67.小さな命を抱きかかえて~特別出向ウヌス~
6月末の社長室。
碧とノウェムは今月返せる金額を計算し、残りの借金額を確認する。
そんな中で、ふと碧は甥と姪に会いたいと言う。
そういう会話をしているとウヌスがやって来て──
6月末の社長室にて。
「ノウェム、借金は現在292億6千万。今月はいくら返せそう?」
「50億だ」
「じゃあ残り242億6千万ね……着実に減らさないと」
レティシアさんと赤ちゃんを狙って襲撃した件。
あの件の報酬のおかげで、借金を大幅減らせた。
「あーそれにしても、姪っ子と甥っ子ちゃんに会いたいなぁ」
「可愛いのか?」
「ちっちゃい子はかわいいよー! まぁ、生粋の戦闘型のレイジングからすると小さい命すぎて怖いみたいだけど」
私の誕生日以来、赤ちゃんたちには会っていない。
まだ一ヶ月も経ってないが、どんな感じだろう?
元気に育ってるといいなぁ。
そう考えてると、ノック音が聞こえた。
「はーい」
「待て、私が出る」
対応しようとする私をさえぎってノウェムさんが出る。
もう相変わらず過保護なんだから。
「来たぞ」
「ウヌスか、何だ?」
ウヌスさんが出ろと言わんばかりに指差す。
「車に乗れ、レティシア様がお呼びだ」
「「へ?」」
私とノウェムさんは間抜けな声を出した。
「あ、あのーどうしたんですか急に?」
「レティシア様が君達二人をどうしてもとな」
「まさか、兄が何かとんでもない事しましたか⁈ 浮気⁈ それとも育児とか全部放り投げてるとか⁈」
後部座席で、思わずそう言ってしまうと、ウヌスさんの苦笑が聞こえた。
ウヌスさんは運転をしながら続ける。
「レティシア様から聞いた限りでは、良き夫であり、良き父親のようだ。まぁ、割と出番をセスとデケムに取られて落ち込んでいることが多いらしいが……」
「順兄さん……」
あれ、何か目に浮かぶぞ?
「私達にとって睡眠は身体の修復のためのもので、基本的には必要ない。だからセスとデケムは交代で夜泣きに即座に対応できるのだ」
「そりゃ順兄さんの出番なくなるよね」
あれ?
じゃあ、なんでノウェムさんは一緒に寝てくれるんだろう?
ちょっと疑問が湧いたがここではいうことではないので黙っておく。
しかし、夜起きているなら即対応はできるだろう、そうなると夜寝てるであろう順兄さんたちの出番はない。
「日中は基本レティシア様と順様が交代で世話をしているらしい、料理はセスかデケムだがな」
「双子ちゃんですもんね、大変そう」
「そうですな」
ちょっと敬語と、素が混じってるな。
まぁ、いいか。
「それでウヌス、何故レティシアは私達を呼んだ?」
「二人に赤ちゃんを抱っこしてほしい、だと」
ノウェムさんの問いかけにウヌスさんは答えた。
「え、いいんですか?」
「問題ない」
ウヌスさんは優しい声色で言った。
わー赤ちゃんか、まだ生後一ヶ月も経ってないちっちゃい赤ちゃん!
ちょっと怖いけど楽しみだなぁ‼
と、ワクワクする横でノウェムさんは非常に複雑な顔をしていた。
この市にあるレティシアさんの屋敷に到着する。
やっぱり非常に大きい。
ウヌスさんがチャイムを鳴らすと──
「ウヌス、お二人を連れて来てくださったのね、ありがとう。レティシアさんたちはリビングにいるわ」
デケムさんが出て来た。
「お、お邪魔します」
「……」
ノウェムさん複雑そうな表情のまま、無言。
何があったんだろう?
案内されるがままリビングへ行くと──
「久しぶり、碧ちゃん、ノウェム」
「レティシアさん、お久しぶりです。順兄さんも元気?」
「……一応」
元気そうなレティシアさんと、以前よりは心なしか明るくなった順兄さんがいた。
「テオくんと、ミネルヴァちゃんですよね。今はどうしてます」
「ん……」
順兄さんが指差す方向を見つめると、双子の赤ちゃんがベビーベッドですやすや寝ていた。
「かわいい~~!」
「抱っこしてみます?」
「いや、遠慮します。赤ちゃん起こすと不味いんで」
可愛い、だがレティシアさんの申し出はお断りした。
赤ちゃんは寝るのがお仕事、起こすなどもってのほか。
「大丈夫よ、そろそろ……」
ふぎゃあふぎゃあ
ほぎゃあほぎゃあ
と、双子ちゃんが泣き出した。
「おっぱいの時間ね、でも私は母乳の出が悪いから」
「ミルク作っといた……人肌……」
すでに人肌温度のミルクが用意されていた。
順兄さん、やるな。
「人肌温度を保てる調乳ポットをモナル社で作ってるから」
なるほど、それならできる訳だ。
ちょっと驚いたけど、泣くと分かって直ぐ行動してるんだからやっぱり凄いよね。
赤ちゃんたちは哺乳瓶に入ったミルクをんくんくと飲んでいた。
そして飲み終わったあと、順兄さんは双子ちゃんにゲップをさせた。
手慣れてる。
「順兄さん、手慣れてるねー?」
「……オムツは交換しなかったけど、ミルク飲ませる位は俺はお前にしてたんだぞ」
「あー……」
「ちなみに桐人兄さんは全部やってたけどな……」
順兄さんは偉ぶるようではなく淡々と事実を述べた後、最後は落ち込んだ。
「じゅ、順兄さん、落ち込まないで! 桐人兄さんは経験値が違うんだから!」
「……」
ダメだ、今は自己嫌悪で忙しいモードに突入しかけてる。
「順さん、ありがとう。テオとミネルヴァのお世話をいつもしてくれて」
双子ちゃんを抱っこしたまま自己嫌悪モードの順兄さんに、レティシアさんは肩を抱き、そっとお礼を言った。
「……父親だから」
その一言だけで、さっきまでの自己嫌悪は吹き飛んでいた。
「じゃあ、抱いてみて頂戴?」
「え、あ、はい!」
兄からミネルヴァちゃんを抱っこさせてもらう。
小さい!
小さい命って可愛い!
あー!
素敵だなぁ!
そんな気持ちでミネルヴァちゃんを抱っこしていた。
ふとノウェムさんの様子が気になり見ると。
正座して、体を硬直させて抱っこしている。
ガチで緊張している。
「ノウェムさん、そんなに緊張してると赤ちゃんが不安になっちゃいますよ」
「そ、そんなことを言われても……」
ふぎゃあふぎゃあ!
テオくんだけが泣き出した。
ミネルヴァちゃんは私の腕の中でリラックスしてる。
「ノウェム、赤ちゃんはねそういうのに敏感なの、優しく抱きしめてあげて」
「そ、そう言われてもだな……」
仕方ないので、ミネルヴァちゃんを順兄さんに渡して、私はノウェムさんの背後から抱っこを手伝う。
「ノウェムさん、もう少し力抜いてーそうそう、そのくらい」
「……」
「で、ゆーらゆーらと動かしてあげて」
ノウェムさんは私の指示に従い、なんとか赤ちゃんをあやそうとする。
次第に、鳴き声は小さくなり、すやすやとテオくんは眠ってしまった。
眠ったテオくんをデケムさんが抱っこしてベビーベッドに寝かせる。
「小さい命が怖いというレイジングの気持ちが分かった……!」
ノウェムさんは汗を拭いながら言った。
「だから、あの四人には幼稚園の依頼がお仕置き代わりになるのよ」
私はくすくすと笑った。
「ところで碧さん」
「何ですか?」
「ノウェムと結婚とか考えてませんか?」
その言葉にノウェムさんが吹きだした。
げほげほと咳き込んでいる。
……あ、水を飲んでいて気管に入りかけたんだな。
驚きすぎて。
でも、私は驚かず言った。
「結婚はしたいです。でも――」
「ですが?」
「桐人が出した総額500億の借金返すまで結婚はできません、みっちゃ……美奈ちゃんが後ろめたくなりそうなので」
そう、桐人の出した500億の借金。
これを返済するまでは私は結婚などしていられない。
「そうね、その借金があったわね。今どれ位?」
「返済額半分到達しました」
「それは良かったわ」
そう言ってまだおねむモードではないミネルヴァちゃんを順兄さんから受け取り抱っこする。
「今後も危険な仕事が続きそうだけど、できそう?」
「やります!」
私は言い切った。
なぜなら私は社長だからだ。
「ノウェム」
「何だレティシア……」
「碧さんのこと、お願いね」
「分かっている」
レティシアさんは、再度私のことをノウェムさんにお願いしているようだった。
「ウヌス、時々でいいから碧さんの仕事を手伝ってあげて頂戴」
「畏まりました、ですが家の守りは?」
「セスとデケムで充分よ」
レティシアさんはウヌスさんにそう言った。
だが、大丈夫なのかな?
と、不安も残るがデケムさんとセスさんなら大丈夫だろう。
「それに、二人も桐人から特注のパワードスーツ作って貰ったしね」
「いつの間に」
桐人兄さん、多分発狂しながら作っただろうなぁ。
だって、この短期間にパワードスーツ作れ発言がきてるんだもの。
「ウヌスのもよ」
やっぱり発狂してそうだ。
今度会ったら、茶菓子でも出してあげよう。
「ということは……」
「私からのモナル社からの特別出向ということね」
モナル社からの特別出向かー。
ノウェムさんは派遣じゃなくて紹介入社で、みっちゃんはバイト。
モナル社からの特別出向って、雇用形態はどう扱うんだろう?
「給与はノウェムかトレースと同額で構わない」
ウヌスさんが給料のことを言った。
「じゃあ危険な仕事だから、ノウェムさんのよりちょっとだけ多い感じでいい?」
「構わない」
ウヌスさんは頷いた。
あれ?
ナンバーズって十人いるんだよね?
ノウェムさん、トレースさん、セムさん、ドゥオ、そしてウヌスさん。
半分もいるじゃん。
レティシアさん、思った以上に私達を気にかけてくれてる?
「話したかったことは以上よ、私たちの可愛い子どもたちまた会いに来て頂戴」
レティシアさんはそう言ってにっこり笑った。
帰宅後──仕事を終えて自室でノウェムさんと二人きりになる。
「ねぇノウェムさん、もしかして最初の頃は寝てなかったの?」
「ああ」
「いつから寝るように?」
「……君と恋人になってからだ、何か体に異常が出ない様に」
ノウェムさんはそう言って私の手を握った。
「500億返し終わったら、結婚しよう」
「それ、死亡フラグみたいだからやめましょう?」
「フラグ? ……以前美奈が何かいってたような……」
「そういうこと言った人から大体酷い目に遭うんです」
自分も言ってアレだが、ノウェムさんが言うと死亡フラグにしか聞こないんですよ。
「そう、だから総額500億返済目指してがんばりましょう! でいいんですよ」
「そうか……」
ノウェムさんは静かに頷いた。
「ところで異常って?」
「不具合だ、私に不具合が出たら君を守れない、だから休むことを覚えた。君に心配をかけないようにと」
「一歩前進ってことだったんですね」
「そうだろうな」
私の言葉に、ノウェムさんは微笑んだ。
自分の変化を素直に受け入れられるようになったのは、いいことだと私は思う。
その日も二人でベッドで眠った、いつものように──
レティシアと順たちの生活が垣間見えましたね。
レティシアさん姉さん女房ですね。
そして赤ちゃんを抱っこして感激する碧と真逆に緊張し怯えるノウェム。
レイジングの気持ちがここで分かったとぼやくレベルです。
そして結婚の話で咽せて咳き込むノウェムと堂々とする碧。
そして危険な仕事が続くということでウヌスが特別出向することに。
ナンバーズの半分がパトリ社に集まったことになります。
あと、死亡フラグにならないことを祈りますね。
ここまで読んでくださりありがとうございます!
誤字脱字報告等ありがとうございます!
次回も読んでくださるとうれしいです!




