そのころ王都では
——一方その頃、大陸の西側に位置する王都。
陽当たりの良い一軒家のリビングは、かつての温かさを完全に失い、ブリザードが吹き荒れるような極寒の空間と化していた。
「……見つかったわ。アレンの足取りが」
エリアリアが、冒険者ギルドから持ち帰った情報羊皮紙をテーブルに叩きつけた。
その声は地を這うように低く、彼女の周囲だけ気温が数度下がっているかのように冷たい魔力が漏れ出ている。
「東の果て……『大和国』という未開の地へ向かう隊商の記録に、純白の大きな魔獣を連れた、黒髪の温和な少年の姿があったそうよ。間違いない、あの子よ」
「東の果て!? そんな危険な場所に、私たちのアレンが一人で!?」
リティが悲鳴のような声を上げ、手元のクッション(アレンが作った特製のふかふかクッション)をギリィッ!と握りしめた。
アレンが『探さないでください』という置き手紙を残して姿を消してから、わずか数日。
彼女たちは狂乱した。
初日は「アレンが誘拐された!」と思い込み、王都の裏組織を三つほど叩き潰した。
二日目は「何か恐ろしい陰謀に巻き込まれたに違いない!」と、他国のスパイ網をクラリスの莫大な財力で片っ端から買収・尋問し、国際問題に発展しかけた。
三日目には、ミランが「主神アレンがいないこの世界など無価値です」と、王都の広場で浄化の広範囲殲滅用極大魔法を詠唱し始め、王宮魔術師団が総出で抑え込むという大騒動を起こしていた。
「ああっ……私のアレン様! あの子はただでさえお人好しで、誰かに騙されやすいというのに! もし東の野蛮な国で、悪い虫(女)にたぶらかされていたら……ッ!」
クラリスが、純金製のティーカップを素手で握り潰しながらワナワナと震えている。
机の上には、アレンが最後に淹れてくれた紅茶(【ワン・キューブ】の劣化版魔道具で無理やり保温している)が、ポツンと置かれていた。
「あの馬鹿。自分がどれだけ私たちにとって大切な『心臓』か、全く分かっていないのね。古龍の幼生が迷惑をかける? そんなもの、私が国ごと買い取って専用の飼育小屋を建ててあげたのに」
セレナが氷のように冷たい笑顔で、扇子をパチンと閉じた。
彼女たちの「アレンへの依存度」は、本人が思っている以上に末期症状に達していたのだ。
アレンの淹れた温度管理の完璧な紅茶がないと、朝起きられない。
アレンがメンテナンスした滑り止めの靴底がないと、戦いに集中できない。
何より、アレンが「おかえりなさい」と笑ってくれる居場所がないと、彼女たちは自分が何のために戦っているのかさえ分からなくなってしまう。
「……荷物をまとめなさい、みんな」
エリアリアが、腰に帯びた神滅の聖剣をガチャリと鳴らして立ち上がった。
その瞳には、かつて魔王を討伐した時よりも遥かに強く、深く、重たい執念の炎が燃え盛っていた。
「私たちの大切なポーターを、そんなところに野放しにしておくわけにはいかないわ。東の果てだろうが、世界の裏側だろうが……地の果てまで追いかけて、二度と私たちの側から離れられないように、たっぷりと『教育』し直してあげる」
「ええ、当然ですわ! アレン様の平和な日常を脅かすものは、私の財力で大和国ごと買い占めて更地にします!」
「アレンに近づく悪い虫は、私が一匹残らず浄化してあげる……!」
「待っててね、アレン。すぐに行くから!」
四人の最強にして最凶のヒロインたちは、重たすぎる愛情と、少しの狂気を胸に秘め、東の空を睨みつけた。
アレンが、大和国で古龍や九尾の狐、巨大な赤鬼、そして蛇の姫神といった規格外のモフモフ?たちとドタバタライフを堪能し、新たな居場所を作り始めていることなど、彼女たちは知る由もない。
「……待っててね、アレン。今、迎えに行くから」
エリアリアの静かな、しかし確かな誓いの言葉とともに。
王都の空を揺るがすほどの凄まじい魔力を放ちながら、過保護すぎるヒロインたちの、大陸を股にかけた『アレン奪還暴走ツアー』が、今まさに始まろうとしていた。
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