69.ウヌスの言葉~桐人の謎~
社長室で碧とノウェムとウヌスは書類を見つめていた。
パラシートゥス迎撃戦の報酬だった。
400億入金されたが──
パラシートゥス迎撃戦の数日後の社長室。
私とノウェムさんは書類を確認していた。
「ノウェムさん、先日のパラシートゥス迎撃戦、幾ら入りました?」
「税金込みで400億だ」
400億、これが全部使えれば借金は完済できるんだけど……
税務署がさらに税とか取っていくから、全額返済には回せない。
「それ全額ぶち込めればもう完済なんだけど……300億は何かあった時の為に残そう」
「それがいい」
「借金は現在242億6千万だから……100億返済して、残り142億6千万になる……」
大分道筋がまた見えてきた。
「では入金してきましょう」
「ああ」
そう言って早速会社を出て銀行に向かい入金を済ませた。
何百億単位の入金にも、銀行員たちはすっかり慣れてしまったらしい。
恐る恐るではなく、丁寧に対応してくれる。
そして、入金が終わり、会社の休憩室で一息つくと、通信機が鳴った。
私はスピーカーモードにして、通信に出る。
「もしもし」
『碧ちゃーん、俺ですよー! 桐人兄さんですよー!』
「碧、今すぐ通信を切れ」
ノウェムさん、本当桐人兄さんが嫌いなんだから。
「こーら、桐人兄さんは入金確認の電話をしてくれたんでしょう?」
『おう、100億きっちりはいってたぜ』
「なら良かった」
これで100億入ってなかったら銀行違うのに変えよう。
まぁ、モナル社関連の銀行だからその必要はなさそうなんだけども……
『ウヌスが派遣で来てるらしいな』
「ええ、どうして知ってるの?」
『レティシアから聞いた』
レティシアさん、桐人兄さんとはかなり密に連絡を取り合っているみたい。
『ドゥオの奴どうなった、アイツナンバーズ一の問題児だからよ』
「ウヌスさんの目が怖いらしく、びくびくしながら仕事しているって宗一お爺ちゃんが言ってたわよ」
『はは、アイツはウヌスだけは怖いからな。有言実行の塊なだけある』
楽しげに笑っている声が伝わるが私はあることを思い出してひくつかせた。
前にウヌスさんが言っていた言葉を思い出す。
『また肉塊もどきになりたいか』
という、ウヌスさんのドゥオへの言葉。
「頼むから会社内でスプラッターなこと起こすのはやめてほしい……」
『あったんだろ、見てないだろうけど。と言うか見なかっただろう』
「あたりまえでしょう! 誰がそういうの見たがるの!」
『だよなー』
のんきに言うに桐人兄さんに、頭が痛くなってきた。
どうしてこういう時までのんきなのかしら。
その時だった。
「ギャー!」
ドゥオの悲鳴が休憩室まで響いてきた。
そして休憩室まで逃げて来た。
やって来たのは宗一お爺ちゃんと、ウヌスさん。
宗一お爺ちゃんはあきれ顔、ウヌスさんはマジギレ状態。
「ドゥオ、お前さん。儂は何度も言ったはずじゃ! 溶接などの整備士としての最低限の技能はそろそろもっておけと言ったのに……」
「そ、宗一お爺ちゃん。何かあったの?」
「メフィストのコードを繋げる作業と、溶接の作業、両方失敗してメフィストが動けなくなっちまったんじゃ」
「え゛」
メフィスト動けなくなっちゃったの⁈
ど、どうしよう、大丈夫かなぁ……
「今、涼とトレースが修復中じゃ、あの二人なら大丈夫じゃて」
「さて、ドゥオ。言い訳くらいは聞いてやる」
私とノウェムさんの座っているソファーの後ろでガタガタと、ソファーが揺れるほど震えているドゥオ。
「だ、だってあそこまで難しいなんて思わなかったんだよ!」
「じゃからお前さんにはまだ早いと、言ったのに勝手にやったんじゃろうが!」
宗一お爺ちゃん怒っている。
そりゃ怒るよ。
大切な家族を危険な目に遭わせたんだから。
「ドゥオ、倉庫に行くぞ、貴様の臓物をかっさばいてくれる」
「ギャー! 助けて碧ちゃん、ノウェム殺される!」
「その程度で私達が死ぬわけないだろう」
ノウェムさんはそう言って私の肩に手を回した。
「ふ~~心臓に悪かった」
「そうですね……」
其処に涼兄さんとトレースさんがやって来る。
「おお、涼。トレース。大丈夫じゃったか」
「うん、爺ちゃん。コード配線のほうはバッチリ、溶接間違いの所も全部直してちゃんと動けるようにしたよ、溶接はトレースさんに任せたから大丈夫だとおもう」
涼兄さんも、いつの間にかこんな整備まで任されるようになったんだなぁ。
あと、トレースさんはヤッパリ万能過ぎ。
そこへ、整備を終えたメフィストが飛び込んできた。
「ひぃ~、もうダメかと思ったよ~!」
「メフィスト!」
私は立ち上がりメフィストに抱きつく。
「他に不具合とかはない?」
「大丈夫! ちゃんと動けるよ!」
そう言ってくるりと回転して見せた。
「良かった……」
『……おい、ドゥオ』
「げぇ⁈ その声、桐人⁈」
あそっか、スピーカーで音量も最大にしてたから聞こえてたんだ向こうにも。
それにしても、今の桐人兄さんの声、地を這うような低い声だったな。
ドゥオもかなり焦ってる。
『お前のやらかしはよくレティシアから聞かされているぞ、三桁を超える女とのトラブル、情報漏洩、その他色々……しかも今度は俺の可愛い碧のところで迷惑かけるとはいい度胸だな』
「え、えっとそれは……」
ドゥオを見れば脂汗をだらだら垂らして、視線をキョロキョロとさまよわせている。
『俺にも我慢の限度がある、レティシアに言うぞ「ドゥオの殺処分」を検討しろと』
その声は聞いている私にも恐ろしく聞こえた。
「嫌だー! 俺はまだ死にたくないー!」
『だったら好き勝手やってねぇでまともに仕事しろボケェ!』
ウヌスさんの一言よりも、重い言葉が入っている。
「き、桐人殺処分って……」
『本気で処分検討されるぞ、とだけ言っておく』
「な、なんでそれだけ?」
『少なくとも今まで前例はない。だから"検討"止まりだろう。大丈夫だろそれなら』
「それでも抗議したい気分よ!」
桐人兄さんの言葉に、私は言い返す。
「ドゥオ、分かったら宗一お爺ちゃんの言うことをよく聞いて行動して頂戴、自分勝手な行動は慎んで」
かなり落ち込んでいる様子が少し可哀想になり、私は優しく諭した。
「はい……碧ちゃん」
「貴様、碧様か碧社長と呼べ」
「はい、碧様!」
……私は別に気にしてないんだけどな。
『今回は見逃してやる、次はねぇぞ』
「わかった、わかったよぉ」
桐人兄さんの怒っている声に、ドゥオは泣きそうな顔で何度も頷いてた。
『碧、次も馬鹿したら連絡しろ、速攻でレティシアと話し合う』
「た、多分しないと思うから、そういう連絡はしないかなー?」
『だろうな、じゃ!』
そう言って通信は切られた。
もし仮にドゥオがまた同じことしたとしても連絡できない。
だって、殺処分だよ!
幾ら何でもドゥオを殺しちゃうのは嫌だ!
コレを機に懲りてくれたらいいなぁ……
整備室に戻って行くメフィストと、宗一お爺ちゃんたちを見送り、私がソファーに座ろうとしたら、ノウェムさんの膝の上に座らされた。
「の、ノウェムさん?」
背後から抱きしめられて、首筋に顔を埋めている。
ああ、これは相当拗ねてるし、嫉妬してるな。
分かりやすくなったし、可愛いけど、私の家族にまで嫉妬はしないでほしいなぁ。
「ノウェムさん、ごめんね構ってあげられなくて」
そう言って手を握る。
返事はないが、頷く感触は伝わった。
「同じナンバーズの人に嫉妬しちゃうのは分かるけど、私の家族にまで嫉妬しないでほしいの。ダメ?」
「……だって彼らは私より君に詳しくて、私より君と付き合いが長い……」
拗ねた声で後頭部にぐりぐりと額を押しつけてくる。
「もう、そんなに拗ねてばっかりだと私が困るわ」
「でも……」
ノウェムさんには困ったものだ。
「一番好きなのは貴方だけよノウェムさん」
「ん……」
そう言うと落ち着いたのか、ようやく顔を上げて、頬ずりを始めた。
額を私の頬へすり寄せてくる。
……本当に子どもみたい。
そんな様子が微笑ましくて和んでしまった。
その時だった。
「ぎゃああああ!」
「ドゥオー! お前と言う奴はー!」
「よし、倉庫に来いはらわた引きずり出してやる」
「「……」」
宗一お爺ちゃんと、ウヌスさんの声、そしてドゥオの悲鳴。
……え、本当にやったの⁉
「と、止めなくて大丈夫かなぁ?」
「今日中には元に戻る。放っておけばいい」
ノウェムさんは首筋をはむはむと甘噛みしている。
小動物かな?
倉庫の方からまた悲鳴が聞こえたけど、気にしない方が、いいよね?
足音が聞こえると、ノウェムさんはそれをやめて私をだっこしただけの状態になる。
「社長、倉庫には入らないようにしてください」
「あ、あの、はらわたひきずりだしたんですか? 本当に?」
「本当ですので」
ウヌスさんの言葉に引きつる私。
「ウヌス、あまり会社でスプラッターなことをやるな。碧が怯える」
「なるべくそうしたいが、ドゥオが馬鹿をやる限りはな……」
「なんでドゥオはそんな行動を取るんです?」
「知らん」
ノウェムさんが即答する。
「知りません」
ウヌスさんまで首を横に振った。
十人十色っていうもんね、ナンバーズも人それぞれか……
「ところで、なんで桐人兄さんにあんなに怯えてたの?」
「知らん、レティシアに言うだけの関係だと思うが」
ノウェムさんは首を傾げた。
「……いや、今は言うべきではないか」
ウヌスさんが小さく呟く。
ウヌスさんの呟きを聞き逃さなかった。
「ウヌスさん、知ってるんですね?」
「ああ、だが時期尚早だ。全てのナンバーズにあってからのほうが良いだろう」
「はぁ……」
抱きしめる力が少し強くなった。
ウヌスさんに嫉妬しちゃうのどうにかならないかしら。
「ノウェム、嫉妬する輩は醜いぞ」
「うるさい」
「いやはや、ここまで変わるとは本当に驚きだ」
ウヌスさんは肩をすくめて部屋を出て行った。
……少し血のにおいがしたけど消臭機械のお陰で消えている。
「ノウェムさん、お菓子食べよ?」
「ん」
ようやくノウェムさんのお膝の上から解放された私は、ノウェムさんにお菓子を食べさせることで機嫌を直してくれることに成功した。
……それにしても桐人兄さん一体モナル社と何処まで関わってるんだろう?
全額は返金に使えないので、できる範囲で返金。
お金が入ったことを知らせる桐人の通信。
その後ドゥオのやらかしで、不安になる碧。
ガクブルなドゥオ。
桐人にも事情が伝わり、かなり重い処分を喰らわそうとする桐人。
なんとかのがれたものの、結局またやらかして連れて行かれるドゥオ。
そんなふうにドゥオを気にしているからノウェムは嫉妬しています。
子どもの様にですね。
ここまで読んでくださりありがとうございました!
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