57.借金返済~桐人は何かを知っている~
各所から報酬金が入金されていったのだが、地球政府からの入金が中々されなかった。
そんな中碧の元に桐人から通信が入る──
「まだ地球政府からの入金がないね」
「ああ、地球政府の依頼料だけ通知が来ない」
社長室で、私はデータとにらめっこしていた。
そう、地球政府からの依頼料だけがまだ振り込まれていないのである。
ほかの火星政府、月面政府、宇宙開発政府は支払いを早々にしてくれた。
研究所関連は口止め料込みで、それなりの依頼料になった。
最初のロボット暴走と銀行強盗はちょっと器物破損があったので少し遅くなり、ついでにさっ引かれたが、微々たるもの。
「最初のロボット暴走と銀行強盗で1億」
ノウェムさんが言う。
「パラシートゥス迎撃戦で150億」
淡々と続けて喋る。
「その後のパラシートゥス案件二件で80億。合計231億だ」
そして合計金額を言った。
「でも、それを全額借金返済に出せないから4割の92億4千万支払いをしました」
私がため息をついた、その瞬間だった。
通信機が鳴った。
「はい」
『はいもしもし、碧ちゃーん? 君の大好きなお兄さん桐人ですよー!』
社長室だとスピーカーにしているので、ノウェムさんの表情が絶対零度とも言える程冷たい表情になる。
「切っていいか?」
『うっわひでー! 仮にも血繋がって無くても碧の面倒みてたんだぞ俺! オムツも替えたし!』
「よし、殺す。待ってろ」
びきっと表情が怒りに変わったので、私はノウェムさんの腕を掴みそれを阻止する。
「のーうぇーむさーん! それは赤ちゃんの頃だから不可抗力!」
『そうだぞ、俺彩花たちのオムツ替えしてたんだぞ!』
ああ、もう!
桐人兄さんは余計な一言ばかりを言うのだから!
「貴様に赤ん坊の頃世話された者たちが哀れだ」
ノウェムさんは怒り顔のまま続けた。
「もう、ノウェムさん!」
『あ、入金確認したよー残り407億6千万頑張れ!』
「分かってますよ!」
500億なんて言い出したの、桐人兄さんなんだからね!
「一つ聞こう」
『どうした、ノウェムちゃんよ?』
桐人の発言にノウェムさんは額に筋を浮かべているけど、我慢している。
偉いよ!
「もし美奈ではなく、碧だったらどうしていた?」
『タダで治療』
ノウェムさんの問いに桐人の野郎、即答しやがった。
『俺は美奈という子の情報を知っている、碧の親友だってことも知っている。でも俺にとって彼女は大切な人でも何でも無い。赤の他人だ』
私は苦笑しながらため息をついた。
私はもちろん、咲良ちゃんや彩花姉さんたちも、子どもの頃から桐人兄さんに大切にされてきた。
お母さんたちも、同じように大切にされていた。
でも、みっちゃんと桐人兄さんは接点がない。
私を介した関係を、桐人兄さんは本当の意味での接点とは認めない。
接点があるというのは直に会って、桐人兄さんの信頼や信用を勝ち取った人のことを言う。
私の家の場合、お父さんがそうだった。
お母さんが結婚するという話を持ってきたとき、お父さんと初めて会った時、桐人兄さんの第一声は「お前に桃子は任せられん」の一言。
両家顔合わせの時も「お前は桃子を本当に幸せにできるのか」発言などとんでもエピソードが盛りだくさん。
でも、最後にお父さんは桐人の信頼を勝ち取った。
次男だったお父さんは萌木家に婿入りし、ロボットの権利を守るため、多くの学者たちと議論を重ねていたらしい。
でもお父さんが選んだ道がこの道だった。
パワードスーツ、実はお父さん用に用意をお願いされたものだったらしい。
お父さんが現場の指示をしてロボット──メフィストたちと共に危険業務代行:株式会社パトリを作った。
ロートルと呼ばれるロボットでも現場で戦っていけることを、そして人間がそのフォローをすることで活動を広げられることも、様々なことを証明したかったらしい。
そしてお母さんは慈善活動を通してロボットたちの寿命は人が決めるものではない、彼らが自分で選ぶものだとしらしめたかったらしい。
でも──
あの事故で、それは叶わない夢となりかけた。
だから。
娘の私が踏ん張らなければならない。
『碧、お兄ちゃんからのお言葉な。あんまり両親の理想を叶えようと無理すんな? 特に一人で』
桐人兄さんの言葉は図星だった。
あの頃の私は、一人でやらなければならないと思い込んでいた。
今も、一人でやらなければと思ってしまうことがある。
『取りあえず、今は俺への借金返済だけ考えとけ、その間にレティシアも出産してるだろうしな』
「あっ」
そこで私はレティシアさんが妊娠して育休中なのを思い出した。
襲撃事件あったのに、バカバカ!
「えっといま、8ヶ月くらい?」
『そうだなーとなると、あと2ヶ月位で生まれるな』
桐人の言葉に、嬉しくなったが、ある事に気付いて落ち込む。
「わぁ、つまり私、叔母さんになるんだ……複雑だ」
『19歳で叔母さん呼びは辛いわな』
「マジそれ」
そういや、色々忙しくてお母さんとお父さんが死んでから誕生日のお祝いもやってなかったわ。
私はがっくりと肩を落として机に突っ伏す。
「要件は以上か?」
明らかにイライラしているノウェムさんが通信機に向かって言う。
『碧ちゃん、今困ってない? お兄さんに言ってごらん?』
「地球政府が入金してくれない、依頼こなしたのに」
ノウェムさんの言葉を無視して桐人兄さんは私に話しかけた。
なので、私は正直に話した。
『ほほぉ、そうなのか。じゃあお兄さんに任せなさい!』
「え、ちょ」
通信は一方的に切られた。
すると、入金通知が届き、金額を確認すると60億入金されてた。
また通信が入る。
『ロゼッタです、碧様』
「あ、ロゼッタさん。どうしたんですか?」
『地球政府が依頼料の出し渋りをしてたのですが、先ほど急に態度を変えて60億振り込みますと言ってきました』
ロゼッタさんの言葉に、私は確信した。
……桐人兄さん、地球政府の弱みを握ってるな。
だから、あんなに態度が急変したんだ。
と。
『取りあえず入金は確認できましたか?』
「はい、確認できました」
多分、国家中枢救出ということで依頼料を高額にさせたのだろう。
桐人兄さんが。
『良かったです、そして依頼を一気に詰め込んで申し訳ございません』
私の言葉に、ロゼッタさんは安堵の声と、申し訳なさそうな声をだした。
『申し訳ございません、レティシア様ならもっと上手くやれるのでしょうが……』
「大丈夫ですよ。ロゼッタさん、ちゃんと社長代行できてます!」
めずらしく弱気になっているロゼッタさん、まぁ比較対象が凄すぎるしね。
私はそんな彼女を励ました。
『ありがとうございます、碧様。レティシア様が復帰なされるまで頑張ろうと思えました』
「それは良かったです」
『では、失礼します』
ロゼッタさんとの通話を切る。
私はふぅと息を吐き出し、60億という数字を見る。
「これ全額返済にしちゃおう」
「碧、どうした?」
何も気付いてないノウェムさん、こういうところは鈍いんだから。
「この60億、桐人が何かして出させたお金」
「良し、返済に使ってしまおう」
意見が一致したので、即座に銀行に行って入金手続きを取ってきた。
『ちょ、ちょっと碧ちゃん! なんで地球政府からのお金全額俺の借金返済に使ったの⁈』
社長室に戻るとタイミング良く連絡が来た。
「桐人兄さんが何かした結果のお金なんでしょう? だからそうしただけ」
『何かやさぐれてる⁈』
「本音は、地球政府の金がムカつくので保持していたくない」
『ならしゃーないか! 残り347億6千万返済頑張れ! 碧ならできるぜ!』
「やってやりますよ、桐人兄さん」
そう言って通話を切る。
横を見るとご機嫌斜めなノウェムさん。
可愛いんだけど、桐人兄さんが関わる度に機嫌損ねるのは止めてほしいなぁ。
多分無理そうだけど……
とにかく、借金はまだ347億6千万。
先は長いけれど、少しずつ返していくしかない。
それでも一歩ずつ返していくしかない。
きっと、いつか全部返し終えるその日まで。
桐人は冷たい奴でもあり、同時に情に厚い存在でもあるんですよ。
美奈でなく碧だったら、無料で治療したといってましたし、それと碧が地球政府が入金してくれないとぼやいたら、どんな方法かは分かりませんが地球政府に入金させましたね。
高額で。
でも、それを持って居るのがなんか嫌で全部桐人に入金して借金返済にあてる当たりが碧とノウェムですよね。
きっとまた借金を返すことができるでしょう!
ここまで読んでくださりありがとうございました!
誤字脱字報告等ありがとうございます!
次回も読んでくださるとうれしいです!




