58.レティシアの出産~そして警護任務が始まる~
地球政府の入金しぶり事件から二ヶ月たったある早朝、グラウンドを走っていると、順からレティシアが破水したと連絡が来る。
碧は急いでノウェムに報告し、ノウェムと共に病院へと向かう──
地球政府の出し渋り騒動から二ヶ月。
借金を少しずつ返しながら、慌ただしい毎日を送っていたある日の早朝だった。
グラウンドを走っていると順兄さんから連絡が入った。
「はいー順兄さん、どうしたの?」
『碧! れ、レティシアが』
「レティシアさん……まさか」
『破水した! 今デケムさんの運転で病院に向かっている!』
わ゛ー!
どうしよう⁈
とにかくノウェムさんに報告だ!
「ノウェムさん!」
「どうした、碧」
自室に戻り、部屋にいるノウェムさんに声をかけた。
「レティシアさんが破水したので病院に行ったようです!」
「何だと?」
ノウェムさんは私を車へ押し込むようにして病院へ向かった。
皆に連絡する時間はなかったので、宗一お爺ちゃんにだけ連絡を入れた。
「宗一お爺ちゃん⁈」
『おお、碧か。姿が見えないが何処に行っておるんじゃ?』
のんびりと喋っているように見えるが、私の焦りを宗一お爺ちゃんは感じてくれているような口調だった。
「レティシアさんが破水したの! 今病院へ向かってる! 何かあったらお願い!」
『それは一大事じゃ! お前さんは向かって安心させてあげなさい、こっちのことは儂等に任せるんじゃ!』
「うん!」
通信機の通信を切り、規模が大きめな病院に到着。
「順兄さん! レティシアさんは⁈」
「いま陣痛の真っ最中だ!」
先ほどといい、今といいこんな大声だす順兄さん初めて見たよ。
小さい頃から声が小さくて、何を言っているのか聞き取れないことが多かったのに。
「陣痛⁈ えっと車で一時間かかったから……あとどのくらいなのー⁈」
「俺が知りたい……!」
「あら、碧さん……ノウェム……よく、来てくれたわ」
脂汗をかいていたレティシアさんがそこにいた。
「う、動いて大丈夫なんです⁈」
「動かないと……少しでも陣痛を促して赤ちゃんが出やすくならないと……」
そう言ってセスさんに付き添われて歩いて戻って行った。
「赤ちゃんを産むって……本当に命がけなんだね……」
「ああ……そうだな……俺は痛みの肩代わりもできない……」
あーあ、また声が小さくなった。
「順兄さん、レティシアさんの側にいたげて」
「え、でも……」
「痛み肩代わりできなくても側にいることぐらいできるでしょうが!」
私は順兄さんに檄を飛ばす。
看護師さんに「お静かに」と言われたのはちょっと反省。
「そう、だな。行ってくる」
「じゃあ、私たちもいこうか、兄さん一人じゃ何か心配になってきた」
「そうだな」
役に立たないと思いながらも私は順兄さんの後を追う。
グレイズさんが病室で、少し休憩しているレティシアさんをうろたえてみていた。
「レティシア! この父に何かして欲しい事は無いか?」
「いえ……」
レティシアさんは少し考えてから答えた。
「強いて言えば、少し落ち着いてください……」
あそこまでうろたえられると、レティシアさんも落ち着かないんだろう……。
……いや、多分うっとうしいだけだ。
「レティシアさん、大丈夫ですか」
私は近づき、額の汗をハンカチで拭う。
「ありがとう、碧さん……」
それから長い時間が過ぎた。
気付けば10時間近くが経っていた。
レティシアさんは、疲労が色濃く浮かび、それでも懸命に耐えていた。
順兄さんもなんか少ししっかりしたようにセスさんに代わって歩くのに付き添っている。
「あれ、デケムさんの姿がないけど」
「レティシア様の出産担当がデケムになったの」
「え?」
何があったと首を傾げていると。
「主治医が裏で金を受け取り、レティシア様と赤ん坊を殺そうとしていた」
ノウェムさんが補助するように言った。
「証拠が見つかり、拘束され、排除されました」
「……」
セスさんのその言葉に、私は息をのんだ。
医者として失脚しただけなのか。
それとも、人として"排除"されたのか。
怖くて聞けなかった。
「二分~三分間隔になったみたい、私も手伝う。順様に立ち会いをお願いして」
「わかった」
運ばれていくレティシアさんについていく私たち。
分娩室の前で立ちすくんでいる順兄さんに言う。
「順兄さん、奥さんの出産立ち会いしてあげて」
「……わかった」
そう言って立ち会い室に入っていった。
「ああ、レティシア! 神よ、レティシアと孫が無事でありますように!」
グレイズさん祈り始めている。
まあ、私も祈る。
どうか無事に生まれますようにと、二人とも無事でありますようにと。
それから更に三時間後──
「出産が無事に終わりました! 元気な男の子と女の子です!」
「え、双子だったの⁈」
「双子、だったのか?」
助産師さんが報告に来た。
その言葉に、私とノウェムさんは驚愕した。
そう言えばどっちか教えて貰ってなかった。
もしかしてサプライズ⁈
「初産でしたが、スムーズにお生まれになりました」
「あ、あれでスムーズなんですか……?」
陣痛10時間近く、出産は3時間。
スムーズ?
そういうの勉強したことないからわかんない!
「みなさん、レティシア様が入っていいって」
セスさんが出て来たので入っていく。
「グレイズ様はまだ、だめ」
「な、何故だ!」
セスさんの言葉にグレイズさんは困惑の声をあげる。
「うるさそうだから、だって」
「レティシアー! 私はそんなにうるさいかー⁈」
はい、うるさいです。
と、心の中だけで思っておく。
分娩室に入ると、本当に生まれたばかりの小さな赤ちゃんをレティシアさんがだっこしていた。
「わー! ちっちゃい‼」
「うふふ、可愛いでしょう?」
「はい!」
ふぎゃあふぎゃあ
赤ちゃんの泣く声が愛おしい。
「レティシアさん、なんで双子だって教えてくれなかったんです?」
「順さんには教えてたのよ、父と、セスにも。他はちょっとサプライズがしたくて」
出産が終わり、疲れきっているはずなのに茶目っ気たっぷりの笑顔を見せるレティシアさん。
本当女傑だよ。
「貴方、泣いてないでちゃんと子どもたちを見て」
順兄さんを見るとボロボロと泣いていた。
私は思わず順兄さんを見た。
「無事で、無事で、よかった……」
「もう貴方ったら」
「順兄さん、赤ちゃん見てあげなよ、そこで泣いてないで」
無事を喜んでいるらしい順兄さんに、少し呆れているレティシアさん。
いや、普通は心配するものですからね?
と、いう言葉を飲み込んで、順兄さんに赤ちゃんをちゃんと見るように言う。
「そうよ、遺伝子的にもちゃんと貴方の子どもなんだからちゃんと見てくださいな」
レティシアさん、それ言っちゃいます?
まぁ、今は出産時と退院時に遺伝子検査してちゃんと親子か確認して渡してるらしいからねー。
「そう言えば、レティシアさんのあかちゃん達は新生児室に行くんですか?」
「いえ、新生児室には他の赤ちゃんもいるため、狙われれば被害が広がる可能性があります。レティシア様のところに機具を持ってきてレティシア様と過ごして貰います」
そこまでして命狙うんか。
他の子どもの命も犠牲にしようとするんか。
許せん!
「だから護衛任務をお願いしたいの」
「了解しました!」
私は即答した、だって危ないなら皆守らないと。
「ではセス、碧を頼む。私は戦闘員を連れてくる」
「ロボットたちね」
ノウェムさんがクラレンスたちを連れてきてくれるらしい。
見張りにはもってこいだ!
ありがとうノウェムさん!
セスさんの言葉はちくりときた、まぁロボットっていったらそうなんだけど……
「碧の『家族』で『社員』だ」
ノウェムさんがそう言って訂正してくれた。
驚いたけど、嬉しかった。
「……そう、ごめんなさい」
「ううん、気にしないでください」
セスさんの謝罪を受けている間にノウェムさんは行ってしまった。
往復で2時間はかかる、その間に私一人でも対策できることはないか──
と悩んでいると。
みんなを連れて40分位で戻って来た。
「宗一お爺ちゃんも連れて来たの?」
「メンテナンスが必要時にと思ってな、順にはレティシアの側にいて貰わねば困る」
「そっか、そうだよね」
ノウェムさんって、本当によく考えてるよな……
……宗一お爺ちゃんがいないからって、涼兄さんとドゥオの奴、サボってないよね?
「あかちゃんみたいよ!」
「我慢しろ、仕事が優先だ」
「そうですよ!」
「そうじゃ、そうじゃ」
メフィストの言葉に、レイジング、クラレンス、ガンツが諫める。
「じゃあ、俺達は外の見回りをするから、異常があったらすぐ知らせる」
「ありがとう!」
私がそう言うと、レイジングは笑って頷き、まだ駄々こねているメフィストを引きずって病院の外へ出て行った。
「……大丈夫かな、監視カメラに認知されなくなる機能ついてるパワードスーツとか着てこられたらどうしよう?」
「ああ、その点は問題無いぞ。ノウェムに教えられて対策済みじゃ!」
以前、私たちが地球政府の要人救出の際に使った機能。
アレ、他の連中が技術もってて侵入されたらたまったもんじゃないよ本当!
こうして、私たち株式会社パトリの要人警護任務がスタートした。
護衛対象はレティシアさんとお子さんたち、それとグレイズさんに順兄さん。
そして他にこの病院にいる人たち。
何事もなく終わってほしい。
それが、今の私の願いだった。
その願いが叶うと信じて。
本日はレティシアの出産回です。
出産って命がけなんだなぁと思ってくださると嬉しいです。
そして護衛任務が始まりました。
対象はレティシアだけでなくこの病院にいる人全員。
なので医師や患者、看護師、新生児なども含まれます。
無事終えられるのでしょうか……
ここまで読んでくださりありがとうございました!
誤字脱字報告等ありがとうございます!
次回も読んでくださるとうれしいです!




