60.碧20歳の誕生日
病院襲撃事件から2日後。
碧の誕生日パーティーが市内のモナル社傘下の会社のパーティー会場で開かれることとなった──
病院襲撃から2日。
今日は私の20歳の誕生日だった。
「……」
広いパーティ会場で私はレティシアさんから貰った青いパーティドレスに紺の薔薇のコサージュを付けて立っていた。
市内にあるモナル社系列のパーティ会場を急遽貸し切ったらしい。
……グレイズさん、本当に実娘のレティシアさんには頭が上がらないんだな。
「碧さん、ごめんなさいね。お誕生日のことを忘れる位仕事に没頭させて」
「いや、いいんですよ。レティシアさん……ところで双子ちゃんは?」
生後まだ九日くらいしか経ってないんだもの心配だ。
「ああ、テオとミネルヴァのことね」
「テオ君と、ミネルヴァちゃんで合ってますか?」
名前だけでは性別が分からなかったので確認してみる。
「ええ!」
「いい名前ですね」
「本当はどちらかを日本風の名前にしたかったんだけど、順さんが『どっちが会社ついでもいいようにそっちの名前にしておいたほうがいい』ってことでこの名前になったの」
「なるほど」
順兄さん、そこまで考えてたのか。
……もし将来私に子どもができたらどうなるんだろう。
まあ、その時になったら考えればいいか。
「テオは『神からの贈り物』、ミネルヴァは知恵と医学を司る女神から取ったの」
「どっちも素敵な意味があるんですね」
私は思わず感心してしまう。
双子ちゃんの話で自然と家族の話になった。
「で、そのテオ君とミネルヴァちゃんは?」
「デケムと順さんがあそこで見て……お父様もね……」
私が双子ちゃんがどうしてるか聞いて、レティシアさんの視線の先を見る。
レティシアさん、デケムさんと順兄さんの名前は嬉しそうにいったのに、自分のお父さんのこと言ったとき急に冷めた声になったな。
「テオ~~! ミネルヴァ~~! じぃじですよ~~!」
距離はそこそこあるのに、グレイズさんの言っている言葉は丸聞こえだし、顔がデレデレになっているのも見える。
……なんか、凄く違和感があるけど黙っておこう。
「……正直、あんなお父様見たくなかったわ」
「お、お孫さんには普通のお祖父ちゃんとかお祖母ちゃんなら甘いものですから!」
遠い目をしてレティシアさんがおっしゃった。
私はちょっとレティシアさんの少しでも気が楽になればと思ってフォローしてみる。
「そうなのかしら……お祖母様とお祖父様はあんなにデレデレした表情は浮かべてた記憶はありませんわ」
「う、産まれた時はデレデレだったかもしれませんよ」
そしてふと思ってしまったが、言いづらい内容だったので飲み込もうとした。
「お祖父様とお祖母様は私しかお会いしたことはないわ。姉弟と母もね結婚して以降母はお祖父様たちには会おうとしなかったから」
「レティシアさん……」
言いづらいことの答えをレティシアさんの方から言い出した。
私はなんとも言えない気持ちになる。
だって、レティシアさんの家は泥沼状態で、レティシアさんだけが実子で、他は異父兄妹。
レティシアさんは異父兄妹ばかりって言ってたよね……。
じゃあレティシアさん自身は?
「言い忘れてたけど、私が末っ子よ」
「えっと……」
何か聞いちゃいけないことを聞いている気がする。
「実子を一人くらい産んでおかないと、お父様の目を逸らせないと思ったから――そう言われたわ」
レティシアさんは寂しげに言った。
思わず私は聞いてしまう。
「だ、誰にですか?」
「母に」
レティシアさんの実母最悪じゃ!
まぁ、消息不明になったってことは多分死ぬよりヤバい目にあってるんだろうなぁ。
殺された異父兄姉たちとはまた違う意味で、悲惨な末路を辿ったのかもしれない。
「そのことをお父様には……」
「言ったら殺してやると言われて怖くて言えなかったけど、父は全て見通していて、母と私を引き離して育てるようになったわ、私がエレメンタリースクールに入る位の年には母とは全く顔を合わせなかったわ」
お父様、そこまで分かっていたならもっと早く母親から遠ざけられなかったのかな……。
そうしていれば、レティシアさんもここまで拗らせなかったんじゃ……。
「そういえば桐人兄さんとは、どこで知り合ったんですか?」
何かもやもやした気分になったので話題を変えることにした。
「ああ、桐人とはお祖父様たちとお会いしたときに会ったの。『これがグレイズの娘か! クレアの小さい頃そっくりだ!』っていきなり抱っこされて驚きました」
「桐人兄さん……そこ言っちゃう⁈」
もう、こういうところはデリカシーないんだから。
「レティシアさんはどういう対応を?」
「『まぁ、お祖父様たちよりもお年を召してるの⁈』だったわ」
ぶふっと吹いて笑ってしまった。
天然すぎる返しだよ、レティシアさん。
「そのあと桐人が『おい、グレイズ。お前娘ちゃんにどういう教育してんの?』って言い出して口論を始めて喧嘩に発展しちゃったの」
「あーもー」
桐人兄さんとグレイズさんって、案外似た者同士なのかも。
身内関係には甘く、それ以外には厳しくってところが。
「それを見たお祖母様が『本当似た者同士なんだから』っておっしゃって、二人そろって『『どこが⁈』』ってなって喧嘩はお終い」
「お祖母様お強い……お祖父様は?」
「お祖母様の側でニコニコして見守っていたわ」
確実に、レティシアさんお祖母様とお祖父様の血を引いてらっしゃるわ。
そしてお父様の血も確かに引いてらっしゃる。
尊敬に値する、だが恐怖感情も抱いてしまう。
だって、そんなとんでもない人が義理の姉なんだよ⁈
胃袋痛くなりそう…………胃薬欲しい。
「おう、碧!」
「碧ちゃん」
スーツ姿の桐人兄さんに、アミュレスのパーティドレスを着た咲良ちゃんがやって来た。
「桐人兄さんに、咲良ちゃん! 二人も来てくれたの!」
「咲良とお前は友達だし、レティシアと俺は知り合いだからな」
私の言葉に、桐人はウィンクをしながら咲良ちゃんの手をとって近づいて来て言った。
「咲良ちゃん、そのパーティドレス似合ってる‼」
「ほ、本当? 嬉しい……碧ちゃんのドレスも素敵だね」
「ありがとう!」
咲良ちゃんと互いにドレスを褒め合う。
「碧に何の用だ?」
「ノウェムさん……」
いつの間にかノウェムさんが隣に立っていた。
桐人兄さんが来た途端こちらに来た。
しかも私を抱きしめてる。
「なんで俺のこと嫌うんだか、まぁ仕方ないけど」
「あれは桐人が悪い」
以前の首絞め事件の内容なんだろう。
なら私は聞かない。
「可愛い『妹』と話しちゃダメか?」
「駄目だ」
……ノウェムさん、嫉妬深すぎるよ。
「おんや~~ノウェム、嫉妬~~⁇ 嫉妬するなんて本当可愛いんだなぁ碧ちゃんが~~!」
ドゥオが近づいて来て、ノウェムさんを煽る。
私もうざいと感じる。
「……俺この男生理的に無理だわ」
「……初めて意見があったな、私もこいつは生理的に受け付けん」
桐人兄さんが嫌そうな顔でドゥオを見ている。
そのセリフを聞いて納得したくないが納得しようとしているノウェムさんがいた。
「ドゥオ、貴方には会場の警備を命じたはずですよ?」
「俺にだけなのは何でですか⁈」
レティシアさんは笑ってない笑顔をドゥオに向けた。
ドゥオは露骨に不満そうな顔をした。
「貴方、パトリでのお仕事ロクにしてないのトレースから聞いてるわよ」
「げ」
「宗一さんからも苦情電話が来たわ」
「げ」
レティシアさんがドゥオを容赦なく追い詰めていく。
「だから此処で位きちんと仕事しなさい?」
「はい……」
しょんぼりとして会場の外に出て行った。
そんなやりとりをしていると、料理は並べられ、中央に大きなケーキが置かれていた。
「20歳のお誕生日おめでとう、碧さん」
「ありがとうございます!」
レティシアさんに言われて感謝の言葉を言う。
「「「「お嬢! お誕生日おめでとうございます!」」」」
「碧、お誕生日おめでとう!」
「おめでとう」
「おめでとうございます」
クラレンスたちの声に続いて、みっちゃんや皆から次々と祝いの言葉が飛んでくる。
「碧、誕生日おめでとう。これで酒が飲めるな」
「もう桐人ったら……碧ちゃん、お誕生日おめでとう」
桐人兄さんは、私が飲んでみたいと言っていたシードルを掲げながら笑っていた。
そんな桐人兄さんに呆れながら咲良ちゃんもお祝いしてくれた。
「碧、誕生日おめでとう」
「おめっとさん」
宗一お爺ちゃんと涼兄さんが言う。
順兄さんは……うん、赤ちゃんの面倒をみるのに忙しそうだ。
グレイズさんも。
仕方ない。
「碧、お誕生日おめでとう」
ノウェムさんが最後に微笑みながら言う。
そしてケーキが運ばれてくると、
「じゃあ、みんなで歌を歌おうよ!」
メフィストが言い出す。
「いや、それはちょっと……」
「いいわね! 歌いましょう!」
ハッピーバースデーの合唱のあと、私は照れながらろうそくの火を吹き消した。
その後、みんなで料理とケーキを楽しんだ。
去年は誕生日なんて祝う余裕もなかった。
でも今年は違う。
こんなにも大勢の人に囲まれて笑える日が来るなんて思ってもいなかった。
――20歳の誕生日は、きっと一生忘れられない思い出になる。
碧は20歳になりました!
みんなにお祝いされて嬉しそうです。
ドゥオは普段のサボりで警備に回されました、自業自得。
彼女にとって忘れられない誕生日になったのだと思います。
ここまで読んでくださりありがとうございました!
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次回も読んでくださるとうれしいです!




