71.グレイズ訪問~№8オーク。そしてお前が原因か!~
ロゼッタの訪問から一週間後、レティシアの実父グレイズがパトリ社にやってきた。
本人は「義理の息子の職場見学」と言っていたが、事実は──
ロゼッタさんの訪問から一週間後。
レティシアさんのお父様……グレイズさんが会社にやって来た。
何の用だろう?
「義理の息子の職場見学だ」
「以前来た時見なかったのですか?」
ノウェムさんの件があるから、この人はかなり苦手だ。
ノウェムさんにしたことは許さないからな、私も。
とか、思っていたら、別の車が来た。
朝から姿を見せていなかったウヌスさんとレティシアさんがやって来た。
「レティシアさん⁈」
「レティシア⁈」
「お父様、パトリ社に、碧さんに迷惑をかけないようにと私おっしゃいましたよね?」
レティシアさんの笑ってない笑顔が怖い。
「お嬢様、そうグレイズ様を怒らないでください! 俺がノウェムを見たいって言い出したんですよ!」
「オーク……」
そう言うと、メフィスト達くらいの巨躯でがっちりした体型の男性が出て来た。
緑色の短髪に、緑色の目、褐色の肌の男性だ。
「こ、この方もナンバーズ?」
「おう、お嬢さん! 俺はナンバーズ、№8オクトー、他の連中からはオークって呼ばれてますぜ! だからオークって呼んでください!」
「は、はぁ……」
やっぱりナンバーズってラテン語の数字から取ってるのか……
「碧、オークはウヌスの次に敵に回したら戦いでは厄介だぞ」
「へ?」
思わず間の抜けた声が出る。
「見た目に反してスピードはウヌスより若干遅い程度だ、何よりその豪腕、剛脚の破壊力はウヌスを上回る」
「えっとつまり……」
「敵になったらよほど運が良くない限りこっちがやられるな」
「ひぃいいいい!」
明るいけど、この人怖い!
「俺達が仲違いすることなんて──」
「聞いたぞ、ウヌスに。グレイズ様の時、誰が当主になるかの争いで、お前とウヌスがやり合ったと、だが、ウヌスの陣営の方が数が多かったから、グレイズ様がご当主になられたと」
「うへぇ……」
身内争い……できれば、テオ君とミネルヴァちゃんはしてほしくないなぁ……
できればじゃない。絶対だ。
「ミネルヴァとテオにはそのような争いはさせませんので」
レティシアさんが私の不安を吹き飛ばすようにきっぱりとおっしゃった。
さすがレティシアさん。
「グレイズ様達の当主争いは、当時のご当主様──ブラウン様が優しすぎた……いや優柔不断だったのが原因だったんだよなぁ。ウヌス、なんでグレイズ様に付いたんだ、お前たちは。あの冷徹な性格じゃ苦労は絶えないだろう?」
「当初は俺もそう考えていたが、奥方様。クレア様がおっしゃったんだ。『次期当主は困難に立ち向かえるグレイズ以外にあり得ない』と」
グレイズさんのお母様なのかな。
困難に立ち向かえるってことは何か色々あったのかな?
「そういや、事実色んな会社がモナル社にケチつけてきてかなり苦労したよな」
「ああ、それに対応できたのはグレイズ様だったからだ。他のご兄妹ではこの困難に立ち向かえなかった、それを理解してしまったから他のご兄妹たちは独身を貫き、争いの火種を無くしている」
「そういや、そうか」
オークさんも何か納得してるみたい。
「特にテトラ社とのやりとりはレティシア様の代まで続いてかなりひりついていたからなぁ」
「テトラ社とは創業当時から仲が悪かったじゃねぇか。ツヴァイフルング社も同じだ」
「創業者のグレイシア様は『あの連中はロボットを道具としか見ていない! もしくは金のなる木!』が口癖だったもんなぁ」
「ちょちょ、ちょっと待って!」
私が口を挟んだことで、ウヌスさんもオークさんも失態に気づいたようだった。
レティシアさんとグレイズさんも呆れている。
「もしかしてナンバーズって創業時に創られたの……?」
「げろっちまうか」
「そこからは私が説明しよう」
グレイズさんがあきれた様な表情でウヌスさんたちを見てから、ため息をついて話し始めた。
「創業者グレイシア・キーアのことから説明をするべきか?」
「一応お願いします」
知っているけど、念の為もう一度。
「創業者グレイシア・キーアは創業前に自分を狙った者たちの襲撃で婚約者アレフ・モナルを失ったことで、自分と子孫を守るための手段が必要だと考えた」
はい、それは知ってます、ただ自分と子孫を守る手段については初めて聞いたな。
「だが、強化した人間でも限度はあるし、ロボットは人間に手出しできない」
「はい、それは今でも変わりませんよね」
「ああ、そこで、とある天才研究者に相談したところ──疑似的な不老不死の生命体、人外的な身体能力を持つ人型の人工生命体──通称ナンバーズが№8まで創られた」
「8まで? ということはオークさんがその当時創られた最後のナンバーズ?」
「おう!」
研究者という言葉にひっかかりを感じた。
しかもグレイシア・キーア氏は300年以上前の人……
300年前でそこまで頭脳を持って居る存在……
心当たりが一つあったが、本人の口から聞くまで私は知らないフリをすることにした。
「ナンバーズの行動は素晴らしいものだった、それで創業者グレイシアは私達まで守ることができた」
「……じゃあなんでノウェムさんが必要になったんです」
そこだ、私の疑問は。
「事業が拡大し続けたことと、庇護する対象や、重要案件などを任せることをしていたせいで、レティシアを守るナンバーズが急遽必要になった」
其処まではまだ理解できる。
「だが、ナンバーズがレティシアに何か感情を抱いたら不味いと思い必要最低限までそぎ落とし──もとい麻痺させた」
此処が理解できねぇんだよな、この親父!
「そして私はそれに激怒して、現在進行形でお父様を家から締め出しています」
「レティシア~~! 頼む、私に可愛いお前の子どもの顔を、孫の顔を見せてくれ!」
「デケムの件もあるんですからね! 私の食生活に介入してきて大変だったんですから! 食べ物で特定のものしか食べられない時は理解させるのが大変でしたよ」
「そ、そうだったのか?」
「ええ、ゼリー飲料NOVAやプリン、ゼリー等しか食べられないときにも普通の料理を食べさせようとしたのですからね!」
あー妊婦さん、特定の食べ物しか受け付けないってことあるって聞いた事あるなぁ。
白米好きな妊婦さんが白米の炊ける匂いで吐き気がして、何故かフライドポテトしか食べられなかったとか聞いた事はある。
「順さんとセスが『妊婦さんは特定のものしか食べられないことがあるから、普通の料理食えとか言っちゃダメ』って教えてなければ本当辛かったですよ!」
「そ、それはすまなかった……」
あーあ、産前産後の恨みは恐ろしいと聞くからねそれが順兄さんじゃなくて実の親のグレイズさんに向かったか。
まぁ、どんまい、としか言えません。
「レティシアさん、少し落ち着きましょう、話がめっちゃそれてます」
「! そ、そうね……」
レティシアさんはいつもの落ち着きを取り戻した。
「レティシア、私は今幸せだから、そこまで怒らなくても……」
ノウェムさんがグレイズさんに同情しているぞ。
「お父様が貴方をそんな体に創ったからやることもできないんでしょうが!」
「れ、レティシア!」
「レティシア! はしたないぞ!」
「レティシア様……」
「お嬢様……」
レティシアさんの言葉に、ノウェムさんは顔を真っ赤にしている、可愛いなー。
まぁできないのは仕方ない、だってついてないんだもん。
グレイズさん、そう言うけどノウェムさんにつけないようにしたのアンタでしょ。
ウヌスさんとオークさんは、レティシアさんからそんな言葉を聞きたくなかったと言わんばかりの表情を浮かべている。
まぁ、私もレティシアさんから間接表現でも聞きたくはなかったかなぁ!
「レティシアさん……」
「あら、やだ私ったらはしたない……」
私が名前を呼ぶと、我に帰ったらしいレティシアさんは顔を赤くした。
「だから、なんでそこまでして!」
「前例がいるからだ、馬鹿をした前例が」
「……あのーもしかしてそれってドゥオ?」
「当たりだ……」
グレイズさんが額を抑える。
「妹と姉が貞操観が緩かったのでな、一回やった後、病気は貰いたくないってドゥオとそういうことをしまくってたらしい」
「レティシアさんは、貞操観しっかりしてますよ?」
「そういう女子にもアイツは手を出すと聞いているから、私はノウェムをわざわざ創って貰い護衛にしたのだ!」
重い沈黙が訪れる。
「なになに、どうしたのー?」
「ドゥオ……」
何も把握していないドゥオがやって来た。
逃げて来たのだろう、焦っているのが分かる。
私は地を這うような声で名前を呼ぶ。
「ノウェムさんが酷い目にあったのも、感情そぎ落とされたのも、きっかけは──」
「お前かー‼」
ドゥオが気まずい顔をしたが周囲を見て青ざめさせた。
バキバキと手を鳴らすウヌスさんとオークさん。
額に筋を浮かべて笑うレティシアさん。
「ウヌスさん、スプラッター劇場解禁許可します、今日は存分にやっちまってください」
「了解した」
「お⁈ ウヌスのドゥオ用の仕置きになりつつあるアレか、俺も参加させてくれ!」
「ギャー! 馬鹿力のオークも混ざったら肉塊もどきじゃなくて肉塊になる! それどころか肉片になるー!」
そんな悲鳴を上げながらウヌスさんとオークさんに捕まえられて、倉庫へと連れて行かれた。
いつも通りの断末魔のような叫び声が聞こえたがすがすがしい気分だった。
「……でも、つけない必要はなかったのでは?」
「万が一というものがある!」
「でも、女性同士だって恋人になることはありますよ?」
「それは……」
私は疑念をグレイズさんに突きつけていく。
そのお陰で距離は縮まっているが、そういうことができないんだもの。
若干不満はある。
「万が一、レティシアがナンバーズに恋をしたとしてもそうならないようにと……」
「「ハァ──⁈」」
やっぱり自分の都合じゃねぇかこの人。
やっぱりこの人、許せん!
「お父様、やはりしばらく来ないでください。ドゥオの件でだけだったら許せましたが、やっぱり許せませんので」
「何故だー!」
「あ、やっぱりダメでしたか」
「恨みは深いですからね」
血を浴びたウヌスさんと、手が血まみれなオークさんを見る。
「一応死んでないですよね?」
「死んではいないが今日は使い物にはならない」
「もちろんだ!」
「ならいいです」
手を洗ったオークさんがグレイズさんを引きずって車に乗せて帰ると、レティシアさんもウヌスさんに車に乗せて貰って帰った。
「結局職場見学していきませんでしたね」
「まぁ、また来るでしょう」
ノウェムさんが少ししょんぼりしている。
コンプレックスを刺激されまくったのだからそれは当然か。
「大丈夫ですよ、私は。ノウェムさんについていようが、ついていまいが、私はどちらの貴方でも好きです」
「ほ、本当か?」
「ええ、勿論……だから……」
「今日の夜、ね?」
そう言えば顔を真っ赤にして頷いた。
その日の夜、邪魔者が入らないように鍵を厳重に閉めて、盗聴器もないのを確認してから、私達はベッドに潜り、タオルをするりと取り合った。
お互いの肌は熱を帯びていて、指先が触れ合うたびに甘い熱が広がる。
唇を重ねるたびに、くすぐったさが込み上げる。
何度も何度も唇を重ね合わせ、名前を小声で呼び合う。
それだけで頭が痺れるような感覚になる。
そういうことができなくても、触れ合うだけでこんなに幸せならば私はそれでいい──
はい、ノウェムの体の原因が発覚しました、性格の方は変わらずグレイズの考えが原因です。
ドゥオは多分肉塊で蠢いているでしょう、でも反省しないのがドゥオですので。
グレイズもどこかズレています、実の娘を守るためにとかの方法と考えがずれてるんですよ。
でも、碧はどちらでも構わないと最終的に言ってノウェムと触れ合います。
それが、二人の幸せなのでしょう。
ここまで読んでくださりありがとうございました!
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