81.給料日~ぬいぐるみ騒動~
ボーナスが入ってほとんどの授業員がその額に喜んでいた。
そんな中、美奈がほしい物があるといいだしたので、碧は──
桐人への借金を完済した月のお給料日、ホクホク顔の皆の中で一人だけ浮かない顔をしているドゥオ。
理由は分かっている。
「なんで俺だけボーナスないの?」
「それは、色々やらかしてるでしょう」
浮かない顔のドゥオに、トレースは真面目な顔で返していた。
自業自得だよね、うん。
「なんで、俺は税金分抜かれて20万なのに、お前のは抜かれてるのに100万なんだよ!」
「日頃の行いです。貰えるだけ感謝しなさい」
「碧や、老いぼれにこんなにボーナスをくれても使い道がないんじゃが?」
宗一お爺ちゃんが嬉しそうにだが困ったように笑って言う。
「宗一お爺ちゃんが好きな和菓子でも買えばいいんですよ、もしくはめったに飲まないお酒とか」
「そうじゃの、和菓子でも買ってばあさんの骨壺の前にでも置くか、あと緑茶も買って」
宗一お爺ちゃんは嬉しそうに頷きながら言った。
「トレース、すまんが買い物に付いて来てくれんかの?」
「宗一様、勿論です」
「なんで、俺じゃない……?」
「これが信頼の差というものだ、ドゥオ」
「うわー!」
泣き叫ぶドゥオと、それを眺めるウヌスさん。
呆れた顔で見ている涼兄さんと私とノウェムさん。
「やった、お給料……でもどうしよう?」
「どうしたの、みっちゃん。ほしい物でもあるの?」
「うん、クレーンゲームの商品で今度のんびりっこシリーズの新しいぬいぐるみが出て──」
「よっしゃ、取りに行こう、いつから?」
最後までみっちゃんが言う前に私は出発の準備を始める。
「今日……だけど、いいの?」
「クレーンゲームでしょ! 任せて! いつもみたく取ってみせるから!」
私はノウェムさんとセムさんを見る。
「と言う訳で、護衛お願い!」
「分かったが……クレーンゲームとは?」
「見れば分かるよ」
私達は早速商業施設RINRINへと向かった。
商業施設の階までエレベーターで移動する。
そしてお金を両替して、目的のクレーンゲームを発見。
「あ、お祭りシリーズだ、皆お祭りのはっぴ姿で可愛い!」
私は500円をじゃらじゃらと手の中で遊ばせながら、ちらりとみっちゃんを見る。
大好きなのんびりうさぎのはっぴ姿のぬいぐるみに目を輝かせている。
子どもみたい。
まぁ、私も好きだから人のことは言えないのだけども。
私はアームの位置や景品の配置をじっくり確認する。
そして500円玉を投入して、一度キャッチャーの具合を確認する。
少し動いて落下した。
が、これならいけると確信できる状態だった。
私はもう一度アームを動かし、ぬいぐるみを掴む。
今度はアームはそのままぬいぐるみを運び──
ガコン!
「よし、取れたよみっちゃん、はいどうぞ!」
「わぁ、ありがとう! 碧!」
「さてと、残り3回あるから……」
私は好きなのんびりねこと、他ののんびりっこたちのぬいぐるみを取った。
「さぁて、帰る──」
と、思ったら、小さな手がのんびりっこのクマを掴んでいた。
「こらまなみ! 離しなさい! 取れなかったんだから仕方ないでしょう? すみません、うちの子が」
「う゛~~くまたん! のんびりぐまだんぼじいのぉおお!」
小さな子が号泣し始めた。
セムさんとノウェムさんは硬直、そういう場面に遭遇したことないんだね。
みっちゃんはおろおろ。
「お話聞いてもいいですか?」
「実はこの子お小遣いためて今回のクレーンゲームをしたんですが、私もこの子もクレーンゲームはさっぱりダメで……」
あー、クレーンゲーム得意不得意が分かれるもんなぁ。
「ああ……、ちなみにおいくらお使いに?」
「2000円です、500円毎月お小遣いなので、お菓子とかは別ですが……」
「じゃあ、差し上げますよ」
「え⁈」
女の子のお母さんは驚いた顔をした。
「ただし条件が一つ」
「な、何でしょう?」
「のんびりくまは貴方が取った、ということにしてください、偶然でいいので」
「それ位なら……」
「では、お嬢さん、はいどうぞ」
「くまたん!」
女の子はくまのぬいぐるみをぎゅーっと抱きしめて満面の笑みを浮かべた。
「おねーちゃんありがとう!」
私は女の子の頭をそっと撫でる。
「おっと、それは内緒だよ?」
「あ、ないしょ! うん!」
女の子は満面の笑みを浮かべる。
母親もそんな娘を見て安心したように微笑み、ゲームコーナーを後にした。
「碧、良いのか?」
硬直が解けたらしいノウェムさんが声をかけて来た。
「うん? 何が?」
「オークションで調べてみたが、プレミアが付いてるぞ」
「あ、知ってるよ。まぁ、また取ればいいし。私は取れるから」
勿論知っている、のんびりっこは、今や世界でも有名なキャラクター扱いをされているのだ。
のんびり生きたい。
穏やかに暮らしたい。
そういうささやかな願いを叶えられない人のよりどころにもなっている。
今みたいな世の中だからこそ、なおさらだ。
「じゃ、帰ろうか」
そう言って帰ろうとした矢先に──
「泥棒ー!」
「くまたん、かえしてかえしてー!」
先ほどの親子の声、向かってくるのはクマのぬいぐるみを抱えた男。
「ノウェムさん、泥棒が死なない程度でお願い! セムさんはクマのぬいぐるみが傷つかないように!」
「了解」
「かしこまりました」
二人が一瞬で動く。
ノウェムさんがかかと落としで男の肩に衝撃を与え、その直後緩んだ腕からセムさんがクマのぬいぐるみを取り返す。
警備員たちが駆けつけ男を捕縛する。
私はクマのぬいぐるみをセムさんから受け取り女の子に返す。
「よかったね、くまたん、無事だよ」
「おねーたんたちのおともだち⁈ かっこいい!」
「そうよー、悪い人をやっつけたのはおねーさんのこいびと」
「きゃー!」
女の子は顔を赤くしてキャッキャとはしゃぐ。
親子は再び頭を下げて戻って行った。
私は心配だったので、車に乗るまで見送った。
車の中で女の子が嬉しそうにクマのぬいぐるみを抱きしめているのを見てほっとした。
「さて、今度こそ私達も帰りますか」
「うん!」
「かしこまりました」
「分かった」
私達は商業施設RINRINを後にした。
社宅に戻るとみっちゃんはのんびりうさぎの新作を、ベッドに正座している一般売りされているのんびりうさぎのぬいぐるみの側にちょこんと置いた。
「ありがとう、碧」
「どういたしまして」
嬉しそうな顔で二つのぬいぐるみを眺めているみっちゃん。
私は微笑ましそうに眺めてからそっと社宅を後にした。
「碧はぬいぐるみどうするんだ?」
「ベッドには、お気に入りのお花の妖精シリーズののんびりねこを置いてるから、この子たちは……」
自室に戻り、残りのぬいぐるみのことをノウェムさんに聞かれた。
部屋の大きめのクローゼットを開ける。
「ぬいぐるみコレクションの仲間入りかな」
「……全部プレミア価格が付いてるものではないか」
「いやー可愛くてついね」
「……」
ノウェムさんはむすっとしている。
あーもう、ぬいぐるみに嫉妬しないの!
私はウェディングシリーズのぬいぐるみ、猫と犬を持ってきて見せた。
「ちなみに二番目にお気に入りのシリーズが、こののんびりっこ。のんびりねこと、のんびりいぬね」
「……猫が花嫁で、犬が花婿ではないか」
「そう、猫は私、犬はノウェムさんって感じ……しないかなー?」
照れ隠しにそう言うと、ノウェムさんは顔を背けたが耳まで赤い。
「嬉しい?」
そう言うとわずかに頷いた。
私はぬいぐるみをベッドの上に置き、ノウェムさんに抱きつく。
「本当、ノウェムさん大好き! 愛してる!」
「か、からかわないでくれ……だが、私も、愛しているとも」
私達はそう言って抱きしめ合った。
今日も幸せだった。
碧は桐人にクレーンゲームの極意を教えられてるので取れます。
咲良は桐人に取って貰えば良い精神なので覚えませんでした(裏情報)
美奈はクレーンゲームでぬいぐるみがあると、碧に頼ってしまいます。
自分はできないから、その代わり勉強を教えたり色々やってきました。
くれくれ親子ではなく、子どもの駄々こねを何とか引き離そうとする真面目な親子でした。
そういう人だと見抜いたので、碧は女の子にのんびりくまのぬいぐるみをあげました。
まぁ、でもプレミア価格着いてると知ってたら盗もうとする奴もいるもので、女の子から奪って逃げようとした所をノウェムにのめされました。
そしてぬいぐるみにも嫉妬する碧は、照れ隠しで猫と犬のウェディング花嫁花婿姿を見せます。
相も変わらず、ラブラブです。
このまま何もなければいいのですが……
ここまで読んでくださりありがとうございます。
誤字脱字報告等ありがとうございます。
次回も読んでくださるとうれしいです。




