暖かい日々
誰かが、僕の前に立っている。
「……あなた、息はある?」
凛とした、けれどどこか優しい声だった。
顔を上げると、そこには美しい3人の女性が立っていた。白銀の鎧を纏った女騎士、軽装の斥候の少女、そして静かな瞳をした魔女。ついこの間結成された新進のパーティー『星詠みの戦乙女』面々だった。
「どうしてこんな所に……訳ありみたいね」
女騎士がしゃがみ込み、僕の顔を覗き込む。
僕はもう隠す気力もなく、正直にすべてを話した。無能なスキルしか持っていないこと。理不尽にパーティーを追放され、身ぐるみ剥がされた挙句、ギルドも追われたこと。
彼女たちは黙って僕の話を聞いていたが、やがて顔を見合わせた。
「……ねえ、リーダー。彼、拾っていかない?」
魔女のセレナが静かに提案する。
「そうね。嘘をついているようには見えないし……それに」
女騎士のエリアリアは、ドロドロに汚れた僕の顔の泥をハンカチで優しく拭いながら、ふと頬を染めた。
「ひどく痩せ細っているけれど……とてもおっとりとしていてなんだか、放っておけない」
「賛成〜!この子、 顔も好みだし、私たち、いつもダンジョン攻略の後の片付けでヘトヘトだから、専属のポーターが欲しかったのよね!」
斥候の少女リティも明るく笑って同意してくれた。
それでも流石にリーダーのエリアリアは甘くなく「このダンジョン攻略で役に立たないってわかったら即座に抜けてもらうわ、それは了承して頂戴」と僕に向かって宣言した。もちろん僕に異存はなく、こうして僕は、彼女たちがこれから向かう中級ダンジョン『深緑の迷宮』での「すべての雑用をこなすこと」を条件に、お試しでパーティーに拾われることになったのだ。
「アレン、ただいま戻ったわ!」
「お疲れ様です、エリアリアさん。防具をお預かりしますね。温かいスープと、食事も用意できてます。」
ダンジョン中層の安全地帯。
最前線で戦ってきた彼女たちが戻るや否や、僕は手早く全員の荷物を受け取り、甲斐甲斐しく世話を焼いた。
「はぁ〜……生き返るわぁ。アレン君のご飯、本当に美味しいし、肩揉みも最高……」
「アレンがいてくれるおかげで、魔力回復に専念できるわ。本当に助かる」
リティがとろけた表情でくつろぎ、セレナが温かいスープを飲みながら微笑む。
戦闘能力が皆無の僕ができるのは、彼女たちが少しでも快適に、100%の力で戦える環境を作ることだけだ。
泥だらけのブーツを磨き、疲れた身体をマッサージし、彼女たちの好みに合わせた食事を毎食全力で用意する。たった1立方メートルしかない収納スキルも、中身の整理整頓を極限まで計算し、「今最も必要なポーションや魔石」だけを常に出し入れできるように工夫した。
「アレン、私、剣の刃こぼれが……」
「あ、それでしたら昨夜のうちに砥石で直しておきました。重心も少しだけ調整してあります」
「……え? もうやってくれたの? アレン……あなた……」
彼女たちの僕を見る目が、日に日に熱を帯びていくのを感じる。
最初は単なる「便利な雑用係」だったはずが、今ではまるで、大切な宝物を扱うかのような優しさと甘やかしを受けている。前のパーティーでの理不尽な暴力と罵倒が嘘のような、温かい日々だった。
しかし。
その温かく穏やかな日々は、突如として終わりを告げようとしていた。
お読みいただきありがとうございました。
もし「面白かった!」「続きが読みたい!」と思っていただけましたら、ページ下部にある【ブックマークに追加】や、【☆☆☆☆☆】の評価を押して応援していただけると、今後の執筆の何よりの励みになります!
次回もどうぞよろしくお願いいたします。




