48.楠木家職場訪問~みっちゃんの両親訪問~
ある日、美奈の両親が会社を突如アポなしで訪れた。
美奈に会いに来たという母はお土産のケーキをたくさん渡したあと、美奈の両親を会社に招き話をすることに──
「碧ちゃん」
「あ、みっちゃんのお母さん……とお父様、はい、どうも……」
「む」
みっちゃんのお母さんとは普通に話せる。
でも隣に立つお父さんは別だ。
職人気質で厳しい人らしく、私はどうにも苦手だった。
「お父さん、お母さん、どうしたの会社に来て?」
「貴方に会いにきたのよ、それとちょっと社員の方々をお借りしていい?」
「いいですが何ですか?」
「ノウェムさんでしたっけ? あの人ケーキをあんなに美味しそうに食べてくださるから、ケーキを沢山作ってきたの」
「なんか申し訳ない」
ノウェムさんが以前ミモザで大量にケーキを平らげたことを覚えていてくださったらしい。
お手数かけてすみませんとしか言えません。
いや、本当。
マジでごめんなさい!
ある意味営業妨害でしたよね!
謝罪文が頭の中をぐるぐると駆け巡りながら私もケーキが入った箱を持っていった。
開けるとワンホールのケーキが六個も入っていた。
あとロボット用のお菓子キューブが人数分。
「あと、碧ちゃん。内緒ね」
「こ、これは……!」
ミモザのガトーショコラだった。
私は小声でお礼を言い、急いで部屋の隠し冷蔵庫へ隠した。
兄貴たちに食べられてたまるものか。
「どうした?」
「みっちゃんのお母さんからケーキを貰ったの、三時だし、おやつの時間には丁度いいでしょう?」
「……そうだな」
ノウェムさんは少し嬉しそうに微笑んだ。
甘い物を前にすると、本当に表情が柔らかくなる。
みっちゃんのお母さんは苺のケーキを均等に切って皆へ配ると、みっちゃんのお父さんが順兄さんをじろりと見つめた。
「順くん、だったか」
「……はい」
順兄さん、まさか自分に声をかけられると思ってなかったみたい。
私もだけど。
「君は奥さんを大事にしてるかね」
「大事にしてるつもりなのですが……」
「が?」
みっちゃんのお父さんの低い声に思わず肩が震えた。
「俺がやろうとする前に護衛の方が全部やってしまうんです……自分が食べた晩飯の皿洗いと、弁当箱を洗うくらいしかできなくて」
「護衛が四六時中いるのかね?」
「私がいない間も護衛の方々が全部世話をしているので」
「それなら、仕方ないな。ところで出産に立ち会いは?」
「勿論です、その時は速攻で駆けつけます、役に立たなくても」
順兄さん、お父さんになってるね。
昔とは大違いだよ。
「産後はどうする」
「順兄さんには育休を使って貰います、幾ら護衛がいると言っても赤ちゃん相手では大変でしょうから」
借金も返済した今なら、人員にも余裕がある。
「いいのか? メカニックが二人になるぞ?」
順兄さんが驚いた声を上げている。
「元々宗一お爺ちゃん一人でやってたようなもんだし、私もメカニックの仕事はできるし、ノウェムさんもできるから安心して育休とって。借金も返済し終わったんだし」
「そうか……何か俺の意味が薄れていくような……」
「人が減ったときに代役がいるって話でしょ!! 何でそうなるのよ……?」
ノウェムさんがケーキをじっと見ているのにここで気付いた。
「ノウェムさん?」
「これは今食べていいのか?」
「食べていいから切ってくれたのよみっちゃんのお母さんが」
「いや、真剣な話をしているから食べるべきか否か悩んでいた」
「どうぞお召し上がりになって下さい」
「では」
フォークでケーキを一切れ切り分け、その一切れを丁寧に持ち上げ、口に入れるとノウェムさんはぱぁっと明るい表情になった。
美味しいんだろうな。
いや本当、分かりやすくなったなマジで。
「美味しいですか」
「ええ、美味しいです」
そう言って苺を頬張る。
幸せそうな表情をしている。
「ところで涼くん、まだ合コンに行ってるのかね?」
今度は涼兄さんに話が飛んだ。
何で。
「もう行ってませんよ、俺じゃ他の会社の情報引き出すの無理なのドゥオって奴に痛いほど分からせられたんで、大人しく家で酒のんだり、ゲームしたりしてます」
「そうか……」
そして今度は視線が私に向く。
「碧君、君はパートナーとか募集してないかね? 見合いならいい相手が──」
「お父さん! 碧の恋人はノウェムさん‼」
「え?」
「貴方分からなかったの? もうそういう所は鈍感ね」
みっちゃんは声を張り上げて怒り、お母さんの方は呆れてる。
菓子キューブを食べながら、レイジングが横から口を挟んだ。
「まだ一年も経ってねぇんだから急ぐなよ」
当たり前だ。
そこまで行くのに鈍感な私達がどれだけ苦労したか。
いや、周囲にどれだけ苦労をかけたことか。
「当たり前でしょう?」
「でも、順色々すっ飛ばして結婚したねー」
「アレはレティシアさんがかっ飛ばしすぎたのだと思う」
「ああ」
順兄さんが遠い目をしている。
「逆玉で良かったんじゃないのか?」
「考えてみろ、自分は小規模の家族経営に近い会社のただのメカニック、方や相手は大企業の社長、しかも会社の借金返済する相手。普通素直に逆玉と喜べるか?」
「まぁ、レティシアさんには失礼だけど、好意を抱いていたとしても恐れ多くて土下座してしまうかな私が兄さんの立場なら」
私は冷静に自分の状況と性格を分析して答えた。
私の言葉にノウェムさんが苦笑した。
「……俺は逃げる」
涼兄さんは遠い目をして言った。
「このヘタレめ」
「根性無しが」
「順も碧も俺の扱いだけ酷くねぇか⁈」
若干泣きそうな声で涼兄さんが言ってきたので冷静に告げる私と順兄さん。
「文句言うなら俺の漫画本とゲーム早く返せ」
「私のノウェムさんに変な知識与えるな馬鹿」
「いや、ちょっとお堅い感じをユーモアにしたいと思って」
「じゃあなんで大昔のマジックテープの財布ネタを教えた! 後ほかにも色々!」
「それはえーと……」
「全く涼は昔から余計なことばっかりするからこうなるんじゃ」
緑茶を飲みながら宗一お爺ちゃんは呆れていた。
「順は逆に必要なことはするんじゃが、口にださんのが問題じゃ」
そして呆れて続ける。
「碧は猪突猛進で、メフィストたちや大人達を困らせることにかけては彩花に似て天才的じゃったわい」
「そ、そんなに迷惑かけた⁈」
「山ほどじゃ」
宗一お爺ちゃんはお茶を飲みながら言った。
そ、そんなに迷惑かけたっけ?
「ところで、美奈というお嬢ちゃんとはどうなっているんじゃ碧?」
「うん、仲良くやってるよ。仕事の方でもすっごく助かってるし」
「ほほう、それは良かったの」
「……ただ、みっちゃんの仕事がはかどり過ぎて私の仕事が終わらない弊害がある」
「ごめんね、碧、ごめんね」
遠い目をして言うと、みっちゃんが謝ってきた。
「いや、悪いのはポンコツ頭の私だから、みっちゃんは悪くない」
「美奈、貴方は昔から集中力が凄くて勉強もできたけど、周囲も見なくちゃだめよ?」
「はぁい、お母さん」
みっちゃんの頭を撫でるみっちゃんのお母さん。
その関係性が少し羨ましかった。
私はもう、お母さんにもお父さんにも頭を撫でてもらえない。
その温もりを思い出すことしかできないから。
ケーキを一つ食べ終わって残りはデザートとおやつにしようという話でまとまった。
胸の奥が少しだけ寂しくなった。
帰り際、みっちゃんのお父さんが涼兄さんに「君はもう少し誠実さを身につけた方がいい」と言われて凹んでいた。
なんで涼兄さんだけだったんだろう?
……いや、一番心配なの涼兄さんだからか。
私にはみっちゃんのお母さんが「美奈を宜しくお願いします」と言われた。
わたしは「こちらこそ」と返した。
そしてお父さんも「碧君」と呼ばれたので、緊張して「はいっ!」と体をこわばらせて返事をすると「娘を頼む」と言われたので「かしこまりましたー!」と返してしまった。
苦笑されたけど、苦手なんだよあのお父さん!
……あ、社長なのに接客みたいな返事しちゃった。
自分アホ過ぎる……
突然の職場訪問にはびっっくりしたけど、まぁ皆満足してたし、いっか!
普通アポなし訪問はお断りしてますが、美奈のご両親ということで碧は会社を案内しました。
そこで色々な話をしましたが、ノウェムはケーキへの欲がやはりお強い様子、食べて良いよって言うまで我慢してたのは偉いですが。
涼は散々な言われようですが、自業自得です。
碧は美奈の父親が苦手な様子、怖いんでしょうね、彼女にとって。
ここまで読んでくださりありがとうございました。
誤字脱字報告等ありがとうございます。
次回も読んでくださるとうれしいです。




