6 大臣達とのお話あい 4
予想通りというか。
陸軍と海軍、植民地担当の大臣は渋い顔をした。
「つまり」
「縮小をせよと」
「植民地については放棄という事になるますが」
とげとげしいどころか、凍てつく、それすら通り越した敵意がチェンバレンに突き刺さる。
しかし、
「その通り」
涼しい顔を保ちながら応えた。
「まず陸軍ですが。
本国には4万人程度。
他は海外の各地に展開。
これでは本国の守りが薄すぎる」
世界各地に植民地を持つイギリスの泣き所だった。
これらを制圧する軍隊をあちこちに分散させてるせいで、イギリス本国にはわずかな軍隊しかいない。
「海軍ですが、大規模な艦艇で通常業務を行ってる。
戦艦……は言い過ぎですが。
しかし、巡洋艦で巡回や哨戒をしている。
無駄が大きすぎる。
駆逐艦であってもだ」
経費がかかる艦艇で海を見張ってる。
ここに無理がどうしても発生していた。
「お巡りさんに大砲を引っ張らせるようなもの。
せいぜい拳銃で十分なのに、それ以上の武器を持たせてる」
「それは……、否定できませんが」
海軍としても認めるしかない。
「そして植民地を守るために大量のお巡りさんを送り込んでる。
その為に必要な装備すら更新する余裕もないのに」
これは陸軍の問題になる。
広大な地域を守るのに、各地に駐留してる軍の数は少ない。
これでは効果など期待出来ない。
「そして、これらを統括する植民地省。
統治のための負担が大きすぎて利益を削りきってる。
これでは維持する事すら難しい。
というより不可能だ」
「……善処はしています」
「それでも、結果がこうなってる。
もう、才能と努力だけではどうにもならない」
積み重なっていく事実は覆せない。
実際、植民地はほとんどが赤字である。
出費が大きく見返りがない。
維持する理由のほとんどが消えている。
むしろ、これらを放棄した方が財政を健全化出来る。
そもそもとして、イギリスに必要なのは何か?
広大な土地は、あるならありがたい。
だが、海を進むイギリスに必要なのは港だ。
食料や燃料の補給地だ。
船員が休める場所だ。
そして、海の玄関口に集まる様々な商品だ。
交易なのだ、欲しいのは。
支配はこの為の手段でしかない。
重要拠点に港を確保し、イギリス本国と船で結びつける。
世界各地の資源や特産品を手に入れる。
それだけでいいのだ。
確保しておかねばならない場所は、港だけ。
あとは、港周辺の市場。
これらだけ守れればいい。
それなのに、必要も無い広大な土地を確保して。
ここを守るために軍隊を置いて。
現地民の武装蜂起などに対処するために金と血を垂れ流している。
死体が積み上がる事にもなる。
そこまでする価値があるのか?
「無いでしょう」
断言するチェンバレン。
軍と植民地を担当する者達は何も言えなかった。
「なので、少し変更しましょう。
植民地は段階的に独立。
せいぜい保護領にする」
「確かに」
言われて植民地担当大臣が頷いた。
「陸軍は、これらの地域から兵力の大部分を帰還させる」
「なるほど」
地図を見ながら陸軍大臣が考えていく。
各地に必要な兵力を。
どこにどれだけ残せばいいのかを。
「海軍も主要拠点に艦艇を集める。
あとは見回りの小型艦艇で普段は警備をする」
「そうするしかないでしょうな」
海軍大臣も地図を見る。
各地の港を確かめ、どこに何隻集めるかを考えていく。
しばしそうして地図とにらみ合ってから。
大臣達は深く大きくため息を吐いた。
そこには、いくらかの諦めがあり。
現状への理解が大きく含まれ。
それ故に選ばねばならない選択への達観があった。
「確かにこうするしかないな」
チェンバレンの提案には反対する要素がない。
否定するべき部分がない。
細かな修正は必要でも、根本の部分において問題は無い。
増大する負担をなくすには、これしかなかった。
「陸軍は賛成だ」
「海軍も」
「植民地省も同じく」
「なら、少しずつ進めていこう」
こうして話はまとまった。
陸軍・海軍・植民地。
もっとも予算がかかってる部分。
ここの大規模削減が決まった。
これで予算を捻出出来る。
下水道を作り替える事が出来る。
ロンドンも。
保健大臣として担当するべき衛生管理。
それをもとにチェンバレンは、政治全体を動かす事に成功した。
そして、こうして捻出した予算でこれからに臨むことが出来る。
まだ端緒についただけだが、未来が見えてきた。
「あとは」
大臣級の人間との会合を終えた帰り道。
その足でとある者の所へと向かう。
一番面倒で、しかしここで協力を取り付けておきたい者のところに。
「やれやれ……」
気が重い。
しかし、避けて通れない事ではあった。
「それで、俺のところにか」
葉巻をくゆらせながら苦笑いを浮かべる。
そんな彼にチェンバレンもわざとらしく顔をしかめる。
「まったくだ。
こちらとしても、出来れば会いたくはなかった」
「それはそれは」
「しかし、君が必要になる。
おそらく、たぶん、きっと」
「ほう?」
「だから、こうして嫌でも会いに来た」
「ふむ……」
さすがに相手も顔つきが変わる。
真剣なものに。
「それほどの事なのか?」
「そう思ってるし考えてる、私はな」
そう言って大きく息を吐く。
「だから、こうして会えてうれしいよ。
ウィンストン・チャーチル」




