59.病院強襲~忘れていたこと~
レティシアの産後四日目の夜まで無事に過ごすことができていた。
碧もその間はレティシアの計らいで休息をとりつつも護衛を行えた。
だが、四日目の夜事態は急変する──
産後四日目の夜までは、無事に過ごせていた。
病院で、レティシアさんたちの計らいで出して貰った食事を食べさせて貰えたし。
「私が入院中、ゼリー飲料のNOVAだけだったら味気ないでしょう?」
レティシアさんはそう言って、付き添いの私たちの食事まで用意してくれていた。
だが、ノウェムさんだけは、
「私は緊急時に動けなければならない」
なんでこんな違いがあるんじゃ。
と、文句を言ったらレティシアさんに苦笑いされた。
「ノウェム、私だけじゃなく貴方の何かあったらと言い出して入らないって意固地になってるのよ」
あーもう!
ノウェムさん、過保護すぎ!
私は自分の身は自分で守れます!
「明日で退院ですね」
「ええ、そうね」
私はこのまま何も起きないことを祈った。
だが、その祈りを破壊するように通信機が四つビービーと鳴り響いた。
その音に赤ちゃん達が起きて泣き出したので私は持ち出して扉を閉めた。
「はい、こちら碧!」
私が応答すると、四人から一斉に返事が返ってきた。
『お嬢! 北方角からロボットの軍団がきちょる!』
『こちらクラレンス! 西の方角からもです!』
『メフィストだよ! 東の方角からも来てるよ~~ヤバいよこれ~~!』
『レイジングだ、南の方角──入り口の方に来ている! まだ距離はあるがこのままだと30分もしないうちに到着する!』
「嘘でしょう……」
四人の報告を合わせると、敵はこの病院を完全に包囲していた。
「話は聞きました。レティシア様の護衛はデケムに任せて、私たちは行きましょう」
「セスさん……はい!」
ここが気合いの入れどころだ!
そう思い頬を叩いて気合いを入れる。
「私も出よう」
「ウヌス」
銀髪に赤いメッシュの入った男性がいた。
「えっとセスさんたちと同じ、そのナンバーズの方?」
名前で気になったので聞いてみる。
本当はそんな場合じゃないんだけど。
「そこまで分かってくれてるなら自己紹介は後ほどにしよう、私は入り口、セスは北、ノウェムは東、君は西を担当してくれ」
「まて、碧にまでやらせるのか⁈」
頷こうとすると、ノウェムさんが割って入った。
「他の連中は皆別所で仕事だ、呼び出す時間も惜しい」
「大丈夫、私もパワードスーツを着て戦うから!」
ウヌスさんの言葉に、私は事態の深刻さを改めて理解した。
だから必死に説得する。
「いや、しかし……」
「もー! じゃあ、終わったらこっち来てね!」
「わかった、すぐ終わらせる!」
そう言って私たちは病院を飛び出した。
「クラレンス!」
「お嬢! この量はヤバいですよ! 破壊しないで倒すだけでは押し切られます」
「……仕方ない、破壊許可! 皆に連絡して」
クラレンスの言葉に苦渋の決断をする。
壊れていなければモナル社で回収・解析してくれるはず。
でも壊れたら廃棄される。
「こちらクラレンス、お嬢から破壊許可が出た!」
『『『了解!』』』
三人の声に唇を噛みしめて私はバイザーに映る情報でパワードスーツを着用、もしくは武装している連中を探す。
「──見つけた! クラレンス、お願い! 何とか病院へ近づけないで!」
「分かりました!」
ロボットたちの頭部を足場にして跳び上がり、敵集団の前へ降り立つ。
「何⁈ もう来やがったか⁈」
「外れが来たんだ、此奴なら俺達でも何とかなる!」
「いや、当たりだ! この女パトリ社の社長だ! 生かして連れ帰るぞ!」
連中は私の事を当たりとか外れとかなんか訳の分からないことを言っている。
でも、今はどうでもいい、任務を遂行しなければ!
一人目は腹に蹴りを叩き込み、体勢が崩れたところを頭部へ追撃の蹴り。
男は悲鳴を上げながら横へ吹き飛んだ。
「ぐえ!」
「二人でかかるぞ」
「おう!」
二人目がナイフを振り上げる。
その腕を掴んで投げ飛ばし、地面に叩きつける。
三人目が発砲しようとしたが、その前に蹴りで銃を弾き飛ばした。
「ぎゃあ!」
「うげぇ!」
「ふーこっちは大丈……」
大丈夫と言おうとした瞬間、背筋に悪寒が走った。
真っ黒なパワードスーツを着た人物が立っている。
その瞬間だった。
周囲の喧騒が遠のいたような感覚を覚える。
直感が囁く、此奴は危険だと。
距離を取ろうとしたら一気に距離を詰められ首を掴まれ絞められる。
「うぐぐ……」
息が吸えない。
視界がじわじわ暗くなる。
必死に足を動かしてもびくともしない。
「この娘を一人にしたのが仇になったな──」
「誰が、仇になってって?」
声が聞こえた。
視線を向ければ桐人兄さんが立っていた。
「レティシアから一応依頼は受けてたんでね、『碧ちゃんが一人だと危険だから見張ってて』と言われたが正解だったな」
「……お前がアダムか」
その表情に笑っていた桐人兄さんの表情が一気に冷たくなる。
「誰から聞いたかは後で聞いてやるよ」
そう言うと桐人の姿が消えた。
次の瞬間桐人はパワードスーツを着てる人物──声からすると男を殴り飛ばしていた。
その瞬間男の体が吹き飛び、首を絞めていた手が離れた。
「ごほっごほっ!」
思わず咳き込む。
それほど強く首を絞められていたからだ。
ただ首を折るつもりではなく、酸欠で気絶させようとしていたのが先ほどの連中の言葉から推測できる。
「碧!」
「ノウェムさん……」
私を抱き寄せてノウェムさんは言う。
「無事か⁈」
「うん、桐人兄さんが助けてくれたから……」
「何?」
私が指刺す方向をノウェムさんは見た。
「何だアイツは……しかもあのパワードスーツ、現在モナル社で開発が完了したばかりのものだぞ⁈」
「え」
じゃあ、モナル社の誰かが横流ししたってこと?
「後でレティシアに報告だが、桐人は何者だ、何故生身でパワードスーツと互角に戦える⁈ いや互角どころか押しているではないか」
「分からない……」
桐人兄さんのことは少し前に聞いた。
ナノマシンアダム。
それの力なの?
「ごはぁ!」
桐人がパワードスーツを着用した男のパワードスーツをボコボコにして、男を踏みつけていた。
「さぁて、話して貰う──」
「話すくらいなら死を選ぶ!」
何かを噛むような音がかすかに聞こえた。
「こいつ、口の中に自決用の毒仕込んでやがった!」
桐人が男のヘルメットを外し、男性の口を覗き込んで言った。
「仕方ない、他の連中に聞けるだけ聞くか」
そう言って伸びている連中を桐人兄さんは抱えた。
「じゃあ、こいつら持っていくから、後はよろしくな!」
「え、警察じゃなくて桐人兄さんが連れていくの⁈」
私の疑問には答えず、桐人兄さんは闇夜へ姿を消した。
重い沈黙が体にのしかかる。
「……碧?」
「何か、私狙われてるの? 最初外れとか言ったのに、急にパトリ社の社長だから当たりとか言い出してて……」
「……君はモナル社と仲の良い社長だ、だから狙われたんだろう」
襲撃者たちに告げられた言葉に、困惑する私をノウェムさんはパワードスーツを解除して、私を抱きしめた。
私もパワードスーツを解除し、ノウェムさんの温もりに安堵する。
「お嬢! こちらは無事に制圧完了しました……って何やってるんです⁈」
「碧が狙われたらしい、それに不安がっているから抱きしめている」
やって来たクラレンスが驚愕の声を上げる。
ノウェムさんは淡々と答えた。
「無事だったんですか⁈」
「桐人兄さんが来てくれたの」
クラレンスは驚きの表情を浮かべた。
「どうして桐人が⁈」
「レティシアさんに、もし私が一人だったとき危険だからって依頼されてたみたい……」
驚愕するクラレンスに、私は桐人兄さんから聞いた内容を話す。
「すまない、私がもっと早く来ていれば……」
「ううん、いいの。ノウェムさんが来てくれただけで……」
そう言うと、ノウェムさんは悲痛な顔で私をより強く抱きしめた。
「苦しかっただろう、すまない」
そう言って首を撫でてきた。
「お嬢⁈ 首に痕が!」
「あ、あはは、ちょっと首締められたから……」
笑って誤魔化すが、クラレンスは怒った。
「笑わないでください、そんな無理して! 怖かったんでしょう!」
「……」
クラレンスの言葉に無言になる。
「碧、泣いていい、幸いここには私とクラレンスしかいない」
ノウェムさんがそう言った途端、私はぼろぼろと涙を流して泣き出してしまった。
「怖かった! 死ぬんじゃないかって怖かった!」
「それでいい、君は無理に戦おうとしなかったのだろう、距離を取った痕跡がある、よく逃げようとした」
「う゛ん、う゛ん……!」
ノウェムさんの言葉に、私は安心して泣けた。
久しぶりにないた、両親の死で思いっきり泣いてから泣かずに歯を食いしばってきた。
だから久々に、大声で泣いた。
ようやく落ち着いた頃、冷えたタオルをどこからか取りだし、ノウェムさんは目を冷やしてくれた。
「すこしは泣いてるの分からないよね」
「いや、分かるだろう」
「分かりますね」
私の言葉を、ノウェムさんとクラレンスが速攻で否定する。
「怒られちゃうかなぁ……」
「事情を話せば怒られないさ」
「そうですよ」
怒られるんじゃないかと不安になる私に、ノウェムさんとクラレンスは安心させるように言った。
「襲撃者達は確保できるものは確保し、ロボットは……大部分が破壊だが一部は破壊されていない」
「そっか……でも、仕方ないよね、それ位大がかりの襲撃だったんだもの」
『ノウェムか、早く碧様を連れて戻れ。レティシア様が心配している』
ノウェムさんの通信機からウヌスさんの声が聞こえた。
「わかった、では戻るぞ」
「うん」
「ええ」
ノウェムさんに抱きかかえられて私は病院へと戻った。
クラレンスはその後を追って走っていた。
「レティシアさん、無事でした──」
「よぉ、碧ちゃん!」
「桐人兄さん⁈」
レティシアさんの部屋に入ると、何故か桐人兄さんがいた。
どうなってるの⁈
「ウヌスって奴に捕獲した連中渡してこっち来たんだよ、でレティシアと会話してたって訳」
「レティシアさんその……」
桐人兄さんの説明の後、私が話そうとするとレティシアさんは微笑んで手招きした。
私はよく分からず、近づくと抱きしめられた。
「貴方が無事で良かったわ、桐人に頼んでおいて本当に良かった」
「まぁ、依頼受けなくても来るつもりだったんだけどな、可愛い碧ちゃんが心配だったからなー」
レティシアさんの言葉に、また涙がじわりとあふれる。
だが、桐人兄さんのしゃべり方で涙が引っ込んだ、なんか台無しな気分だ。
「聞いたわ、私の会社の最新機種を敵が持って居たと。まだあれは二つしか作られてないの、一つはウヌスが使ってる。でももう一つが別のものとすり替えられていると連絡があったわ」
「……盗まれた?」
すり替えるなら盗まれた可能性もある、でも誰が。
「可能性もあるけど、監視カメラに複数近づいてる人たちがいたわ、役員や副社長たち、重役の者たちが」
「その誰かが横流しした可能性も……」
レティシアさんの言葉に私が問いかけると、レティシアさんは頷いた。
「捨てきれない、だから今後は私から貴方達にパワードスーツを提供できない」
「え⁈」
ちょっと待って!
それじゃあ最新型が来られたら私もノウェムさんも──
「そういうことで俺の出番よ」
桐人が自分自身を指刺して笑う。
「今後は桐人さんのパワードスーツを使ってください。彼が作るものは、私たちのものより数十倍も高性能ですから」
「あ、あのー私、返してはいるんですが桐人に総額500億の借金してるんですが……やっと292億6千万まで減らしたところなんですが……」
そう、この桐人兄さんに私は500億借金したのだ。
今ちまちま返して現在は292億6千万、また借金が増えるのは嫌だ!
「あ、パワードスーツはタダでいいぜ」
一瞬、耳を疑った。
「「は?」」
桐人兄さんの言葉に、私もノウェムさんの言葉が重なる。
「今回の件で大事な妹を守るには俺が出張っていくしかないのが分かったからなぁ」
「……何か変な機能とかしかけないだろうな?」
「しねーよ!」
相変わらず桐人兄さんに敵意むき出しというか警戒心が強すぎるノウェムさん。
桐人兄さんも否定してるし、私もしないと思う。
「しないと思うよ、桐人兄さん、仕事には真面目だから」
「碧が言うなら……」
ノウェムさんはようやく納得してくれたようだった。
「そういえば、碧ちゃんよ」
「なんじゃい、桐人兄さん」
「明後日じゃね、お前の誕生日」
「「「「あ」」」」
個室内にいたクラレンス達が声を上げる。
明後日は6月14日。
私の誕生日だった。
「いやーこの二年位の間働きづめだったからすっかり忘れてたわ」
「お父様、パーティー会場の予約を、盛大にお祝いしましょう」
レティシアさんがなんか言ってる、お祝い?
「お、おおそうだな、孫の──」
「身内でです! 空気が読めないクソ親父は嫌いですわ!」
レティシアさん……私も空気読めてない。
「碧さんのお誕生日パーティーですわ! 小さい会場で結構ですから今すぐ全員が入れるだけのを確保して!」
「わ、わかった!」
グレイズさんェ……それにしてもなんで私のお誕生日会?
「碧さん、貴方達のお陰で私は安心して出産に臨むことができたのです。だからお祝いを忘れる程頑張っていた貴方のお祝いをさせてください」
「あ、ありがとうございます!」
レティシアさんに言われて、なんだか嬉しいやら誇らしいやらそんな気持ちで私は一杯になった──
病院を囲むように襲撃されましたが無事防衛できましたね。
ただ、碧が少し危険な目に遭いましたね、いや、少しじゃないや割と危険だ。
桐人が来てくれてて良かったですね。
また、碧はずっと我慢してきた様子です。
もしかしたらこれからも我慢しすぎて何か悪い事が起きたり……?
それはさておき、実は碧の20歳の誕生日が迫っていました。
碧も両親が死んでからお祝いする習慣を無くしていたので、レティシアがグッジョブかと。
グレイズは孫馬鹿すぎてレティシアにクソ親父呼ばわりされてます。
仕方ないね。
ここまで読んでくださりありがとうございました!
誤字脱字報告等ありがとうございます!
次回も読んでくださるとうれしいです!




