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なぜか未来の記憶を得たイギリス首相は、自らが作り出す悲劇を回避して、第二次世界大戦に臨もうとする  作者: よぎそーと


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14 最高責任者の一つ前

「なんとも、これは……」

 チェンバレンの持ってきた書類。

 それを見て首相はため息を吐いた。

「確かにしなければならない事だが……」



 チェンバレンが提示してきた様々な施策。

 それは首相が求めていた事だった。

 労働者の救済。

 国内の整備。

 軍の縮小。

 全てが望んだ事だ。

 首相の政治的信条に合致する。



 しかし、それを実現できなかった。

 それが首相の悔やむところである。

 なのに。

 それを実行した者があらわれた。

「それがあなたとは」

 政治的には対立する相手に驚く。



 この時期のイギリス首相は労働党である。

 福祉や軍縮が基本姿勢だ。

 当然抵抗は大きい。

 不況で予算がないのに福祉など出来るわけがない。

 軍備縮小は国防を損なう。

 それをやろうという労働党が反発を受けるのは当然だ。



 なのにだ。

 相対する保守党。

 その中でも次の党首と目される男が提案していたのだ。

 大がかりな公共事業を。

 とてつもない軍縮を。



 それどころか。

 植民地縮小まで提案してくる。

 しかも、ゆくゆくは植民地を独立させようと。

 すぐには無理だろうから当分は保護領とするとしてもだ。

 人権をお題目にしてる労働党としては非の打ち所がない。

 たとえ人権がただのお題目、看板でしかなくてもだ。



「否定する理由がないな」

「そうなるようにしてきましたから」

 驚く首相に向けて、チェンバレンはこともなげに言う。

 相手のお題目を逆手にとる。

 相手が言い返せない状況を作る。

 意地悪くチェンバレンは提案を作ってきた。



「だけど、やらねばならない」

「その通り。

 文句はない」

「ならば署名を入れてくれますかな?」

「出来ないとは言えないだろ」

 いいながら首相は筆をとる。



「ただ」

「なんでしょう?」

「こういう悪巧みには、最初に参加させてほしかったな」

「そうしたかったのは山々ですが」

 いきなり首相からだと攻略に手間がかかる。

 だから最後の最後の一つ前にまわしたのだ。



「因果なものだな。

 首相なのに何も知らされないというのは」

「首相だから…………なのでしょう」

 役職と権限は、だからこそ何も知らされずにいる。

 珍しいことではない。

 首相でなくても起こることだ。



 だが、首相は署名を入れる。

 結果だけもってこられはしたが、問題があるわけではない。

 それどころか、すぐにでも実行したい事だ。

 ためらう必要は無い。



「では、首相の権限で認めよう」

「ありがとうございます」

「必要なら議会で法案も通そう。

 いくらかの法律も必要になるかもしれないからな。

 ……といっても、君の事だ。

 もう法案も用意してるのでは?」

「現在、制作中です。

 各大臣も」

「見事だ」

 手際の良さは褒めるしかない。

 そして首相は署名を入れたばかりの法案を手に席を立つ。



「時間はあるかな?

 これを届けにいくので、君も来て欲しい」

「というと……」

「最終決済を求めねばならん。

 説明も必要になるだろう。

 君が必要だ」

「そういう事でしたら」

 立ち上がり、チェンバレンも首相に続く。



 そのまま2人はこの国の最高責任者のもとへと向かう。

 最後の署名をもらうために。

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