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「よわよわショボいポーター実は最強のスキル待ち〜追放されたので、なぜか女子パーティーに拾われ溺愛されています〜」  作者: 虹の箸
新しい旅立ち

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泣いた赤鬼

洞穴の奥へと進む道中は、まるでピクニックのような穏やかさだった。


「へえ、じゃあ大和国では、神龍様は空の天候を操る存在として信仰されているんですね」

「左様。妾たちのような大妖とは格が違う、文字通り『ことわり』そのものじゃ。

じゃが、最近はその神龍の気配も薄れておってな……おっと」


クオンが説明をしながら、振り返りざまに黄金の尾をひらりと振るう。


それだけで、岩陰から飛び出してきた巨大なムカデの魔物が、青白い狐火に包まれて一瞬で灰になった。


「キュイッ!」

逆の通路から迫ってきた装甲持ちの骸骨武者は、レンが軽く前足を振っただけで、見えない暴風に切り裂かれて粉々になる。


「二人ともすごいな。あ、魔石は僕が拾っておくね」


僕は【限定空間収納ワン・キューブ】を展開し、道端の小石を拾うような手際で、貴重なドロップアイテムや魔石を次々と回収していく。


本来なら一歩進むごとに命を削るようなダンジョン探索も、神話級の古龍と大妖、そして巨大な鬼という規格外の臨時パーティーにかかれば、ただの楽しい散歩道だ。


ゴウも「おで、ここはいつも通る道だから詳しいぞ!」と、ニコニコ顔で罠を踏み潰しながら先導してくれている。


——しかし、圧倒的な力ゆえの「油断」というものは、いつだって思いがけない死角からやってくる。


「兄ちゃん、次はこっち——」

ゴウが振り返って笑いかけた、その瞬間だった。


天井の岩盤に擬態していた『影』が、音もなく僕の真上から落ちてきた。


それは、大和国の迷宮特有の、暗殺に特化した希少魔物シャドウ・アサシン。


クオンもレンも、正面の敵を瞬殺した直後で、視線が僕から逸れていた。


「え……?」

僕が気づいた時には、ぬらりとした黒い刃が目の前に迫っていた。

咄嗟に身をよじったが、間に合わない。


鋭い痛みが肩から胸にかけて走り、熱い血が噴き出す。


「ッ……!」

視界がぐらりと揺れ、僕はそのまま冷たい石の床へと崩れ落ち、意識を手放した。

 

「——アニ、チャン……?」

ゴウの間の抜けた声が、洞穴に響いた。


倒れ伏し、血だまりの中に沈むアレン。


その光景を理解した瞬間、ニコニコと穏やかだった赤鬼の瞳孔が、極限まで収縮した。


「アニチャンガ……チ、チガ……

ッ」


ゴウの全身から、爆発的な怒りとマナがどす黒いオーラとなって噴き上がる。


ゴボォッ、と異様な音が鳴り響き、彼の分厚い筋肉が風船のように膨張を始めた。三メートルほどだった巨体はあっという間に倍の六メートルに達し、頭のツノは凶悪な長さに伸び、皮膚は煮えたぎる溶岩のように赤黒く変色する。

それは、大和国で恐れられる『鬼神』の真の姿。


「オデ……オマエ、ユルサナイ」

ギリギリと牙を噛み鳴らし、ゴウは頭上の『影』——僕を刺した凶悪な暗殺魔物を見据えた。


深層の主クラスであろうその魔物は、ゴウの尋常ではないプレッシャーに本能的な恐怖を覚え、逃げ出そうと天井へ跳躍した。


「ブッコロス!!!!」

ゴウの咆哮が、ダンジョンの空間そのものを揺るがした。


彼が床を蹴った衝撃で岩盤がクレーターのように陥没し、次の瞬間には魔物の目の前にゴウの巨大な拳が迫っていた。


回避も防御も、一切無意味。


——ドゴォォォォォォンッ!!!

強敵と思われたその暗殺魔物は、悲鳴を上げる間もなく、たった一撃のワンパンで文字通りバラバラに粉砕され、霧散した。


「……ハァ、ハァ……ッ」

敵を跡形もなく消し去った後、ゴウの巨体は急速に元の大きさにしぼんでいった。


彼はドスンと膝をつき、血を流して倒れている僕の横に這いずるように近づいた。


「アニチャン……アニチャン、ごめん……おで、おでが……」


大粒の涙が、赤い頬をぼろぼろと伝い落ちる。

「ウワァァァァン! アニチャァァン!」


クオンとレンも真っ青になって駆け寄ってくる中、ゴウは子供のように声を上げて泣きじゃくった。

 

「ん……んん……」

生温かい水滴(ゴウの涙)が顔に落ちてきて、僕はゆっくりと目を覚ました。


「キュイッ!? キュイイイイ!」

「アレン! おのれ、よくも妾の膝枕係を……って、気がついたか!?」

レンが僕の顔をペロペロと舐め回し、クオンが泣きそうな顔で覗き込んでくる。


僕はズキズキと痛む肩を押さえながら、ゆっくりと上体を起こした。


「いたた……。ごめん、油断した」

すぐさま【ワン・キューブ】を開き、最高品質のハイ・ポーションを取り出して傷口に振りかける。シュウウと音を立てて傷が塞がり、痛みは嘘のように引いていった。血は出たけれど、急所は外れていたらしい。


「ア、アニチャン……? 生きてる……?」

ゴウが、目を真っ赤に腫らして僕を見ていた。


大きな手は震えていて、僕が死んでしまったと本気で思っていたのが伝わってくる。


「大丈夫だよ、ゴウ。ほら、もう傷も治ったし、痛くないよ」

僕が立ち上がって笑顔を見せると、ゴウは「うっ、うっ……」としゃくり上げながら、僕を傷つけないようにそーっと、大きな指先で僕の頭に触れた。


「おで……おでの家なのに、アニチャン守れなかった……ごめんなさい……」


「謝らないで。ゴウが悪いやつを倒してくれたんでしょ? ありがとね」


僕は背伸びをして、泣き虫な赤鬼の頭をぽんぽんと撫でた。


「ゴウはいい人だね。僕のためにあんなに怒ってくれて、泣いてくれて、ありがとう」

その言葉を聞いた瞬間、ゴウの顔から不安がスッと消え、代わりに何とも言えない嬉しそうな、太陽みたいな笑顔が広がった。


彼は鼻水をグズッとすすり上げ、太い腕で自分の胸をドンッと叩いた。


「オデ、これから絶対油断しない! アニチャン、オデが絶対守る!!」

「ふふ、頼もしいな。よろしくね、ゴウ」


隣では、クオンが「妾だってアレンを守れるわ!」と張り合い、レンが「僕が一番だよ!」と胸を張っている。


なんだか、王都に置いてきた彼女たちと似たような『過保護な空気』を感じなくもないけれど……悪い気はしなかった。


「よし。傷も治ったし、奥へ進もうか。ゴウ、案内をお願いね」

「おう! 任せろ、アニチャン!」

一行は再び隊列を組み直し、薄暗い洞穴のさらに奥へと足を踏み出していく。


前衛で目を光らせる巨大な赤鬼、左右を固める神話級の古龍と大妖。


絶対的な安心感と過保護すぎる愛情に守られながら、僕の未知なるダンジョン探検は続いていくのだった。


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