有名人パーティーに遭遇
大和国の深い山道を、僕たち一行はのんびりと進んでいた。
西の空の彼方で、僕を探すヒロインたちが国一つ滅ぼしかねない勢いで暴走を始めていることなど、露ほども知らずに。
「アレン、あーん」
「はい、クオン。カザネも食べる?」
「うむ、いただくぞ。……シュルル、美味じゃ」
僕の膝の上では、クオンが狐の姿で甘えるように口を開け、首元ではカザネが器用にサンドイッチの具だけをついばんでいる。
レンは「僕も僕も!」と足元にすり寄り、ゴウは背後でニコニコと山のように巨大な荷物を背負って歩いていた。
楽しいモフモフ&スローライフ。
道中、大和国の妖たち(巨大な化け蜘蛛や一つ目の怪物など)に何度か遭遇したけれど、クオンの九つの尾とレンの規格外の魔力、そしてゴウの「おで、アニチャン守る!」という圧倒的なプレッシャーを前に、皆ヒィッと悲鳴を上げて勝手に道を譲ってくれた。
そんな平和な旅の途中。
開けた沢の近くで、僕たちは奇妙な四人組——いや、一人と三匹のパーティーと鉢合わせた。
「おおっと、そこのデカブツ! どきな! 斉天大聖たるこの俺様の道を塞ぐ気か!」
先頭を歩いていたのは、身の丈ほどの如意棒を肩に担いだ、生意気そうな猿の妖。
その後ろには、丸々と太った豚の妖と、皿を乗せたカッパの妖。そして最後尾に、白馬を引いた穏やかな顔立ちのお坊さんが立っていた。
「こら、悟空。初対面の方に向かって乱暴な口を利いてはいけませんよ。我々は天竺を目指す身、争いは——」
「うっせえな、お師匠様! こっちの赤鬼、どう見ても雑魚じゃないか。オレ様がサクッと片付けて——」
猿が如意棒を振り回してイキり倒した、次の瞬間。
お坊さんが、スッと両手を合わせ、静かに「オン・マニ・パドメ・ウン」と呪文を唱え始めた。
「ギャアアアアアッ!? 痛い痛い痛い! 頭が割れるゥゥゥ!」
頭に嵌められた金の輪がギリギリと締まり、猿は如意棒を放り出して七転八倒し始めた。
その様子を、僕たちはポカンと口を開けて見守るしかなかった。
「……なんじゃ、騒がしい奴らじゃの。あの坊主、大妖にも等しいあの猿を呪文一つで押さえ込むとは、ただ者ではないな」
クオンが尻尾を揺らしながら興味深そうに呟く。
すると、騒ぎの中で、カッパの妖がトテトテとこちらへ歩み寄ってきた。
「あれ、ゴウじゃないか! 久しぶりだねぇ」
「おっ! サゴジョウ! 久しぶり!」
なんと、ゴウとカッパは知り合いだったらしい。
聞けば、ゴウが昔この辺りの川で溺れかけた時、サゴジョウ(カッパ)が助けてあげた縁なのだそうだ。
「ゴウ、あんたこんな所で何してるんだい? それに、その後ろの……とんでもない気を放ってる方々は」
「おで、アニチャンたちと神龍様に会いに行くんだ!」
ゴウが無邪気に答えると、サゴジョウの顔色がサッと変わった。
「神龍様に? そりゃあ……気をつけるこったね」
サゴジョウは、周囲を気にするように声を潜めた。
「最近、この辺りの妖たちの間で噂になってるんだ。神龍様が、今までにないくらい『不機嫌』だって。……空の様子がおかしいのも、そのせいかもしれない」
言われて見上げると、確かに霊峰の頂上付近には、先程までなかったはずの分厚く黒い雷雲が渦を巻くように集まり始めていた。
チカチカと不気味な紫色の稲妻が走り、空気がビリビリと静電気を帯びている。
「不機嫌、ですか。何か理由があるんでしょうか?」
僕が尋ねると、サゴジョウは首を横に振った。
「さあね。ただ、神龍様が怒り狂えば、大和国は丸ごと吹き飛ぶって話だ。あんたたち、腕に覚えはありそうだけど、くれぐれも逆鱗には触れないようにな」
「……うう、お師匠様、もうしません……」と涙目で反省している猿を引きずりながら、お坊さん一行は西へ向かって去っていった。
「神龍が不機嫌、か。……カザネ、何か心当たりはあるか?」
「わらわは地の神ゆえ、天を統べる神龍の心までは分からぬ。じゃが……あの雷雲、尋常ではないぞ」
カザネが不安そうに身をすくめ、レンも喉の奥で低く唸り声を上げた。
おやつとお茶を楽しみながらのスローライフに、少しだけ暗い影が落ちる。
それでも、僕たちは進むしかなかった。レンがなぜ地下迷宮にいたのか、その真実を知るためには。
「大丈夫だよ、みんな」
僕は【ワン・キューブ】から、とっておきの甘いお菓子を取り出し、不安そうにするモフモフたちに配った。
「どんなに機嫌が悪くても、美味しいご飯を食べれば、少しは話を聞いてくれるかもしれないしね。……行こう」
僕の楽観的な言葉に、ゴウが「アニチャンの飯は最強だ!」と笑い、クオンも「やれやれ、主の胃袋を掴む手腕に期待しようかの」と苦笑した。
東の果て、雷雲渦巻く神龍の座す頂へ。
僕たちのパーティーは、警戒を強めながらも、歩みを止めずに進んでいくのだった。
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