61.休日出勤大嫌い!~休みくらい休ませてよ!~
誕生日の翌日、休日にして穏やかに過ごそうとしていた碧だが、ノウェムがふて腐れていた。
理由を聞けば一番に碧と酒を飲み交わしたかったのに、桐人にもっていかれたと。
では今飲もうという話になりノウェムが持ってきた酒は──
会社は休日で、私はノウェムさんとのんびり過ごす予定だった。
……少なくとも、その時までは。
当のノウェムさんは、そっぽを向いてふて腐れていた。
「ノウェムさん、のーうぇーむさーん!」
「……」
返事がない。どうやら本気で拗ねているらしい。
何に拗ねているのかな?
「ノウェムさん、何に拗ねてるのー?」
「……君があの桐人と一緒に酒を飲んだ」
「ああ、そのことね」
何だ、あれか。
昨日、桐人兄さんが持ってきた秘蔵のシードル。
甘酸っぱくて飲みやすいお酒だった。
咲良ちゃんもにこにこしながら飲んでいた。
「君が20歳になったら、君と一番に一緒に酒を飲みたいと思ったのに……」
「え?」
むくれたようにノウェムさんが続けた。
「レティシアも今回ばかりは余計なことをしてくれた、お陰で私はそれができなかった」
ノウェムさん、相当ご機嫌斜めなご様子。
どうしたらいいかなぁ、と思いながら、色々と考えて思いつく。
「じゃあさ、今日お休みだから。ノウェムさんが一緒に飲みたがってたお酒飲もうよ!」
「こんな昼間からか?」
はい、昼間です。
ですが、安心して飲める理由があります。
「ロゼッタさんも今日は依頼を入れないって言ってたから安心して飲めるよ!」
「そうか、じゃあ飲もう」
ノウェムさんはにこりと笑ってウキウキしながら自分のクローゼットを漁ってきた。
「君の母上が作ったという梅酒、君と飲まないのは勿体ない」
「ああ……」
一緒に買ってきた梅を皆で洗い、瓶に氷砂糖と交互に詰めて、最後にホワイトリカーを注いだ日のことを思い出す。
ぽろりと涙が出る。
「ごめん、そのお酒はまだダメ、飲めない。そのお酒は兄さんたちも一緒じゃないと飲めない……」
「そうか……それはすまないことをした。元の場所に戻しておこう」
そう言ってノウェムさんは梅酒をもう一つの収納部屋に戻した。
そこには作った梅酒や梅干しの壺なんかが並んでいた。
「毎年作るのが定番だったのか?」
「うん……」
涙を拭って答える。
私が高校の二年の時に作ったのが最後の梅酒と梅干しだ。
高校三年生の時と社長になってからは忙しくて作れなかった。
「……予定変更だ」
「え」
ノウェムさんは出していたお酒を次々としまった。
「梅酒の梅はまだ売られているだろう? なら一緒に作ろう」
「──うん!」
ノウェムさんの提案に私は満面の笑みを浮かべた。
ノウェムさんも嬉しそうに微笑んでくれた。
そのまま二人で車に乗り、近くのスーパーへ向かった。
幸い青梅がまだ売られていたので、氷砂糖と、入れる瓶、それからホワイトリカーを購入。
帰ってきたら、台所に行ってちまちまと汚れを爪楊枝で取り除き、それが終わったら水洗いをして一個ずつ丁寧に拭く。
それが終わったら、瓶の中に青梅、氷砂糖、青梅、氷砂糖の順番で入れて行く。
最後にホワイトリカーを注ぎ入れて蓋をする。
今日の日付を記入する。
「どれ位で飲める?」
「半年~一年くらいかな」
「そうか」
瓶を撫でるノウェムさん。
そしてそれを梅酒たちがある収納部屋にしまう。
「半年後が待ち遠しいな」
「きっとあっという間よ」
私はにっこり笑う。
幸せだなぁと思える時間だった。
ビー‼ ビー‼
通信機の鳴り響く音が聞こえるまでは。
「ちょ、ろ、ロゼッタさん⁈」
『申し訳ありません! 木星付近に今までに無いほどのパラシートゥスの群体が出現、中に巨大型のパラシートゥスが三体もいると』
ロゼッタさんの言葉に、顔を引きつらせる。
あんなヤバいのが三体。
良かった……まだ飲んでなくて!
「分かりました至急向かいます‼」
『お願いします!』
私はボタンを押して通信を入れる。
「緊急事態発生! 緊急事態発生! 木星付近に今までに無いほどのパラシートゥスの群体が出現、中に巨大型のパラシートゥスが三体も出現! 出動できるものは⁈」
『お嬢! 私だけです‼ レイジングとガンツとメフィストは酒のエネルギードリンクを大量に飲んで爆睡してます!』
やっべ、同じことになってたかもしれない。
梅酒作るだけにしておいたことに私は安堵しつつ。
「クラレンス、貴方だけは飲んでなくてよかったわ!」
『休日ほど何か起きそうな気がしましたので、飲まなかっただけです!』
急いで自室を飛び出し、パワードスーツを同時に装着する。
ノウェムさんもパワードスーツを装着し、私を小脇に抱えて戦艦まで走り乗り込む。
「お嬢! 準備はできております!」
「急ぎ上昇、そして指定ポイントにワープ!」
クラレンスは既に乗り込んでいた。
上昇し、ワープを開始する。
宇宙戦艦達が並ぶ空間に私達は到着する。
巨大な木星の向こう側には、目視できる程の巨大な帯状になってこちらに向かっているパラシートゥスの群体がいた。
「……マジ?」
「今回はモナル社の戦艦が全部来てる、巨大型はモナル社の主力艦隊が担当している。私達はいつものように小型を狩ればいい。」
「う、うん!」
私とノウェムは減圧室に向かい、そして無重力に体をならしてから急いで格納庫の戦闘機に乗り込む。
「碧、行こう」
「うん!」
格納庫から飛び出した私達は、パラシートゥスの群体へ向かう。
周囲では既に他の戦闘機や艦載兵器が群体へ突撃していた。
「左から高速型が来る!」
「ああ‼」
即座に反応できるようになってきた私達は弾丸やミサイルとビームを使って撃墜していく。
そして一時間の戦闘後──
『パラシートゥスの気配全て消失確認、お疲れ様でした』
「よ、ようやく終わった……ぶっ通しで一時間も戦闘なんて普通は保たないよ……」
機械音声に愚痴るように、言って私はぐったりとする。
「そうだな、全く。せっかくの休日が台無しだ」
『お嬢様、ノウェム、早く帰りましょう。今日は特に疲れました』
ノウェムさんも不満そうな声を出した。
私も同意する。
帰路についてエネルギードリンクで酒の効果を抜かしているメフィストたちにいなくなった原因を伝えた。
「ちょ、ちょっと、今日は休みだよね⁈」
「俺もそう聞いたから久々酒を飲んだんだ」
「儂もじゃ……」
三人そろって頭を抱えている。
「もーしんどかったよ、パラシートゥスの群体やべー量だし、補給しては撃破し、また補給しては撃破するの繰り返し」
「そうだな」
私の言葉にノウェムさんが同意する。
エネルギーがあるうちに帰還して補給。
弾丸とミサイルを積み込み、また出撃。
その繰り返しだった。
「これは休日手当貰わないとやってらんないよ」
私はつかれたように言う。
「特別手当も、な」
ノウェムさんが私の言葉を更に補足した。
ノウェムさんも疲れているようだった。
すると通信機が鳴る。
嫌な予感がする。
「はい、ロゼッタさん⁈ 一体なんですか⁈」
『申し訳ございません、某国でパラシートゥスの──』
ロゼッタさんが言いよどんでいた。
なんだろう。
『怪獣がでたそうです』
「…………え?」
怪獣?
意味が分からず聞き返してしまう。
『その情報によると、人の遺伝子を入れたトカゲにパラシートゥスを寄生させた所、恐竜サイズの大きさになって施設を壊していると──』
「ばっかじゃないの⁈ 本当にばっかじゃないの⁈」
パラシートゥス絡みの案件って、アホしかいないの?
ねぇ、馬鹿しかいないの⁈
誰か答えてほしい!
『ですので、早急に排除し、死体を回収してこちらに回してください』
「了解! 今日休日なんですから特別手当と休日手当期待してますからね!」
ヤケになって若干脅すように金銭の話を持ち出す。
『それはもう、ご満足いけるようにいたします』
ロゼッタさんは肯定の言葉を述べた。
「おらぁ、行くぞ!」
「碧、口調壊れてる、壊れてる」
ノウェムさんが焦ったように指摘してくる。
しかし、壊れてなきゃやってらんないんですよ!
再度戦艦に乗り込み上昇してワープすると──
「恐竜サイズって言ってたけど一匹じゃないんかい! 一匹じゃないんかい!」
パラシートゥスに寄生され、恐竜サイズまで巨大化したトカゲが10匹。
そして寄生されたロボットたちが辺りを彷徨っていた。
「クラレンスは上空で待機! 他は──やっぱり酒が抜けてなさそうだから全員待機、緊急時に出撃できるよう戦闘機には搭乗しておいて!」
「「「「了解!」」」」
そう指示を出して、従う四人。
その間のノウェムさんは私を小脇に抱えて飛び降りた。
巨大トカゲと、ロボットたちが向かってくる。
「碧、ロボットを君がやってくれ」
「分かった!」
ロボット達を引きつけ、一体ずつ狙いを定めて引き金を引く。
ロボットを破壊するとパラシートゥスは消滅する、当然ロボットは二度と動かなくなる。
いつもながら、これは辛い作業だ。
ノウェムさんを見ると、トカゲの攻撃を避けて、パラシートゥスが生えている箇所に薬を注入し、パラシートゥスが消滅して巨大のままのトカゲにとどめを刺していた。
私が最後のロボットを倒した頃には、ノウェムさんは既に10匹全てを倒し終えていた。
ノウェムさんが下りてくるよう戦艦に合図を送り、格納庫に死骸を全部引きずってぶち込んでいた。
10匹の恐竜サイズのトカゲの死体を。
「これで、また仕事来たらキレる」
「それには同意だ」
施設の内部はシェルターに避難していて、施設が破壊されただけで終わったので治療する必要がなかったのはありがたい。
こんな馬鹿な連中治療したくないし。
私たちはワープして会社へ戻ると、入り口にかなり大型の特殊トラックが何台も並んでいた。
ロゼッタさんがいて頭を下げた。
「検体はこちらで調べますのでトラックに詰め込んでください、ノウェム、碧さん。念の為ロボットには触れさせないように」
「了解です」
「わかった」
ロゼッタさんの指示に従い、私とノウェムさんはパワードスーツを装着して死骸を運んで入れて行った。
「では、失礼いたします」
ロゼッタさんもトラックに乗り込みその場を後にした。
「今日はもう疲れた~~」
「甘い物でも食べよう……」
ノウェムさんも精神的に疲れたのか、糖分を欲しがっていた。
「そうだね!」
私はその言葉にノウェムさんを連れて、洋菓子店ミモザに行った。
みっちゃんのお母さんがいたので、今日は仕事が急遽入って甘い物が欲しくなったことを伝え、私はケーキ三つにパフェ一つ。
ノウェムさんも余程疲れたのか、今日はショーケースを見つめる目がいつも以上に真剣だった。
そしてショーケースのケーキを種類ごとに三つずつ注文していた。
その上特大パフェも注文していた。
普通ならドン引き光景だろうが、みっちゃんのお母さんはもう慣れたもので、「今日は量が増えたわねぇ」とでも言いたげな生暖かい視線を向けてきた。
「碧ちゃん、ノウェムさん」
食べ終わって会計を済ませると、みっちゃんのお母さんがケーキ用の箱を私たちに渡した。
「ガトーショコラよ、貴方達のお陰でまた作れるようになったから食べてね」
「……! はい!」
私は満面の笑みでみっちゃんのお母さんから受け取る。
横を見れば既にちょっとよだれが出てるノウェムさんが。
「ノウェムさん、食べるならお家に帰ってからよ?」
「わ、分かっている!」
その姿に微笑ましく思いながら私達は帰路についた。
ちなみに帰った後、鍵付きの冷蔵庫に私とノウェムさんはガトーショコラをしまった。
そしてロゼッタさんに電話をかける。
「ロゼッタさん、今日休みのはずなのに休みじゃなかったので明日も休みます、お願いですから仕事回さないで」
『分かりました、できるだけこちらで対応します……』
困っている様子だが、知らない。
だって本当は私、ノウェムさんと甘い休日を過ごしたかったんだもん!
「明日は、ゆっくり休もう」
「うん……!」
その言葉に号泣してしまい、「ノウェムがお嬢を泣かせた!」と勘違いした四人と私とノウェムさんの一悶着があった。
頼むから。
次の休日くらいは、本当に休ませてほしい。
私は心の底からそう願った。
最初は酒にまつわる家族の話です。
何故ノウェムのクローゼットにあったのかは、ノウェムが梅酒は甘いという認識を持ったため、そこから作ってあると聞いたので保管場所から移動させてました。
ちなみに碧と一緒に飲みたかったので手はつけてません。
そして後半のパラシートゥス事案。
一件目は仕方ないが二件目は馬鹿じゃないのと言いたくなる碧の気持ちが分かってくださると幸いです。
翌日こそは休めるんでしょうか?
ここまで読んでくださりありがとうございました!
誤字脱字報告等ありがとうございます!
次回も読んでくださるとうれしいです!




