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【幕間】出産前の出来事について~家族、借金、そして桐人~

幕間、それはレティシアが妊娠中のこと──



 トレースとドゥオがパトリへ入社して間もない頃。


「おお、レティシア! 今日は大丈夫か⁈」

「……お父様、休日に必ず家を訪問するのは止めてください。私は順さんとの時間を楽しみたいんです。クイーン、クァット、お父様を止めてくださいと私は命令したはずですよ?」


 休日。

 順との穏やかな時間を楽しんでいたレティシアは、突然現れた実父を見てあからさまに顔をしかめた。

 そして後ろにいる、青いショートボブの女性と、金髪のロングヘアの男性に疲れたように言った。


「私共もお止めしたのですが……」

「『行く』の一点張りで……」


 二人ともあきれ顔。


「では、命令です。お父様をお帰しなさい! ここは私と順さんの家ですので!」

「「了解しました、我が主」」


 二人の声は無機質になり、グレイズの両腕を掴んで引きずり始めた。


「お、お前達、私も主人だぞ!」

「申し訳ございませんが、今の主人はレティシアお嬢様でございます、グレイズ様」

「はい、その通りです」


 抵抗しようとするグレイズにレティシアは大きくなったお腹をさすりながら言う。


「あんまりしつこいと、病院への面会も、私の子()を抱くのも禁止しますよ!」

「⁈ わ、わかった‼ 分かったからそれだけは‼」

「ではお帰りください、お父様‼」


 大人しく家を出て行ったグレイズを見て、外から様子を見ていたセスが戻って来て静かに口を開く。


「……帰ったようです」

「確認させてごめんなさいね」


 セスは首を横に振る。

 その間に順が作っていたホットミルクを持ってきた。


「あんまり怒鳴ると胎教に悪い……」

「分かっていますわ。でも、お父様がこうして押しかけてくると息が詰まるんです」


 順はホットミルクの入ったカップをレティシアに渡し、レティシアはふぅふぅと冷ましながら少しずつ飲んでいった。


「ちょっと温めすぎた……? ごめん」

「いいえ、気にしないでください」

「ごめん、俺そういうの分からなくて……妹いるのに面倒は桐人さんが見てたから」


 順はそう言って申し訳なさそうに言った。

 レティシアは微笑む。


「桐人は世話焼きですもの、特に赤ちゃんは大好きですからお世話をするのは当然ですわ、あの人の場合」

「うん……そうだけど」


 順は何か申し訳なさそうだった。

 仕事から帰ってきても、妻の具合の悪い時も一緒にいられなくて全部護衛の人に任せきりだったからだ。


「借金を返したんでしょう?」

「うん、碧が、頑張った」

「じゃあ、これからは比較的安全な仕事中心に頑張ってと伝えて」

「わかった」


 順は静かに頷いた。


「ところで、トレースとドゥオはどう?」

「……トレースさんは真面目、ドゥオは不真面目、宗一爺さんが本気で怒ってて怖い……」

「あらあら……」


 本気で怖がっている順をレティシアは手招きし、カップを置いて、抱きしめる。


「貴方を怒ったんじゃないでしょう?」

「うん……」

「なら其処まで怯えないで……」

「でも……怒鳴り声を聞くと、体が動かなくなるんだ……」

「……貴方が『いじめ』という名前の暴力にあったことが原因なのね」


 レティシアは悲しそうな顔をしながら順の背中をさする。

 順はその言葉にぽろぽろと泣き出した。


「今でも怖いんだ……まだ立ち直れてない……」

「順さん、貴方はとても優しい人。だからここまで傷ついてしまったのね」


 そう言ってレティシアは順の頬にキスをする。


「大丈夫、私達と碧ちゃんたちがいるわ、皆貴方の味方よ」

「……うん」

「桐人も、ね」

「……うん」

「トレースもドゥオもよ」


 そう言ってレティシアは順の頬を撫でた。

 涙で濡れた頬を優しく撫で続けた。




 トレースとドゥオが働き始め、最初の給料日を迎えた日に事件は起きた。

 美奈が致死性の高いウィルスを注入され、咲良が大怪我をする事件が。


「桐人⁈ 貴方何考えてるの⁈ 碧ちゃんに500億の借金なんて‼ 碧ちゃんがどれだけ働いて、その借金を返そうとすると思っているの⁈」


 トレースたちから通信で報告を受けたレティシアは、即座に桐人に抗議の電話をかけた。


『あー、もーレティシア。胎教に悪いぞ⁇』

「誰のせいだと思っているの⁈ どうして碧ちゃんたちにそんな借金を背負わせたの‼」


 レティシアはスピーカーモードで怒鳴る。

 電話の向こうの桐人は純粋にレティシアを心配しているようだった。


『だーかーらー! 俺の咲良が大怪我した原因が、碧の親友の美奈って女子にあるからだよ』

「だったら500億も背負わせる必要ないじゃない!」


 そう言うと盛大なため息が聞こえて来た。


『あのな、俺は碧や順、涼、ノウェムや宗一爺さんだったら無料で治療したわけ』

「じゃあどうして美奈ちゃんの時は500億なのよ!」


 レティシアが問い詰める。


『だって、美奈って女子は俺にとって大切な人、でもなんでもねーんだもん』

「貴方って人は……!」


 レティシアは拳を握り締める。


「レティシア様、落ち着いて、胎教に悪いです、それ以上怒ると」


 セスは必死にレティシアを宥めようとする。

 しかし、上手くいかないようだった。


「本当、そういう所だけは人でなしだわ!」

『おー、俺は人じゃないしな』

「そういう意味でいってるんじゃないのよ!」


 けらけら笑う桐人の声により、怒りが増したのかレティシアは更に怒鳴る。


「う……」


 痛みが走り、レティシアはお腹をさする。


「レティシア様、だからお体に悪いと」

『そうそう、体にも胎教にも悪いぜ?』


 その言葉にギロリとレティシアは通信機を睨み付ける。


「誰のせいだと思っているの⁈」

『まぁ、俺のせいだわな』


 通信機の向こうでケラケラと笑う桐人の声がレティシア達に聞こえた。


「この馬鹿桐人!」

「レティシア様、奥でお休みください。私共が話をいたします」


 デケムがそう言うと、レティシアは拳を振るわせながら何か思考していた。

 そして辛そうに口を開いた。


「お願い……今の私は平常心を保てないわ……」


 レティシアはセスに支えられながら、奥の寝室へと向かった。

 それを見届けてデケムは口を開く。


「初めまして、桐生桐人様。新型人工生体兵器№10。通称デケムと申します。デケムとお呼びください」

『おーデケムちゃんね、レティシアを引っ込めてくれてありがとさん、あのままだと怒り狂って何するか分からないからな』


 桐人の言葉にデケムは眉をひそめた。

 分かっていっているのかこの男はと。


「貴方が医者だと聞いています。なら分かるでしょう、妊婦の方々はホルモンなどのバランスが崩れ、感情もヒステリックになりがちだと」

『順の話じゃ、いつも落ち着いて相談に乗ってくれる人だったんだけど?』


 その言葉にデケムは思案した。

 そして問いかける。


「順様と頻繁にご連絡を?」

『いやー、アイツ父親になるけどレティシアに心配ばかりかけててどうしようってここ数日かけてきたんだよ、俺に電話』


 デケムは何となく納得できた。

 休みの順とレティシアは穏やかな時を過ごしている。


 しかし、最近入社したドゥオのせいで、宗一なる老人の怒鳴り声が順のトラウマを刺激していることも。

 宗一はその度に不安定になる順を宥めているようだが、ドゥオが不真面目過ぎて効果が今ひとつであることも。


「ドゥオにはレティシア様から直々に仕置きをして貰わねばなりませんね」

『それはそう思う』


 自分と同じナンバーズでありながら、何という体たらくだ。

 デケムは作られて間もないながらも、そう呆れていた。

 レティシアがいる間はナンバーズは作られない予定らしかったが、隠居したご当主が妊娠したレティシアに何かあったらと作ったのが自分であることも分かっている。


「ところで、先ほどの治療の件で、ノウェムが入っていたのは何故です?」

『何故って、俺が認めた「碧の恋人」だからだ』


 その言葉にデケムは目を丸くする。


「初めて聞きました、ですが、ノウェムの態度を見ると納得できます」

『だろう?』


 通信機越しに笑い声が伝わる。

 先ほどと違い不快感はない。


「貴方様はそれほど人間が嫌いなのですね」

『んーそういうこと、よくわかんね』


 デケムの指摘に先ほどと同じ口調で返す桐人の声。

 しかし、デケムは見逃さなかった。


「『人間』という種族は嫌いだが、それでも『人』は愛してらっしゃるのですね」


 通信の向こうが数秒沈黙した。


『……前言撤回、アンタやべぇな。俺の思考読んでる?』


 感嘆と驚愕の声が返ってきた。


「いいえ、そう思っただけです。では本題に、何故500億という大金を請求なさったのです? レティシア様でも200億前後でしたが」

『そりゃあアレだ、本来命に値段は付けられない、でも俺は値段を付けた、これでも良心的なんだぜ? なんせ咲良の治療費1000億かかる位ヤバいんだぞ』


 そこでデケムは全てを理解した。

 身内ではないが、碧の友人だからこそ、半額まで「値下げ」したのだと。


「……だからその半額と」

『そういうこと──本当、碧と無関係の人間人質に取ったりしてたんだったらまた違ったかもなー』


 デケムはその発言に問いかける。


「町中で誰かを人質に、という状況などですか?」

『そういうこと』


 見殺しにするのか、それとも助けるのか?

 わからない。

 その「人間」が「人」なら無償で助けるだろうという確信だけはデケムは持てた。


「では私からレティシア様に報告します」

『おう、頼むわ!』


 そう返すと、通信は切れた。

 デケムは寝室でベッドに座っているレティシアと、背中をさするセスに近づいた。


「話し終えました」

「なんと言っていたの?」


 落ち着いたレティシアはうつむきながら問いかけてきた。

 デケムは口を開いた。


「咲良様の治療費は1000億かかったそうでした、そしてその責任として碧様に半額をお支払いになることを求めたと思われます」

「咲良ちゃん……そうね、あの子は普通の治療じゃ治せない……それ位かかるのも理解できたわ……」


 レティシアはそう言って黙り込んだ。


「レティシア様、此度のことに責任を感じていらっしゃるなら、パトリ社に今後も仕事を優先的に回しましょう」

「……ええ、そうね! ロゼッタに言わないと」


 そこでようやくレティシアは笑顔になった。


 その後、レティシアはロゼッタに事情を説明し、電話越しにロゼッタはそれを了承した。









妊娠時、レティシアサイドではこんな話があったというものです。

また、順もまだトラウマから立ち直れていないのもあります。

実父には厳しいですが夫には優しいレティシア。

そして碧の500億借金ではかなり桐人に激怒して冷静では居られなかった様子。

デケムが代わりに対応してます、ナーバスになりがちな妊娠している女性のために作られたのかその観察眼は桐人が唸る程の様子。

でも、ここでは書いてませんがポンコツなところもあります。

それは初出のところを読んでくだされば分かります。



ここまで読んでくださりありがとうございました!

誤字脱字報告等ありがとうございます!

次回も読んでくださるとうれしいです!

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― 新着の感想 ―
俺の咲良!!不覚にもキュンときました。確かにこれは作者様が以前おっしゃっていた夫婦ですね!俺のといった桐人に強い好意を感じましたわ。これ、碧ちゃんたち桐人が身内判定した人でも俺のとはいいませんよねぇ!…
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