49.レティシアの訪問~安定期に来た訳は?~
借金を返済してから一ヶ月後、相変わらず碧たちは働いて居た。
メフィストがそこまで働く必要があるのかと碧に聞くと碧は──
「お嬢ちゃんー、もう借金返済したから無理に稼がなくてもいいんじゃないかなー?」
借金返済から一ヶ月後。
相変わらず働いている私にメフィストが言う。
「メフィスト、忘れてるわね……うちの株のこと」
「?」
「……うち、株式会社だから株があるでしょ? その株を全部持ってるのがレティシアさんなのよ」
「「「「あ」」」」
クラレンスたちも思い出したように声を出した。
「レティシアさんが無理な配当を要求するとは思わないけど、できるなら私が株式何割か保有して安心したい!」
「あら、私が何かしら?」
「ふぎゃー⁈」
レティシアさんの声に思わず飛び上がる!
「レティシアさん! 妊娠六ヶ月ですよね? 安定期だからって無理しちゃ駄目です!」
「でも、運動しないと赤ちゃんにも私にも悪いわ」
「セスさんも止めてくださいよー!」
「申し訳ないです、デケムが動くのも大事と言ったばっかりに……」
「私が『動くのも大切です』と言ったばかりに……」
セスさんとデケムさんが申し訳なさそうに頭を下げた。
「この中に人間の赤ちゃんがいるのー?」
メフィストが興味津々。
「メフィスト、急に触っちゃダメだからね」
「分かってるよ!」
「しかし、このようにお腹が大きくなるということは内蔵に負担がかかるのでは?」
「その通りです」
デケムさんが言った。
「説明すると長くなるので省きますが、赤ん坊の成長とともに内蔵は圧迫されていきます。故に出産後の母体の体調やメンタルが回復するまでには、一年程度かかる場合もあります。後遺症が残る場合もあります」
「順兄さん……」
「なんだ、碧」
「絶対無理させちゃダメだからね。太ったとか、そういう余計なことも絶対言っちゃダメ」
念を押すと、順兄さんはしっかり頷いた。
「分かってる」
「浮気したら私が直々に説教するから」
「口だけで終わるのか? 物理的な説教も入るのか?」
「どうだろうね?」
すっとぼけとく。
「お嬢、順をそうビビらせんでも。順が浮気なんて馬鹿やらんじゃろ」
「やらないとは思ってる。でも、もし裏切った時のための脅し」
レティシアさんを泣かせたら、私は絶対許さない。
「俺は義父さんにも脅されてるし、妹のお前にも脅されてるんだぞ、そこまで信用ないのか俺?」
「いえ、多分良家に逆玉で調子こいて浮気するパターンを危惧してるのでは?」
「俺が逆玉で喜んでるように見えるか?」
クラレンスの言葉に不満そうな顔で順兄さんが返す。
「見えない、むしろレティシアさんにいつも言いなだめられてる様子が目に浮かぶ」
「何故分かった」
「なんとなく」
そんな会話をしている間も、クラレンスたちはレティシアさんのお腹へ何度も視線を向けていた。
妊婦さんを見慣れてないんだろうなぁ。
保育園の仕事の時はお迎え時間の前に帰っちゃってるからね。
帰宅時間まで一回クラレンスがいたことあるんだけど……
『やー! ろぼっどざんどまだあぞぶー!』
と、号泣の大合唱なので、お昼寝の間にそっと帰るのがお仕事中の約束になっている。
まぁ、その一回だけだったので妊婦さんを見かけなかったんだろう、運がいいのか悪いのか。
「ん? もしお嬢さんが結婚したらどうなるんだ」
「ノウェムはついとらんかったし……」
「もし子どもを望むのであれば、私の会社傘下の病院の産婦人科でかなり特殊な妊娠をしてもらうことになります」
「どういうこっちゃ?」
「まぁ、ぶっちゃけますとノウェムから細胞をとって遺伝子調整を行い、碧さんの卵子と受精させて碧さんの子宮に戻すことになりますね。ノウェムはそのままでは子どもを作れませんから」
「ノウェムお前……」
「レイジング、その哀れみの眼差しを私に向けるな、今まで気にしてなかったが若干この体で悲しくなっているんだ」
「でも、その体じゃなかったら家族風呂私一緒に入らなかったよ」
「……」
「おい、ノウェム無言になるな」
「これがむっつりという奴ですか」
「誰がむっつりだ!」
レイジングとクラレンスにノウェムさんが怒鳴り散らす。
「大丈夫、本当のむっつりは涼だから」
「だからそこでノウェムを守るために何で俺をディスるんだ⁈」
涼兄さんは、怒鳴った。
「そういえば順兄さん、昔持ってたエロ本どうしたの?」
「子どもの目に入るのは不味いと思って引っ越す時売ろうとしたら涼が全部買い取った」
「涼……」
ガンツが呆れたように涼兄さんを見る。
私も思わず何とも言えない表情になった。
「エロ本はプレミアなんだよ! 二次元だからこそ許されるエロが大事なんだよ」
「なるほど、純愛ものの値段だけやたら高くして買い取ったのはお前自分が独身貴族になると思ってか」
順兄さんが淡々と指摘する。
「分かるか! 気付いたら逆玉で結婚して子どもまでできた兄貴と、なんかずれてるが恋人ができて順風満帆の碧! 俺は合コンで酷い目あったから女性不信になりかけたわ!」
「「合コンはいくもんじゃない、あそこは戦場で地獄なんだから」」
順兄さんと私の言葉がハモる。
合コンの修羅場なんて、SNSで嫌というほど見てきた。
「涼兄さん、その残念さを無くせばいいんじゃない? 顔は順兄さん同様いいんだから」
私は呆れて涼に言う。
「お前は俺が顔がいいと言うが、家での様子なんて学校では一切見せてなかったのに生まれてこの方お前からしかバレンタインのチョコレートもらえてねぇよ!」
「あーお母さん『お母さんからのチョコは恥ずかしいよね』って渡さなかったからな。私だって家族と友達にしか渡したことないんだから」
そこまで話しているとノウェムさんがレティシアさんに声をかけていた。
「そんな風習があるのか」
「日本独自よ、私たちは男性が花束とかをプレゼントしてくれたわ」
「大昔に、日本の製菓会社が乗っかったんですよねバレンタインに、日本人イベント好きだから」
「お嬢、怒らなくていいのか?」
「怒ったってしゃーないでしょ、日本人はイベント好きなんだから。西暦時代から宇宙歴の今まで続いているの。宇宙歴になった今でも、大鍋で芋煮を作る芋煮会を続けているくらい、日本人はイベント好きなのよ。その上使ったショベルカーは縁起物扱いになるの」
「縁起物なんだ?」
ノウェムさんが尋ねるので何とか思い出して答える。
「芋煮会で使ったショベルカー、新品のね。芋煮用にショベルカーへ食用油を塗って使うから、準備も後片付けも大変なのよ。そういえば鍋の大きさでギネス更新したよね、わりと最近」
ノウェムさんは理解できないような顔をしているのでレイジングが私の言葉を強調して言う。
「鍋だ」
「……鍋?」
「鍋の大きさだ」
ノウェムさんは信じられないという顔をした。
まぁそうだろうね。
「ギネス世界記録って結構謎なのも多いのよねー」
「まぁ、色んな記録がありますから……」
レティシアさんも苦笑い。
「碧! なんかお腹動いた! おかしい!」
メフィストが騒いだ。
「それは、お腹の赤ちゃんが動いてる証拠。つまり元気に育ってる証なの」
「そ、そーなの?」
「メフィスト、遊園地で働いてたけど妊婦さんのことは知らないのね。まぁ、妊婦さんはこないよね、お腹の赤ちゃん大事だから。もし来てたら……大変なことになりそうだし……」
「うん、ぼくの働いて遊園地は妊婦さんあんまりみなかった!」
「ふふ、それなら驚いても仕方ないわね。」
レティシアさんはお腹をさすりながら微笑んでいた。
「ガンツの時代はどうだったの?」
「そうじゃな、丁度弁当を届けに来た奥さんが破水して現場が大混乱になったのは覚えとるわい」
「……それは大変だったね、そういう訳でレティシアさん、今日はお帰りください」
「そういう訳にもいかないの、大事なお話があるの」
「……大事な話?」
私は首を傾げる。
「私が今全部持っているパトリ社の株の保有についての相談なの」
「そういえば、それが今日の本題だった……」
どうしよう。
頭の中が一気に混乱し始めた──
レティシアの訪問理由。
株についてでした。
そしてその間の家族の会話。
涼は順と碧をうらやましがっている様子。
また今も続く日本文化の紹介をちょっと入れました。
有名な芋煮会です。
私は行ったことないのですが、一応軽くは知ってます。
ここまで読んでくださりありがとうございました。
誤字脱字報告等ありがとうございます。
次回も読んでくださるとうれしいです。




