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なぜか未来の記憶を得たイギリス首相は、自らが作り出す悲劇を回避して、第二次世界大戦に臨もうとする  作者: よぎそーと


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7 ウィンストン・チャーチル

 イギリス議会で最も騒々しい男。

 それがチェンバレンの評価だった。

 今までの政治家としての行動からもうかがえる。

 垣間見た未来でもそれは同じ。



 だが、正しかった。

 チャーチルの言ったことは当たった。

 ナチスは巨大化し、戦争になった。

 それも途轍もなく大きな。



 その原因をチェンバレンが作ってしまった。

 悔やんでも悔やみきれない。

 だから会いに来たのだ。

 最も正しく、ひたすらに五月蠅く鬱陶しい男に。



 それはチャーチルの方も理解している。

 自分と全くそりが合わない男だと。

 ものすごく控えめに表現すると。

 本音はもっと酷い事になる。

 これがチャーチルからの評価である。

 


 そんな男がなぜ自分に?

 そんな疑問を当然抱く。

 正直に言えば、会いたくはなかった。

 だが無視はできない。

 相手は大臣である。

 国会議員である以上、避けるわけにはいかなかった。



「それで、ご用の件ですが……」

「ドイツについてどう思うかね?」

「ドイツ……?」

 率直なものいいに、思わずオウム返しになる。

「ドイツ、ドイツ……ナチスを名乗る危険な連中が蔓延っておりますな」

 思うところをチャーチルは率直に口にした。



「急進的な連中です。

 後先を考えない。

 目的達成の為に手段を選ばない。

 ドイツ復権に向けているのは良いにしても……手段がどうなる事やら」

「他には?」

「ああいうのが政権を握ったら、大変な事になるでしょう。

 最悪の事態を覚悟しておいた方がよい」

 その言葉に安心をおぼえる。

 この男は変わらないと。



「では、どんな対処が必要かね?」

「絶対に逃げない」

 即答、そして断定。

 躊躇いのない言葉は確信という裏付けを感じさせた。



「譲歩や交渉が通じない連中です。

 奴らは全部を求めるだけ。

 決裂したら、全部を奪いに来ます」

「ではどうする?」

「だから、絶対に逃げない事です。

 要求は全て拒絶。

 万が一にも妥協などしない。

 こちらが約束を守っても、相手は守らない。

 だから交渉になりえない」

 だから、とチャーチルは続ける。



「相手には何も渡さない。

 何も与えない。

 どうせこちらから奪う事しか考えてない連中です。

 なら、最初から何も与えない。

 そもそも、交渉や会談などしない。

 話すだけ無駄というものです」

「なるほど。

 そうなんだな。

 そうなのだろうな」

 チェンバレンとは違う考え方である。

 だが、納得のいくものだった。



 チェンバレンは交渉で相手との調整をはかろうとしていた。

 しかし、これは相手が妥協や打算ができる場合に限られる。

 そして、そんな人間ばかりだと思っていた。

 しかし。



 現実にはそんな人間ばかりではない。

 むしろ、交渉ができない者の方が多い。

 自分と相手の間で何を差し出し、何を引っ込めるのか。

 そんな調整などせず、求めるものを手にしようとする。

 自分からは何も差し出さないで。



「それは強奪というのではないかね?」

「強奪です。

 それ以外の何でもありません」

「それができなければ?」

「全てを奪われます。

 相手は躊躇いなど持ちません。

 こちらを殺して、欲しいものを手に入れる。

 それだけです」

「まさしく強盗だな」

「その言葉の後ろに『殺人』をつけることをお忘れなく」



 聞いてて頭の痛くなる内容だった。

 しかし無視するわけにはいかない。

 目を背けるわけにもいかない。

 そうしたら、頭の中に浮かんだ出来事が現実になる。

 妙に現実感のある景色が。



 だからこそ、この男のところにチェンバレンは来た。

 相手がよく分かってるから。



「チャーチル」

「なにか?」

「君に頼みたい」

「何を?」

「国内をまとめることを」

「というと?」

「君の所に集まってくるだろう。

 軍の者も、それ以外の者も」



 国防について決して退くことがない男である。

 だから国防に関わる者達が集まる。

 軍隊から。

 政府から。

 省庁から。

 企業から。

 その伝手もまたチェンバレンは求めた。



「それらをまとめ上げ、準備を進めてもらいたい」

「具体的には何を?」

「軍備の回復」

「…………それで?」

「今のイギリス軍を再編する」

「それはそれは、また、なんとも」

 あまりに大きな話である。

 国会議員といえども、無役の人間には大きすぎる要求だ。

 だが、チェンバレンは容赦しない。



「できないとは言わせない。

 君ほどの経歴があればできないわけがない」

 あながち間違いでも無い。

 確かに今は無役だ。

 しかし、内務大臣と海軍大臣と財務大臣をこなしていたのも事実。

 それだけの事ができる人間だ。

 無役といえど、やれる事はある。



「君が危険視してるドイツ。

 ナチスと言った方がいいかな。

 あれに対抗できる状態を作らねばならない」

「ですな。

 賛成です」

「だからこそ、その為の準備を君に勧めてもらいたい」

「しかし、どれだけ準備をしても実行できるかどうか。

 それに、予算はどうするのです?」

「それについては話をつけてきた」

「なんと?!」

「実現するかどうかはわからんが。

 だが、どうにかしないといけない」

 その強い口調に、チャーチルは本気を感じ取った。



「ただ、君の望みを潰すことにはなるだろう」

「それはいったい?」

「詳しい事はこれを」

 言いながらチェンバレンは書類を渡した。

 自分がまとめてきた話を記したものを。

 それに目を通しっていったチャーチルは、最初黙って見つめていた。

 そして顔をしかめ、赤らめ、天を仰いだ。

 葉巻を何度も吹かして、煙を天井に貯めていく。



「これは、大臣これは、これは、しかし!」

「君には耐えられないだろうね」

 平然とチェンバレンは応じた。



「広大な植民地。

 最強の戦艦。

 それらが国の強さだと信じる君には受け入れられないだろう」

 それはチャーチルが求めた何かである。

 チェンバレンが各大臣を巡ってまとめた今後の政策は、これを真っ向から否定する。

 なにせ、植民地を放棄し、海軍を縮小する事を決めたのだから。



 だからチャーチルには受け入れられない。

 国土の広さと、最強の兵器。

 これが国力を示すと信じてるふしのあるチャーチルである。

 それが植民地という国土を削るという内容の書類を見たのだ。

 最強の兵器である戦艦を捨てるという内容も。



 しかし。

 チャーチルとて馬鹿では無い。

 イギリスの国家予算の状況と、提案された案。

 それを見れば嫌でも理解する。

 こうするしかないと。



 まして不況である。

 アメリカから始まった大不況はいまだ世界を覆ってる。

 この状況で無理をして植民地と軍隊を保つわけにはいかない。

 そもそも植民地経営は赤字。

 軍の再編もいずれはやらねばならない事だ。

 となれば、縮小的な再編もやむなしである。



「戦艦は確保したいが……」

 未練がましくチャーチルは呟く。

 しかし、今後の財政案を読み進めていくうちに、だんだんと冷静さを取り戻していく。

 書類に書かれた内容がチャーチルに知能を使うことを要求していく。

 それは決して不快では無い。

 むしろ心地よいものであった。



「────なるほど」

 書類を何度も読み返し、内容について思考を重ねる。

 その果てにチャーチルは結論を出す。

「素晴らしい内容だ。

 実現できれば、我が国の未来は明るいものとなるだろう」

 実現できればだが、と続ける。

 しかし、否定の声は出ない。

「是が非でもやらねばなりませんな。

 でなければ、我が国は終わる」

 大臣経験者として国の柱の一つとなった経験が言わせていく。

 これをやるしかないのだと。



「微力ながらお手伝いを。

 どこまで役に立てるかわかりません」

 席を立ち、チェンバレンの前に立つ。

 そしてチャーチルは右手を出した。

「ありがたい。

 これ以上無い援軍だ」

 立ち上がったチェンバレンも右手を出す。

 その手を互いに握り合い、2人はこれからへと向かっていく。



「有意義な時間だった。

 話ができて嬉しいよ」

「最高の時間でした。

 またこのような語り合いができれば幸いです」

 そう言ってこの日の話し合いは終わった。

 これから何度も続く、最初の1回目が。

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