、ハァ……ッ! 着いたわ、ついに……ここが大和国よ!」
神滅の聖剣を杖代わりにし、息を切らして立ち上がったのはエリアリアだった。
その後ろには、大陸を横断する道中、行く手を阻む魔物や地形を文字通り『山を削り、海を割る』勢いで粉砕してきたリティ、セレナ、ミラン、クラリスの姿がある。全員、高級な装備は泥と魔物の返り血で汚れ、目には深い隈ができ、尋常ではない執念のオーラを漂わせていた。
彼女たちの非常識な登場に、仮設住宅の復旧作業をしていた村人たちは悲鳴を上げて震え上がった。
エリアリアは殺気立つ瞳のまま、一番近くにいた村の長の胸ぐらをガシッと掴み上げた。
「答えなさい! 漆黒の髪をした、優しくて、世界で一番お茶を淹れるのが上手い男の子を見なかった!? 純白の魔獣を連れているはずよ!」
長はガチガチと歯の根を鳴らしながらも、その特徴を聞いて顔を歪ませた。
「あ、あの化け物どものことか……! 役立たずどころか、山を怒らせてこの村に厄災をもたらした悪魔どもじゃ! どこへ行ったかなど知らん、とっとと——」
——その瞬間。
村を包む空気が、絶対零度よりも冷たく凍りついた。
「…………役立たず?」
セレナの瞳から一切の光が消え、周囲の地面がピキピキと音を立てて凍結し始める。
ミランが純銀の杖を静かに天へと掲げ、空に巨大な浄化の魔法陣が五つ、十と重なっていく。リティの双剣がギリリと鳴り、クラリスが爆発魔道具を無表情で取り出した。
「私たちのアレンに向かって……厄災? 役立たず、ですって……?」
「あの子が、どれだけ繊細で優しい心を持っているか……貴様らのような泥水以下の存在に、理解できるはずがないわね」
「主神アレンを冒涜した罪、万死では足りません。この土地ごと浄化します」
エリアリアが、神滅の聖剣の切っ先を、へたり込む長の鼻先にピタリと突きつけた。
その顔には、魔王すら震え上がるような極北の笑みが張り付いている。
「さあ。私たちの大切なアレンに何をしたのか……知っていること、全部吐きなさい」
大和国の小さな村に、神龍の怒りすら可愛く思えるほどの、理不尽で凶悪な『最凶ヒロインたちによる尋問』の嵐が吹き荒れようとしていた。
一方その頃。
大和国の港から出航し、西の大陸へと向かうのどかな街道を、アレンたちは秋のピクニックのような軽い足取りで進んでいた。
「キュウゥ……」
「ごめんね、レン。ゴウが大きすぎて、さすがに背中に乗って飛ぶのは無理みたいだね」
僕が苦笑しながら撫でると、レンは少し申し訳なさそうに鼻先をすり寄せてきた。
これまでのようにレンの背中に乗って空を飛べば早いのだが、いくら神話級の古龍とはいえ、体重数トン・身長三メートルの筋肉だるまの赤鬼を乗せて長距離を飛ぶのは物理的に不可能だったのだ。
「オデ、重くてごめんな……レンチャン」
「気にしてないよ。それに、空を飛んじゃうと道中の美味しいものを見逃しちゃうからね。たまにはこうして、みんなでのんびり歩いて行くのも楽しいじゃないか」
落ち込むゴウの太い腕をぽんぽんと叩き、僕は【限定空間収納】から取り出した特製のお弁当箱を広げた。
「お昼は、港町で買った新鮮な魚介の天ぷらと、アサリのお味噌汁だよ」
「おおっ! アニチャンのメシ! オデ、歩くの大好き!」
「シュルル……アレンの飯があるなら、地の果てまで歩くのも悪くないのう」
一瞬で機嫌を直したゴウが天ぷらを山盛りに頬張り、首元に巻きついたカザネが器用に海老の尻尾をついばむ。クオンはキツネの姿で僕の膝の上に丸くなり、「うむ、やはり旅は道連れ、世は情けじゃな」と満足げに目を細めていた。
「フェンリルっていう西の大妖は、どんな人なんだろうね。レンのパパとママのこと、何か知ってるといいな」
僕は青く澄み渡る空を見上げながら、お茶の入った水筒を揺らした。
西の大陸に戻れば、かつて僕を役立たずと追放した勇者パーティーの噂を耳にすることもあるかもしれない。でも、今の僕にはこんなに頼もしくて、規格外で、食いしん坊な新しい家族がいる。
「どんなことが起こるか……なんだか、すごく楽しみだね」
「キュイッ!」
「おう! オデが全部ぶっ飛ばしてやる!」
後ろを振り返れば恐ろしいお姉さんたちが大爆発を起こしていることなど、欠片も想像していないお人好しなポーター。
彼の「どんなことが起こるか楽しみ」という呑気な呟きは、これから西の大陸を舞台に巻き起こる、すれ違いと大騒動フラグとなっていた。
大陸に到着したアレンたちののんびりとした珍道中と、大和国を更地にしてでも手がかりを掴もうとするヒロイン達、対照的な旅は終わらない。
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