68.ウヌス、パトリでの初仕事~パラシートゥス迎撃戦とお茶会~
ウヌスが特別出向した当日、ドゥオは驚愕と恐怖の声を上げる。
ウヌスの言葉にドゥオは真面目に働きはじめるのをみて、碧はノウェムと小声で話をするが──
「げぇえ! ウヌス⁈」
出向当日、ウヌスさんは早速整備室へ向かい、ドゥオの様子を見に来ていた。
あれだけサボってたんだもんそうなるよね。
「宗一様、ドゥオは少しは変わりましたか?」
「なーんも変わっとらんわ!」
ウヌスさんの言葉に宗一お爺ちゃんはお怒りの様子で答える。
ウヌスさんの表情、いや、眉がぴきりと上がる。
「ドゥオ、また締められたいのか?」
「それはゴメンだー‼」
「ならば働け、愚か者」
その言葉に、今まで真面目にやってこなかった整備の練習に、やっとドゥオは取り組み始めたようだった。
「すまんのぉ」
「申し訳ない、我が同胞の問題児が貴方様に迷惑をおかけして」
宗一お爺ちゃんが申し訳なさそうにお礼を言うと、ウヌスさんは頭を下げて謝罪した。
「ウヌスさんって、本当に真面目ですね」
「否定はしない」
「……じゃあウヌスさんを最初に作った人は理由はどうあれ、真面目な性格を理解してたのかな」
こそこそと私とノウェムさんが話し合う。
「碧社長、ノウェム、聞こえている」
「ご、ごめんなさい!」
やっぱり耳までいいんだな。
身体能力が高いからか。
あんなに小声で話したのに。
「で、今日依頼はありますか」
「えっと今日まだ依頼来てないよね?」
「そうだ……」
ノウェムさんが言い終わる前に、通信機が鳴り響く。
「はい、こちらパトリ!」
『碧様ですか、ロゼッタです。木星付近にパラシートゥスの群体が接近中、迎撃と防衛作戦に協力してほしいと』
「うへぇ、またですか」
『ええ、またです』
ロゼッタさんの言葉にげんなりする。
最近こればっかりだ……
高額報酬なのはありがたい。
でも、もう勘弁してほしい!
しかしそうも言ってられない、私は社長。
借金を返さなければ!
「やります、指定ポイントを戦艦に送信しておいてください」
『了解です、ワープ許可も出ております』
そして、通信モードを切り替え、メフィスト達にのみ届くよう連絡する。
「木星付近にパラシートゥスが出現! 戦闘員は至急戦艦ポラリスに搭乗せよ‼」
『『『『了解!』』』』
「ノウェムさん行こう!」
「ああ」
「私も同行する」
「え⁈」
ノウェムさんと一緒に行こうとしたら、ウヌスさんもパワードスーツを装着してついてきた。
「で、でもウチ戦闘機らしい戦闘機一機だけですよ?」
「私の戦闘機はもう既に運んでいる」
「え⁈」
いつの間に運び込んだんだこの人。
「レティシアから連絡はあったが、夜中に運び込むのは少々面倒だったのでは?」
「いや、問題は無かった」
「ならいい」
二人だけで話が完結してしまい、少しだけ置いていかれた気分になる。
私は慌てて口を開いた。
「あ、あの……初日からこんな仕事になっちゃって、ごめんなさい!」
「いや、気にする必要は無い」
「さぁ、行こう」
そう言ってノウェムさんは私をお姫様抱っこして走り出した。
「ノウェム、いつの間に覚えたそんな仕草」
「トレースに『いつまでも小脇に抱えているのはレディにはちょっと失礼では?』と皮肉を言われた」
「トレースなら言いそうだ」
ドゥオのことはナンバーズ一番の問題児だが、トレースさんのことはまだほとんど知らない。
真面目に仕事しているし、丁寧だし、礼儀正しいし。
後で二人に聞いてみよう。
そう思いながら私たちは戦艦に乗り込む。
上昇させ、安全にワープできるポイントにつく。
「ワープ開始!」
「了解!」
光の帯が目の前に広がる。
そして光が消えると、そこには真っ暗な宇宙空間と巨大な木星が広がっていた。
その向こう側には──
「あ、あのー巨大型、10体以上いません?」
「……そうだな」
「正確には16体だな」
「ヴァー!」
ウヌスさんの言葉に奇声を上げる。
あんな厄介な巨大型が16体⁈
パラシートゥスを次々と増やす巨大型が16体なんて、悪夢でしかない。
「詰んでる?」
「安心しろ。今回も他の艦隊が来ている。それにウヌスはエースパイロットだ」
「何とかなる?」
絶望しかけてる私にノウェムさんがそう言って励ます。
私は気弱な声でウヌスさんに尋ねる。
「何とかする」
私はその言葉を信じることにした。
「じゃあ、行こう!」
三人そろって減圧室に行き、私とノウェムさんはパワードスーツを装着する。
減圧室を出て、それぞれの戦闘機に乗り込み、出現する。
「やっぱりコレ多過ぎー!」
「……同感だ」
『泣き言を言わない方がいい、あと少しで全戦艦の主砲のチャージが終わる。それで数を減らしてもう一度主砲を放てば終わりだ』
数の多さに泣きそうになる私と、めずらしくそれに同意するノウェムさん。
けれどウヌスさんは冷静に判断する。
さすが、一度に大型1体と小型100体以上、中型まで撃墜した人だけのことはある……
16体いたのが15体になって少し安堵するけどまだまだ多すぎる!
「ウヌスさん、なんで其処まで冷静なんですか?」
『私は代々モナル家の当代の当主を守るのが仕事だ、冷静でなければならない』
なんだか、昔のノウェムさんを思い出して少し悲しくなった。
『と言っても、製造過程で感情を削られたノウェムと違って私にも好みはある、合わない当主とのやりとりは苦労させられた』
「合わない当主って?」
すこしだけ減った感じがしたので若干余裕を取り戻した私は尋ねる。
『直近だとグレイズ様だな。あの方は冷徹で真面目だが、頑固すぎて融通がなかなか利かず苦労した。レティシア様がいなかったらもっと苦労したとも』
「レティシアさん……」
『まぁ、今はそのレティシア様が心配なのだがな。産後の肥立ちが悪かったらとか縁起でも無いことを抜かす馬鹿がいたからな』
ああ……。
若い頃のグレイズさんの部下だったら大変だっただろうな。
まぁ、それもそうか、奥さんに裏切られて、托卵までされていたんだから。
レティシアさん以外のお子さんも実父がグレイズさんじゃないって知ってたんだし。
そりゃあああもなるか。
『第一弾の主砲のチャージが完了した。一時離脱するぞ』
「はい!」
『了解』
戦闘機たちは戦闘区域から離脱する、それを確認したように、主砲が放たれていった。
『巨大型は11体撃破した』
「あと残り4体……!」
次の主砲まで持たせなければ私はその覚悟を決めて、ノウェムさんのサポートを続けた。
戦闘開始から二時間後──
『第二弾完了、戻るぞ』
「は、はいぃ!」
『碧、大丈夫か!』
ウヌスさんの言葉に疲れきった声を出してしまう。
ノウェムさんが心配そうな声で私に問いかける。
「きょ、今日はもう仕事したくないぃ……」
『同感だ』
『理解はできる』
ウヌスさんは息一つ乱していない。
……本当に、この人は強い。
再度戦闘区域から離脱し、主砲が発射されると、今度こそ綺麗にパラシートゥスの群体はいなくなっていた。
『パラシートゥスの反応全消失を確認しました! お嬢様!』
「おわったー!」
クラレンスの一言に私は叫んだ。
そして緊張の糸が切れたように、一気に疲労感が押し寄せてきた。
「今日は帰ろう……ロゼッタさんに、今日は仕事を入れないでって伝えよう……」
「そうだな」
『私から連絡する』
ロゼッタさんに連絡すると言ったら、ウヌスさんはそう応えた。
「いいんですか?」
『君は一度倒れていると聞いた。なら無理はさせられん』
「ありがとうございますー!」
やったロゼッタさんにも電話するの疲れてたんだよな!
ありがたい!
「……」
そして聞こえるむくれた息づかい。
「ノウェムさん、私の一番は貴方なんですから。そう嫉妬しないでくださいよ」
「わ、わかっている」
そう言って戦艦に戻る。
加圧室で、パワードスーツを着脱するとウヌスさんはノウェムを見ていた。
「ウヌスさん?」
「いやはや、あのノウェムがこうも変わるとは驚きだ」
「好ましいですか」
「ああ、実に好ましいとも」
ウヌスさんが少しむくれているノウェムさんを見る目は、お父さんが私たち子どもを見る目に良く似ていた。
「づーがーれーだー」
帰還し、休憩室のソファーでぐったりする私。
ノウェムさんが緑茶を持ってきてくれた。
「すまない、紅茶のストックがなかった」
「いや、備品管理するのも私の仕事……」
「備品は事務だ、セムと美奈に頼もう」
「う、うーん……」
セムさんとみっちゃんが上手くやっていけているのか分からないのでなんとも言えない。
「あれ、ウヌスさん、まだ戻ってこない?」
「少し出掛けると言ってきたが……」
ウヌスさんがいない事に今気付き、私はキョロキョロと見渡す。
ノウェムさんが言ったならいいけど、どこに出掛けたんだろう?
「備品の紅茶を買ってきた。それと、おそらく緑茶を飲んでいると思ったから、鈴蘭のどら焼きと麩まんじゅう、大福も買ってきた。ロボット用には菓子キューブだ」
「わー! みんなで休憩して食べましょう!」
道理で大荷物抱えてる訳だと思ったけど、其処まで見てくれてたなんてすごいなぁ!
あ、ノウェムさんまたよだれが。
「ノウェムさん、一人で全部食べちゃダメですよ?」
「わ、分かってる!」
それを見たウヌスさんはふふっと笑って言った。
「二人で、声をかけに言ってきてくれ。ああそれとノウェム、ドゥオにはこう伝えてくれ『真面目に働かなかった貴様に今日の分はない、反省し真面目に働け。さもなければまた肉塊もどきにするぞ』とな」
「分かった」
そして皆に声をかけて回ったら、案の定ドゥオは。
『なんで俺だけ~~!』
と言ったので、ノウェムさんがウヌスさんに言われたことを伝えると真っ青になって頷いた。
肉塊もどき、ちょっと想像したくないから頭の隅に追いやろう。
と忘れることにした。
セムさんとはちゃんと会ったのは今日なので日本人らしい顔立ちで、黒髪には赤いメッシュが入っている。
瞳も黒く、見た目だけなら、ごく普通の好青年だった。
……見た目だけなら。
赤いメッシュを入れている理由は謎だが、話してみると礼儀正しく爽やかな人物だった。
「みっちゃん、セムさんとはやれそう?」
「はい、やれそうです。あの涼さんは?」
「今来るよー」
そう言うと宗一お爺ちゃんと涼兄さんとトレースさんがやって来た。
整備服を着替えてシャワーも浴びたらしい。
「さて、いただくとするかのぉ……」
「それにしてもウヌス。これ、随分多くないですか?」
セムさんがウヌスさんに問う。
「何、甘味にとりつかれた奴がいるから充分だ」
というと、ノウェムさんは少しばつが悪そうな顔をした。
ああ、伝わってるのね。
「ノウェム、君が甘味をそんなに好きだなんて初めて知ったよ」
セムさん嬉しそう。
ノウェムさんは視線をそらしつつ、それでもどら焼きと大福と麩まんじゅう、かわりばんこに食べて居る。
「ウヌスさんはいいんですか?」
「ん? いや、せんべいを持たされたからコレが終わったら出すつもりだ」
「おばちゃん……」
鈴蘭のおばちゃん、私たち萌木家と付き合い長いから甘いんだよねー。
小さい頃から「これ特別ね」ってどら焼きとかくれてたし。
そんなことを考えながら、休息する午後だった。
……ただし寝る前に銀行強盗の案件が入って来てぶちギレて叩きのめし警察に「やりすぎ」って怒られたけど、私悪くないもの!
だって、あの時すごく眠かったのに起こされたんだもの!
あんな眠い時に起こされたら、誰だって機嫌くらい悪くなる!
そう言ってノウェムさんに抱きつくと、ノウェムさんは頭を撫でてくれた。
二度目はなく安心して眠れた──
ウヌス初日。
圧倒的に強くて真面目、それでいてお茶目な所が垣間見えたでしょうか?
碧とノウェムは相変わらずです。
ノウェムは甘味に夢中なのが最後らへんで変わらないのが分かりますね。
そして碧は叩き起こされた事に激怒して二度寝でノウェムによしよしされて眠っています。
ここまで読んでくださりありがとうございました!
誤字脱字報告等ありがとうございます!
次回も読んでくださるとうれしいです!




