75.我慢できること、できないこと~お前は反省の二文字を覚えろ!~
モナル社の副社長のヒースが自分の両親の死に関わっている可能性が高いのに、行動に移すなと言われて碧は腸が煮えくり返る思いでいた。
が、桐人たちの主張も正しいのでそれを信じて借金返済を頑張ろうと心に決めていた時──
取りあえず、ヒース副社長は泳がせておくという方針に決まった。
今急に接触しては危険だという桐人兄さんとレティシアさんの判断だ。
正直私は今すぐにでも接触して断罪したい気持ちがあるが、2人は許可をくれなかった。
ノウェムさんも──
『君が危険な目に遭うのは耐えられない』
と否定的。
仕方ないので、その通りに従うことにした。
それでも、納得できないことがある。
ウチの両親の死に関わっている可能性が高く、その上で私達にどの面下げて会いに来たのか。
度胸があるのか、それとも私達を潰れる零細企業と侮っていたのか。
どっちにしろ腸が煮えくりかえる思いだ。
まぁ、今はどう動こうと借金返済が重要だ。
総額500億だった借金が今は142億6千万になっている。
問題が無ければ返せるはずだ。
それに貯金もかなり貯めている、非常時にはそこから出すのも考えよう。
「……そう言えば聞いてなかったな」
私はふと思い出した。
ナンバーズを作る時良心は痛まなかったのかとか。
「よし、聞いてみよう」
私は桐人兄さんと通話をすることに。
ノウェムさんはただいま逃げ回っているドゥオをウヌスさんに変わって追いかけ回している最中なので今の私の護衛はウヌスさん。
なんか、ノウェムさんの逆鱗に触れることをしたらしく鬼の形相で追っかけていったのを見た。
ウヌスさんは頭が痛そうな顔をしていた。
『おう、桐人だ』
「ああ、桐人兄さん」
『どうした、俺に何の用だ?』
そう尋ねると桐人兄さん欠伸をした。
「ナンバーズを作る際良心が痛むとか無かった?」
『んー特に、俺のデータを元に簡易化したものを作るだけだから、なんぼかマシかな程度だったな』
「本音は?」
どこかおどけるような口調に私はさらに突き詰めるように言う。
『本音だよ。ほとんど思うことは無かった。俺らモドキがまたできるのか、程度だ』
「それは辛く無いの?」
『別に、人体実験して作ったわけじゃないからな、俺の仮説で作られたのがナンバーズだ、その通り動いて、傷も治って、感情もあってだがな』
「……実験は、しなかったんだね」
それに少し安堵した。
『当たり前だ、何が悲しくてそんなことしなくちゃなんねぇんだよ』
「そっか、そうだよね」
桐人兄さんは実験に耐え続けてきたからこそ、実験はしなかったんだろう。
許可もほぼしなかったんだろう、でも桐人兄さんの頭脳から産まれたナンバーズたちは桐人兄さんの計算通りに生き、喜び、仕事をするようになった。
ある意味ノウェムさんが感情を取り戻すのも、桐人兄さんの計算通り……だったとしても、感情はノウェムさんだけのもの、気にしないようにしよう。
『要件は終わりか?』
「うん、借金返済頑張るね」
『ほどほどにしとけよ、完済はいまでも待ってやるから』
「そういう訳にはいかないの!」
『はいはい、じゃ、頑張れ』
「うん」
そう言って通信を切った。
『それにしてもノウェムさん遅い……』
「遅い」
ウヌスさんも何か危惧している様子だった。
それから三十分ほど経った頃だった。
ノウェムさんがやって来た。
「ノウェムさー⁈」
「どうした、ノウェム⁇」
ボディースーツがボロボロな状態で現れた。
「……」
しかし、一向に原因を喋らない、ただ私に抱きつくだけ。
「どうしたの、ノウェムさん? 貴方を怒らないから言って?」
そうやって促すと、ようやく喋ってくれた。
「……ドゥオにヤられそうになった」
「……え?」
頭の中が真っ白になる。
「「は⁇」」
思わずドスのきいた声を私とウヌスさんは出してしまう。
それを効いたノウェムさんはびくっとした。
「違うの、貴方じゃなくてドゥオに怒ったのよ」
「その通りだ、で奴は」
「……股間を蹴り潰しているから今頃倉庫の中だ」
……許す。そこだけは、蹴り潰していい。
「把握した、碧様許可を」
「許す、肉塊もどきにしなさい」
此度は許さん。
いつもの馬鹿やったなら許すけど、私の大事なノウェムさんを傷モノにしようとするなんて許さない。
いや、いつもの馬鹿も許してはならないけど。
ドゥオのお陰でウチの家族が大変なことになってるんだからね!
その最たる被害者が──
メフィストだ。
クラレンスたちとちょっとばかり中身も外側も違うからメフィストのメンテナンスは慎重に行わないといけないのにドゥオと来たら。
「ノウェムさん、お風呂入ろう。あんな馬鹿に無理矢理されそうになったんでしょう」
「さ、触らないでくれ……汚いから」
ノウェムさんがされそうになったことで自分が穢れたと思い込んでる。
ドゥオの野郎、今月給料無しだ。
覚悟しろ。
私はふぅと息をはいてから、手を掴んで自室の風呂場に連れて行く。
そして一緒にお風呂に入る。
洗える部分だけ私が丁寧に洗う。
それ以外の場所は流石にそこまでは踏み込めない。
烏羽色の髪も洗って、綺麗になるように流す。
そして一緒にお風呂につかり、手を掴んで言う。
「ノウェムさんは今回何も悪くないし、汚れてないの。悪いのはあの馬鹿!」
「だけど、君以外と──」
「無理矢理でしょう?」
「うん……」
「なら私は貴方の心配をする。ドゥオは今頃肉塊モドキになってるだろうし」
「今日明日動けなさそうだが……」
「知らん! アイツは今月の給料無しだ! 今回の件で」
そこまで言うと、ようやく安心したかのように背後から私に抱きついた。
「良かった、君に嫌われるんじゃないかと怖かったんだ……」
「私が嫌うのは命を無駄にするような行動をするときだけよ」
「……そうだ、そうだったな」
ノウェムさんは私の首筋を甘噛みする。
ちょっとくすぐったい。
「……ところで、言いたくないなら言わなくていいんだけど……」
「……ドゥオがやろうとしたことか?」
「そうそう、何かそれだけじゃない気がして──」
ノウェムさんは甘噛みを止めてしばらく黙った。
「ノウェムさん、いいんだよ。言いたくないなら」
「いや、言おう。君と私はそういう行為ができないから疑似的にそういう行為をする道具を私に使おうとしたから、破壊して殴り合ったあと、無理矢理ヤられそうになった」
さらにギルティ。
ドゥオ、お前にはその思考しかないんか⁈
「決めた、しばらくはドゥオの給料は無し! アイツが反省の態度見せるまでは給料はあげない!」
「……留飲が下がったよ」
「なら良いの」
抱きついてくるノウェムさんの方を振り返って笑うと、ようやくノウェムさんが笑った。
そして社長室。
「あ、あの。トレースさん、貴方が土下座する必要はないんですよ?」
「そうだ、トレース、お前が土下座をする必要は無い」
「トレース、何故お前が土下座をする」
私、ノウェムさん、ウヌスさんが、社長室で土下座をしているトレースさんを見て驚く。
いや、驚いてるのはノウェムさんとウヌスさんで、私はうろたえている。
「あの馬鹿がそんな真似をしたとはつゆ知らず、もう少し私が奴の監視強化をするべきでした。申し訳ございません、碧様、ノウェム」
そう謝罪するが、トレースさんはドゥオがいない中で宗一お爺ちゃんの護衛を行い、ドゥオが放棄した涼兄さんの護衛も行っていた。
その上で、私の家族のメンテナンスまで行っていた。
これ以上何かを望むというのはかなりきついことだ。
「いいんですよ、だってドゥオがいない分兄さんと、宗一お爺ちゃんの護衛任務に頭を使って、その上メカニックとしてもしっかり頑張ってくれているトレースさんには悪くないです」
「いえ、ですが……」
「トレース、お前は努力をしすぎている。もっと気を楽にしろ」
ウヌスさんがトレースさんに指摘する。
「ドゥオがいない分補填をしなければとかなり気づかっていたのだろう?」
「それは……」
「ならばお前は悪くない、誇れ」
ウヌスさんがトレースさんをねぎらう。
「そうよ、ドゥオの分の給料上乗せするから気にしないで」
「あの、ドゥオの給料は?」
「反省するまで当分無し、レティシアさんにも許可貰った」
お風呂上がり、ノウェムさんがより落ち着くまでの間にレティシアさんに今日の件を報告すると、頭が痛そうな声が返ってきた。
そして、私は当分ドゥオの給料を反省するまで無しにすることを伝えると──
『それがいいわ、なんでドゥオはあんなになったのかしら、分からないわ』
という声の後に──
『お嬢様、産後体格を戻す為の運動のお時間でございます』
『ああ、もう、デケム! 空気を読んでよ!』
という悲痛なレティシアさんの叫び声が聞こえた。
デケムさん、ウチにいなくてよかった、と思ってしまった私は薄情だろうか?
取りあえず、デケムさんは柔軟な対応というものを覚えて貰った方がいい。
そう思う今日この頃だった。
翌日、しわくちゃ顔のドゥオに、私とウヌスさんで説教をした上で、反省の態度が見えるまで当分の給料は無しと伝えると半泣きになった。
『そんなぁー! 俺はノウェムと碧ちゃんの為に買ったのにー!』
とかぬかしてきたので、私は。
『無理矢理道具使おうとしたり、ヤろうとしたりした時点でアウトよ大馬鹿者!』
と一喝。
その上で「二度と同じことはしません」と誓約書を書き血判を押させ、破ったら即肉塊モドキの仕置きにするという罰を与えると念入りに締め上げた。
さらにしわしわな顔になったドゥオを引きずって、ウヌスさんはメンテナンス室へと向かった。
ノウェムさんは物影でそれを見ていたので、出て来てこう言った。
『気分が晴れやかだ』
と。
……とはいえ、あの馬鹿だから油断はできない。
ドゥオの馬鹿からノウェムさんを守らねば、そう誓う私だった──
ドゥオがとんでもない馬鹿をやらかしました。
碧が激おこです、ウヌスに肉塊もどきにしてこいと命令しました。
いつもならウヌスが独断でドゥオを肉塊もどきにしますが、この時碧は初めて自分の意思でそうしました。
それほどノウェムが大切なのです。
一緒にお風呂に入ることで、貴方は「穢れて」ないをよりアピール。
それにしてもトレースも大変ですね、ドゥオの尻拭いといいますかやらない部分を補完して自分の仕事もしてと……
ドゥオに汚名返上の日は来るのでしょうかね?
ここまで読んでくださりありがとうございました。
誤字脱字報告等ありがとうございます。
次回も読んでくださるとうれしいです。




