10 利権と覇権への対処 3
「我が国の限界は既に超えている。
もうこれ以上は不可能だ」
押しかけてきた覇権の維持に邁進する者達。
これらにチェンバレンは冷静に現実を突きつける。
提示したのは国家予算の貸借表。
収入と支出の総額。
そして、これらの内訳。
今、ここにある現実をチェンバレンは根拠として突きつける。
さらにその内訳についても並べていく。
どこに大きな負担がかかってるのか。
そして、そのしわ寄せに、どこが停滞しているのか。
まともな更新すらできず、必用な改修すら出来ない。
それはどの部分なのか、どの分野なのか、どの部門なのか。
これらも当然突きつける。
そして、これらを改善したらどうなるのか。
予想しうる未来の可能性も示していく。
それを見た覇権側の人間も顔色を変えていく。
改めて突きつけられてるイギリスの現状。
多大な植民地を確保する為に費やされる負担。
その大きさに圧倒される。
さらに、そこから得られる利益。
それがどれほどなのか。
様々な経費を差し引いたらどれだけの利益が残るのか。
それを見て頭を抱える。
これらを守るための軍事力もだ。
イギリスがほこる王立海軍。
その威容。
見た目の派手さに虚栄心を満たしていたものたち。
しかし、その実体はどうかというと……悲惨極まるものだった。
「我が軍は、海軍に多大な予算を費やしてる。
そのせいで、陸軍はごらんの通りだ」
海軍は金がかかる。
戦艦などの建造と維持が大きな負担になるからだ。
そのしわ寄せは陸軍に向かう。
そして、政府予算に至る。
その陸軍は貧弱な装備で防衛を担当する。
しかも、世界各地に駐留している。
おかげでイギリス本土には数万程度。
本来ならこの数倍の数が本土にいるべきなのにだ。
しかも、装備は貧弱。
第一次大戦の頃からろくに更新もできていなり。
戦車を作り出した国なのに、その戦車すらまともに揃えられない。
発展著しい戦闘機もだ。
さらに支援装備に至っては、泣きたくなるような現状がそこにある。
補助的な防衛団体である郷土防衛隊もあるが、こちらは戦力に数える事はできない。
そういう団体や集団はあっても、武器などの装備がろくにないのだから。
「これが我が大英帝国だ。
覇権を主張できるほど立派なものなのかな?」
チェンバレンのこの問いに、まともに答えられる覇権主義者はいなかった。
強いていうならば、
「しかし、我らの誇りが!」
という精神論しか無い。
そんな者達にチェンバレンはこう告げる。
「その精神論で敵を粉砕し、植民地を保てるなら是非やってくれ。
私はよろこんで参考にし、政治家として政策に反映しよう」
できるわけが無い。
精神論で現実はかわらない。
心意気は、必要な物資が揃って初めて価値を持つ。
何もないところで意気揚々としていても、それは騒々しいだけでしかない。
だからこその植民地放棄である。
そして現地民による政府を立ち上げ、これらとの交易だけは確保する。
海を通商路にして利益を確保する。
海を通して軍事力を展開する。
これがイギリスができる限界であった。
「我々は植民地を再編せねばならない。
軍隊もだ。
例外はない。
でなければ、我々は覇権どころか自国の防衛すらおぼつかなくなる」
単純に軍事だけでもこのありさまである。
これが国内整備、いわゆる内政になるとさらに悲惨になる。
軍事費は言うに及ばず。
植民地維持のために多大な出費を強いられてる。
「これらが国内に用いられれば、それだけで我らの本土は大きく発展する」
それは未来予測である。
実際にそうなるかはわからない。
だが、手直しが必要なところを改修は出来る。
改修、修理。
これすらままならなくなってるのが今のイギリスだった。
国内に流れ込むはずだった資本が海外に向かっているからだ。
この流れを変えて、国内に行き渡るようにせねばならない。
「覇権はその上で成り立つ。
本土の中で滞ってるあらゆる事をなおさねばならない。
保健大臣としては、まず衛生について主張する。
そして、国を預かる大臣として、あらゆる滞りの解消をうったえる」
チェンバレンが最初に提唱した下水。
そして、交通機関。
労働力の確保、国内に賃金を行き当たらせる。
昨今の不況を少しでも緩和するため。
そして、不況対策のあとに物流を円滑にし、経済をまわすため。
これらは利益を増大させるものではない。
だが、必要経費を大幅に下げてくれる。
無駄な停滞を消してくれる。
チェンバレンはそれを求めていた。
「その時に、我が王国は再び覇権を主張できるようになる」
その為の土台を作る。
国内環境をととのえれば経済に反映される。
その経済、総合的な国力をもとに軍を再編できる。
「だから、我々は重荷となっている植民地を解放する。
各地から陸軍を回収する。
海軍も再編する。
より強靭な軍勢を作るにはこうするしかない」
これには覇権主義者も肯くしかなかった。
まともな者ならば、チェンバレンの言ってることも理解ができていた。
例外もいるが、そういった者は容赦なく退場させた、物理的に。
さらにチェンバレンが示す軍の再編案も見せられる。
それらに目を通して覇権主義者は、その内容を一蹴はできなかった。
好みとはかけ離れていても、妥当性については否定できなかった。




