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「よわよわショボいポーター実は最強のスキル待ち〜追放されたので、なぜか女子パーティーに拾われ溺愛されています〜」  作者: 虹の箸


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トラウマ直撃

——『幻影の地下迷宮』の探索を終えた僕たちは、冒険者ギルドのカウンターで討伐報酬を受け取っていた。

夢魔のナイトメア・ロードの討伐報酬は、破格の白金貨。

しかし、それを受け取って【限定空間収納ワン・キューブ】にしまう僕の顔は、いつになく強張っていた。

「……確認しました。ありがとうございます」

淡々とギルド職員に頭を下げ、僕はそのまま無言でギルドの出口へと向かって歩き出した。

「あ、アレン……? ちょっと待ってよ……」

「…………」

リティが恐る恐る袖を引っ張ってくるが、僕は無言でスッと身をかわした。

僕の周囲には、ブリザードが吹き荒れているかのような『不機嫌オーラ』が漂っていた。

無理もない。

いくら夢の中の出来事とはいえ、僕の意思を完全に無視して、僕をあんな風に……い、いじくり回そうとしていたなんて!

おまけに、理性を失った4人からダンジョンの最下層を何周も逃げ回り、僕の体力と精神力は完全にゼロ(むしろマイナス)になっていたのだ。

今日くらい、怒ったっていいはずだ。

僕はぷいっと顔を背け、足早に定宿の『木漏れ日亭』へと帰っていった。

「「「「…………っっっ(滝汗)」」」」

ギルドのロビーに残された4人は、冷や汗をダラダラと流しながら顔を青ざめさせていた。

「ま、まずい……まずいわよ皆! アレンが……あの仏のように優しいアレンが、マジギレしているわ……っ!」

エリアリアさんが、ガチガチと歯の根を鳴らして震える。

「当然でしょ! 夢魔のせいとはいえ、私たち、アレンを押し倒して無理やり……その、色んなことしようとしてたんだから! そりゃ嫌われるわよぉぉっ!」

リティが半泣きで頭を抱える。

「ええ……いつもは怒らない彼が沈黙しているという事実が、何よりも恐ろしいわ。このままでは、私たち、愛想を尽かされて捨てられてしまうかもしれないわね……」

セレナが血の気が引いた顔で呟く。

「……フフッ。無口で冷たいアレンも、それはそれで私のM心を激しく刺激して——痛ッ!?」

「あんたは黙ってなさい!!」

ドゴッ! とミランの鳩尾に裏拳を叩き込み、エリアリアさんは円陣を組むように皆を集めた。

「緊急ミーティングよ! アレン抜きで、いかに彼のご機嫌を取るか話し合うわ!」

「やっぱり、ここは私たちが裸エプロンで手料理を……」

「だから押し倒そうとするなって言ってるでしょ! 余計嫌われるわ!」

議論が交わされる。

しかし、どう考えても「過剰なスキンシップ」や「重すぎる愛情表現」が原因でアレンを怒らせてしまったのは明白だった。

「……ねえ。私たち、アレンに甘えすぎていたんじゃないかしら」

セレナが、ふと真面目な顔で提案した。

「アレンはサポーターだけど、私たちも立派な冒険者。自分のことくらい自分でできる『自立した大人の女性』であることをアピールして、普通のパーティーみたいに振る舞えば、アレンも安心してくれるんじゃないかしら?」

「……なるほど。過剰なスキンシップを控え、自分のことは自分でする。健全で『普通』の冒険者パーティーね」

「うんっ! 私、頑張って一人でブーツの紐結ぶ!」

「私はアレンの視界に入らないよう、天井裏で息を殺して待機します」

「あんたは普通に椅子に座りなさい」

こうして、彼女たちはアレンの機嫌を直すため、決死の『普通作戦』を決行することになったのだ。

「はぁ……少し、大人気なかったかな……」

宿屋の部屋に戻った僕は、ベッドに腰掛けて反省していた。

確かに怖かったし、逃げるのは疲れたけれど、彼女たちは夢魔の術にかかっていただけだ。それに、普段からあんなに良くしてもらっているのに、無言で無視するなんてサポーター失格だ。

(よし。いつものように、全力で皆のサポートをしよう!)

気を取り直した僕は、1階の食堂に集まっていた彼女たちの元へ笑顔で向かった。

「皆さん、お待たせしました! さあ、エリアリアさん。今日はいっぱい剣を振りましたから、肩が凝っているでしょう? 僕がしっかり揉みほぐし——」

「ヒッ!? い、いいのよアレン! 自分の肩くらい自分で揉めるから!」

「えっ……?」

エリアリアさんが、ビクッと肩を震わせて僕の手を避けた。

「あ、じゃあリティ! 短剣の手入れを——」

「だ、だいじょうぶ! 私、今日から自分で武器のお手入れするから! アレンは座ってて!」

「セレナさん、魔力回復のハーブティーを——」

「お気遣いなく。水筒のお水で十分よ」

「ミランさん、杖の磨き——」

「自分でピカピカに磨いておきました」

「「「「私たち、自分のことは自分でできるから! 普通のパーティーだから!!」」」」

彼女たちは、引きつった笑顔で(僕に嫌われないよう必死で距離を取りながら)そう宣言した。

「…………え?」

僕の伸ばした手は、空を切った。

肩揉みも、武器の手入れも、お茶汲みも、すべて断られてしまった。

(自分のことは、自分でできる……)

その言葉が、かつての勇者ゼロの罵声をフラッシュバックさせる。

『お前みたいな無能はいらねえんだよ。サポーターなんて、金を出して優秀な奴を雇えば済む話だ』

僕の唯一の存在価値だった『雑用』すら、彼女たちには必要なくなってしまったのだ。

もう、僕にお世話されるのが嫌になったんだ。僕に見切りをつけて、普通のパーティーに戻ろうとしているんだ……。

「そ、そうですか……。そうですよね。皆さん、優秀な冒険者ですもんね……」

僕は、スゥ……と血の気が引いていくのを感じた。

光を失った虚ろな目で、僕はフラフラと部屋の隅の暗がりに移動し、体育座りをして小さく丸まった。

「僕は無能……皆の足手まとい……もう、いらない子……ごめんなさい……生まれてきてごめんなさい……」

ブツブツと、この世の終わりのような暗いオーラを放ち始める僕。

「「「「…………(アカン)」」」」

その僕の絶望しきった姿を見て、4人の顔面から完全に色が消え失せた。

普通のパーティー作戦は、アレンの『過去のトラウマ』を的確に抉り、最悪のドツボにハマってしまったのだ。

「あ、アレン!? 違うの! 違うのよ! 私、本当はめちゃくちゃ肩揉んでほしくて!」

「私なんてブーツの紐結べないもん! ほら、右と左逆にはいてるよ!」

慌ててエリアリアとリティがフォローしようとするが、トラウマの沼に沈みゆく僕の耳には届いていない。

その、絶望的な隙を——ヤンデレは見逃さなかった。

「……フフッ。ああ、可哀想なアレン。サポーターとしての自信を失い、誰かに縋りつきたいのですね?」

ミランが、純銀の杖を静かに置き、ススス……と僕の背後に忍び寄った。

そして、体育座りをする僕の身体を、後ろから包み込むようにギュッと抱きしめたのだ。

「ミラン、さん……?」

「ええ。誰にも必要とされないなら、私が一生、飼ってあげます。もう働かなくていいんですよ。私の用意した首輪をつけて、私が用意したご飯だけを食べて、私だけに愛されて生きればいい……さあ、アレン。すべてを委ねて……」

ミランの甘く暗い囁きが、僕の耳元をくすぐる。

抜け駆け。完全なる、ドサクサに紛れた火事場泥棒である。

「——って、抜け駆けしてんじゃないわよこの泥棒ストーカー僧侶ォォォォッ!!」

ドガァァァァァァァァンッ!!!!

次の瞬間。

エリアリアさんの渾身の飛び蹴りがミランの顔面に炸裂し、ミランは食堂のテーブルをへし折りながら吹き飛んだ。

「チッ……邪魔が入りましたね。アレンが私に落ちる寸前だったというのに!」

ミランが瓦礫の中から立ち上がり、純銀の杖を構える。

「死んでも渡さないわよ! アレン、ごめんね! 普通のパーティーなんて嘘よ! 私たち、アレンがいないと1日だって生きていけないダメ人間なのよ!」

「そうだよ! アレンがご飯作ってくれなきゃ餓死しちゃうもん!」

「さあアレン、私の肩を揉みなさい! 3時間よ!」

「邪魔する奴は粉砕します!!」

「ちょっ!? 皆さん、宿の食堂で武器を振り回しちゃ——!」

剣と杖と魔法が入り乱れ、木漏れ日亭の食堂が再び阿鼻叫喚の戦場と化す。

飛び交うお皿、へし折れる柱、宙を舞うヤンデレ僧侶。

「あーもう、お皿が割れちゃったじゃないですか! 宿屋のオヤジさんに怒られますよ!」

僕は慌てて立ち上がり、【ワン・キューブ】から特製の魔法接着剤と掃除用具を取り出して、彼女たちの足元でパパパッと片付けを始めた。

「ほら、エリアリアさん! 剣の素振りは外でやってください! ミランさん、杖で壁を殴らない!」

僕がプリプリと怒りながら注意すると、彼女たちはピタッと動きを止め、嬉しそうにパァァッと顔を輝かせた。

「アレン……っ! 怒ってくれた! 私たちのこと、お世話してくれたわ!」

「さあアレン! 掃除の後は私をお風呂で洗ってちょうだい!」

「ドサクサに紛れるなセレナ!」

再び始まる大乱闘。

普通なら頭を抱えて逃げ出したくなるような、常軌を逸したヒロインたちの暴走。

しかし。

(……ふふっ)

割れたお皿を片付けながら、僕はなぜか、心の底からホッとしている自分に気がついた。

普通の冒険者パーティーなんかじゃない。

騒がしくて、過保護で、執着が重くて、すぐに宿屋を半壊させる困った人たち。

でも、僕を誰よりも必要としてくれて、絶対に僕を見捨てない、愛すべき家族。

「仕方ないなぁ……怪我だけはしないでくださいね。終わったら、特製のポタージュスープを温め直しますから」

飛び交う怒号と破壊音のBGMの中。

僕はやれやれと肩をすくめながら、いつものように、完璧な温度のお茶を準備し始めるのだった。


お読みいただきありがとうございました。

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次回もどうぞよろしくお願いいたします。

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