65.違法実験施設のパラシートゥス掃討~無能な政府たち~
パラシートゥス研究所でパラシートゥスの実験に失敗し被害が出たと報告を受け、ノウェムと共に研究所に向かった碧。
寄生されたロボットたちを破壊しながら謝罪した先で彼女が見たものは──
「ごめんね……!」
パラシートゥスに寄生されたロボットを破壊しながら謝罪する。
ノウェムさんとの交流や、過保護な三人を叱って慌ただしかった月曜日。
ロゼッタさんから「某国の研究施設でパラシートゥスの実験に失敗し、大きな被害が出た」と緊急連絡が入った。
なんでこうもパラシートゥスの実験をするのだろう?
理解ができない。
戦争でもしたいのか?
地球政府はなぜ動かないのだろう?
疑問が尽きない。
が、そんなことを悩んでいる暇はないのだ。
「ノウェムさん、こちら寄生されたロボット達の破壊を完了しました」
『こちらノウェム。碧、寄生された人の遺伝子を入れた奴一匹そちらに向かっている。 やれるか?』
「──やります」
ノウェムさんの言葉に、少し間を置いて答えた。
『すまない』
「いいえ」
パラシートゥスは基本的に人間やロボット、機械に寄生する。
それ以外の生物への寄生は難しい。
だが、人の遺伝子を組み込めば寄生は可能になる。
その代わり制御不能な恐ろしい存在になってしまう。
「……?」
モナル社はどうやって特効薬を作ったのだろう?
200年も前のことだから分からない……
うめき声を上げながら、人を模したような気色の悪い生き物が背中から紫の結晶体を生やしてこちらに襲ってきた。
「気色悪い!」
口はとがっており、唇は耳の部分まで裂けていて、歯はギザギザ、体の色は肌色で、目は紫色になっていた。
手は不気味に肥大化し、足はかかとが地面につかず、つま先だけで立っているようだった。
人を改造したのか、それとも最初からこの姿で生み出されたのか分からない。
ただただ気色が悪く、寒気がした。
こんな生命体まで作ってパラシートゥスを制御したかったのか、と。
良く見れば口にべったりと血の跡がついていた。
ソイツは跳躍して私に襲いかかってきたので、私は避けて蹴りを喰らわせた。
きっと此奴は跳躍力で獲物を襲うように作られたのだろう、そう想像した。
合っているかは分からないが。
「くたばれ!」
蹴られて立ち上がれなくなっているソイツの顔を破壊し、パラシートゥス破壊用の薬を投与する。
パラシートゥスの結晶体は消滅し、蠢いていたソイツは動かなくなった。
「なんなの、この生き物……」
少なくとも見たことはない。
ノウェムさんが似たような、何か人を元にしたのか人を改造したのか、そういった類いの生き物の死骸を持ってやって来た。
「この研究所のパラシートゥスの件は秘密だが、やっていたことは公にした方がよさそうだと、レティシアが言っていた」
私も先ほど倒した死骸を持って、研究所を出て行く。
「待っていたぞ」
研究所を出た先には私の持って居る戦艦よりもはるかに大きな戦艦を背後に立つ見知らぬ男性がいた。
銀髪に赤いメッシュがはいっており、目は赤く、白磁のような肌だった。
だが背が高く、常に睨んでいるような顔つきをしていたから、私はどこか怖くなって後ずさりしてしまった。
「ウヌス、碧をそのような険しい表情で見るな」
「険しい顔をしていたか?」
「いつも通りの険しい顔だ」
男性──ウヌスとノウェムさんに言われた方。
普段から表情筋がかたいのだろうかと、ちょっとだけ心の中で笑ってしまった。
「研究に使っていたのはこれらだ」
そう言うと、ウヌスさんの背後から比較的性能の良いパワードスーツを着た人達が出て、死骸を私達から受け取って戦艦に運んでいく。
「レティシア様が桐人から情報があったと聞いた」
「なんと?」
「人の受精卵の時点で遺伝子操作してこのような生命体を生み出していたと」
ウヌスさんの言葉に、ノウェムさんが問いかける。
信じられない情報だった。
「じゃあ、これ、一応、人?」
気分が一気に悪くなった。
胃の奥が冷たくなる。
目の前の化け物が、元は人間だったかもしれないと思っただけで吐き気がした。
「碧、確かに人の受精卵を利用しているが、これはもう人ではない、生体兵器だ。その証拠に、見ろ」
よく見ると、体中に機械が埋め込まれていた。
「この機械で制御してたがパラシートゥスの寄生能力には勝てなかったんだろう。こんな妙な機械を背中や頭部などに入れる上そのまま生き物を襲う人間がいるか?」
「……いないと、思う」
「だから、大丈夫だ、君は人を殺していない」
そう言ってノウェムさんは私を抱きしめてくれた。
体温はない、パワードスーツ越しだから。
それでもすこしだけ安心できた。
「……あのノウェムが随分甘くなったものだ」
「悪いか」
「褒めてる」
「わかりにくいのだが?」
そう言ったウヌスさんに、、ノウェムさんは少しむかついたような声で喋った。
それに対し、ウヌスさんは先ほどまでの険しい声とは違い、少しだけ柔らかな声で言った。
「褒めている」
「分かりにくいのだが?」
ノウェムさんは呆れたように返した
「碧と言ったか」
ウヌスさんは私へ向き直る。
「は、はい!」
「近々この件について報告しに行くこととなる、それだけは覚えておいてくれ」
いきなり名前を呼ばれて硬直する私。
背筋を正して返事をしてしまうような声色にウヌスさんの声は戻った。
「……大体一週間位だ」
「わ、分かりました」
ウヌスさんは少し考えて答えた。
ならば、ちゃんともてなさないと。
「ああ、菓子は不要だ。甘い物は苦手──」
「じゃあ、緑茶とおせんべい用意してますね!」
私の思考を先読みしたような言葉に、私はそう言い返してしまった。
ウヌスさんは一瞬あっけに取られたような顔をしたが、すぐに小さく笑った。
「では、楽しみにしておこう」
「はい!」
そう言って戦艦に乗り込み、戦艦がワープするのを見送る私とノウェムさん。
「ノウェムさん、事情が分かるといいですねー……ノウェムさん?」
「……」
むすくれた顔をしていた。
戦艦に戻り、個室にワープしてもパワードスーツを外さない徹底ぶりで私以外に顔を見えないようにしている。
後で桐人が「パワードスーツ同士なら表情が見えるようになっている」と補足してくれた。
そして会社に戻り、部屋に戻ってからも、ノウェムさんはずっと黙ったままだった。
むすっとした顔で腕を組み、こちらを見ようともしない。
パワードスーツを脱いだことで、そのむすっとした表情がはっきり見えるようになった。
「……どうしたんです、ノウェムさん」
「……君は、ウヌスのような男の方が好きなのか?」
「ハァ?」
ノウェムさんの問いかけに、思わず呆れた声が出た。
「私は、単純に会社のお客様だから出していいか尋ねただけです」
「レティシアの時は尋ねないのに?」
「レティシアさんの時は向こうから持って来るので!」
どうやら、焼き餅を焼いている様子。
レティシアさんのは向こうが最高級なお菓子とお茶を持って来るのでこっちで用意する必要がないだけです。
いや、本当、レティシアさんのお口に合うお菓子なんてどこにある?
ミモザのガトーショコラか?
と、悩むほど。
「では、特に深い意味は……」
「ないです。お客様にお出しするものを聞いただけです」
そう言うとノウェムさんは顔を真っ赤にした。
「ノウェムさん?」
「ダメだ、私は……碧。君のこととなると感情が抑えられない」
そうか、ノウェムさんは感情というのを抱いてまだ間もないんだ。
それまでそぎ落とされて生きてきたから。
だから制御の方法が分からないんだ。
「ノウェムさん、私が一番好きなのはノウェムさんです。それは変わらないのですから、目移りするとか、そういうのはないです。ただ、ウヌスさんが険しい表情をしてる方だなとみていただけです」
「グレイズ様の護衛は今は№8のオークが担当していて、仕事が早いウヌスが今仕事を担当しているようだ」
また知らない名前だ。
でも落ち着いてノウェムさんは今度は喋った。
「ウヌスさんは優秀なのですか?」
「……ナンバーズの中では最も優秀と言われている、何せナンバーズの基礎理論を築いた人物が、自ら生み出した存在だ」
「ナンバーズの基礎……正直、ナンバーズってどういう存在なんですか?」
「簡単に言えば、疑似的な不老不死の生命体だ。それに付属して身体能力が人間の限界の数十倍を超えていると言うところもある」
「そ、そうなんだ……」
少し落ち込む私。
「……そうだな、君とは死に別れになる、だから君には生きてほしい」
「だからこそ貴方にも生きてほしいのノウェムさん」
私はノウェムさんの頬にキスをして抱きしめ合った。
一週間後、会社にやって来たウヌスさんを応接室に通した。
「はい、緑茶と醤油せんべいです」
「すまないな……と言うか、ノウェムお前は何を食っている」
緑茶とおせんべいをお出しする。
するとウヌスさんは深々とお辞儀をしてからノウェムさんを見た。
「どら焼き、やらんぞ」
「甘味か、いらん」
ここで和菓子の甘党、それ以外派閥の闘争はすんなー!
と、思いながらウヌスさんに事情を聞く。
「で、結局その国はどうなったんですか?」
「モナル社の監視下に入った、政府官僚、研究者全てがな。やっていた実験内容がつい先ほど公開され、それに合わせて賄賂で実験を見逃していたという地球政府の腐敗っぷりにモナル社が激怒して、地球政府の一部も監視下に置かれることになった」
その言葉に、ざまぁみろ!
と、心の底から思った。
「でも、国民の方々まで監視下に置かれるなんて……」
「政府だけを監視しても、研究データを隠した連中が各地に散らばっている」
そこまで言って初めておせんべいをウヌスさんは口にした。
おせんべいの割れる心地良い音と、咀嚼音を耳にする。
一つ食べ終えて、一言。
「美味いな、このせんべいとやらは」
「それならよかった」
そう言うと、またむすーっとなるノウェムさん。
ああもう、この困ったちゃん!
「全くそこまで嫉妬するとは変わりようが凄いな」
「悪かったな」
「全く我らが創造者がお前の変化を楽しみにしてることに納得だ」
創造者?
誰だろう、分からない。
ノウェムさんも鳩が豆鉄砲喰らったような顔してるし。
「創造者?」
「ああ、何でも無い、忘れろ」
ウヌスさんは失言だったように言った。
もしかして普段はコールドスリープしている人なのかな、と私は想像した。
それなら、何となく色々と納得できるような気がした。
「さて、パラシートゥスの件は……こちらは秘匿だ、こっちまで出すとあちこちでやっている事を指摘しないとならなくて色んな所で暴動が起きる」
「面倒ですねー……」
「ああ面倒だ」
ウヌスさんの言葉に同意すると、ウヌスさんは肯定した。
「話は以上だ、せんべいとやら持ち帰りたいがいいか」
「それでしたら袋で買ってあるのがあるのでそちらを……」
「これはありがたい」
念のためお土産用まで用意しておいたのが正解だったようだ。
「捨てるなよ」
「お前の恋人は私に毒を盛るような女性か?」
貰ったものを捨てた経験があるらしい発言をするノウェムさんに、ウヌスさんは余裕の表情で返した。
それに対してノウェムさんは黙ってしまった。
私は恥ずかしいやら嬉しいやらで照れてしまう。
「あ、緑茶も入ってますので、良ければ、是非!」
「至れりつくせりだな、感謝する」
そう言ってウヌスさんが帰るのを見送ると、ノウェムさんは私を姫抱っこして自室へと早足で向かった。
「ちょ⁈ ちょっと⁈」
どうしたのと聞く前にソファーに座らされ、ノウェムさんは私の小さな胸に顔を埋めた。
悲しいが私は咲良ちゃんや、清花姉さん、彩花姉さんたちのような豊満な胸の持ち主ではない。
すーはーすーはーと息をしているノウェムさん。
「の、ノウェムさん?」
「……すまない、落ち着けられなかった、少しこのままで……」
上目遣いで言われたら断れませんよもう。
「はいはい、どうぞ」
「ん……」
ノウェムさんが落ち着くまで私はそのままにしていた。
後日談としてその三日後、ウヌスさんがやって来て超高級の茶葉と同じく超高級の洋菓子を持ってきたので硬直しかける私。
洋菓子を食べたい気持ちと焼き餅を焼きたい気持ちの間で、本気で葛藤するノウェムさん。
本当に困ったちゃんだけど――そんなところも、やっぱり可愛い人だった。
前半はパラシートゥスの研究所の後始末、そこで見た兵器として作られた生き物。
人の細胞を使っているということで、碧にとっては気分が相当悪いものだったでしょう。
そして登場した名前だけは以前出てたかな、ウヌス。
ラテン語で1を表す名前です。
後半は彼とのお話です、どうやら甘党ではないようす、せんべいとかの方が好みで、ノウェムと碧の関係もしっかり知っている様子。
ノウェムは何かそれが気に食わないので、貰った洋菓子食べたいけど、焼きもち焼きたいきもちで葛藤しています。
ここまで読んでくださりありがとうございました!
誤字脱字報告等ありがとうございます!
次回も読んでくださるとうれしいです!




