43.会社の内情改善~モナル社の由来と桐人の発言~
美奈の仕事の達成速度に内心悲鳴を上げている碧。
そこにトレースがやって来て──
「碧、こっちの書類終わったよ!」
「あ、う、うん」
食事を終えるや否や仕事を始めたみっちゃんは、書類をあっという間に一山片付けてしまった。
「失礼美奈様」
「貴方は……トレースさん?」
「覚えておいて下さり恐悦至極に存じます」
「あの、何の用でしょう?」
「……少々貴方様には耳に痛い話になりますが」
「え、ちょ、その」
私が制止する前にトレースさんが口を開いた。
「貴方様の仕事がはかどりすぎているため、碧社長の仕事が溜まりに溜まってしまっております」
何で知ってるの⁈
「発狂しながら対応しているほどです」
わー!
言うな、それ以上言うな!
「ノウェムも舌を巻くほどのデスクワーク能力ですが、流石に度が過ぎております」
ちょっ!
おまっ!
私たちじゃ言えなかったことを!
みっちゃんはおろおろしてる。
「碧……それ、本当なの……?」
「えっと……」
「本当、なんだね」
こういう嘘をつくのは苦手だ。
「ごめんね……お仕事たくさんあるから、早く終わらせれば碧も、余裕もって終わらせられると思って……」
みっちゃんがボロボロと泣き始めた。
「ほらー! だから言わないで頑張ってたのにー!」
トレースさんを怒鳴る。
「レティシア様からの命令ですので……」
「……レティシアさん、私のこと監視してる?」
そう呟くとトレースさんとノウェムさんが視線をそらしたり、笑ったりした。
……監視してるんだな、これ。
私は諦めたようにため息をついた。
「そういう訳でごめん! 私、要領悪いし愚図だから……ノウェムさんに手伝って貰ってやっと一日一山片付けられる程度なの!」
「「碧は要領悪くないし、愚図でもない!」」
ノウェムさんとみっちゃんが同じセリフを吐いた。
「聞いてるよ。昔、碧のお母さんがお母さんと話していた時にね、『碧は特に頭がよくてねぇ、いつも学校のテストは10位以内、全国学歴テストでも50位以内にはいるのよ。私たち頭悪いのに誰ににたのかしら』って」
「おかーちゃーん!」
「美奈の言う通り、君の学業の成績は学校の教師達からも目を見張るものだったと、だからこそ大学進学を止めて会社を継ぐと言い出した時は勿体ないと思ったとな」
「あれはあくまでテストで正解があるから分かるの! 社会って正解がないじゃん! どう対処すればいいのか分からないのー!」
頭を抱えて絶叫する。
「どうした、どうした?」
「お嬢様、どうなさいました?」
「お嬢ちゃん、どうしたの?」
「お嬢さん、何があった」
ガンツ達が私の絶叫を聞いてやって来た。
「もう無理……社長向いてない……」
その場に倒れ込む。
「碧、そこまでじゃないだろう」
「何があったんだ」
「それが──」
ノウェムさんが事情を説明していた。
「お嬢、言っちゃ悪いが涼と順の方が社長に向いとらんぞ」
「ええ、涼に至っては書類一枚見ただけで卒倒し、何事もなかったかのようにそのあと立ち去りました」
涼兄さん、何やってんの。
「順に関しても、書類をめくって『これは俺できないな』と戻しておりました」
「私より器用そうなのにあの二人ー‼」
「いや、一番社長向きなのはお嬢じゃ」
「そうですよ、お嬢様」
「残念ながら、今のあの二人はメカニックとしてしか役に立たない」
「酷い言われようだわ」
兄さんたちも、メフィストたちやノウェムさんたちからこの言われようである。
「やっぱり私が大人しく社長やるしかないか……」
「う、うん! そうだよ、私、一日の書類の量を二山から四分の一に減らすね!」
「誠に申し訳ない……」
不甲斐ない社長で申し訳ないなぁ。
だが、悔やんでいる場合ではない。
「ええい、後ろ向きなのはお終い! 莫大な借金返済しなきゃいけないんだからね!」
「そ、そんなに?」
「レティシア様曰く、『碧様なら必ず返済してくださいます』とのことです」
「……社長さんなんですよね。そんな偉い人に信頼されるなんて……どんな人だろう?」
「あー……」
言おうか言うまいか迷った。
「美奈、君が碧と再会した日を覚えているか」
ノウェムさん?
「は、はい」
「あの時、私と一緒にいたのがモナルの社長だ」
「……え?」
ちょっとノウェムさんや?
「え──⁈⁈」
大声がその場に響き渡った。
「あ、碧。どうして教えてくれなかったの⁈」
「私もまさか来るとは思わずフリーズしてた」
「わぁ、社長さんの前で号泣して恥ずかしい!」
「レティシア様なら気にしてませんよ、寧ろ『このような良い子をここまで追い詰めたバルトロ社を買い取って改革してしまいましょう、勿論パワハラとかした連中にはおさらば、役員も同様、膿は出さなくっちゃ♪』と嬉々としてましたよ」
「……バルトロ社買われたのってそういう流れだったんですか」
「まぁ、強制捜査が入って株価が一気に下落したところを買い占めましたからね。株式会社だったのがあだになりました。」
「そう言えば……」
「何か気になることでも」
「何でキーアって名前なのにモナルって社名にしたのかなって? ウチのパトリはフランス語の『心のふるさと』って意味合いで使ってるけど、大抵の会社って自分の名字というかファミリーネームじゃん、なんでモナルなのかなって」
前々からちょっとだけ疑問に思っていたことを口にする。
「それは……私も知りません、ですがレティシア様なら知ってるでしょう」
「これだけのためにレティシアさんに連絡するのも……よし桐人兄さんに連絡だ」
「何でそうなるんだ」
ノウェムさんに止められる。
「いや、こういう雑学なら桐人兄さん詳しそうだし」
「アイツだけは止めろ」
「ノウェム、嫉妬は醜いですよ」
「トレース、表に出ろ」
「仕方ありません」
会社のロボット用の広いスペースで音だけが聞こえるバトルが繰り広げられ始めたので、私は構わず通信機で桐人兄さんに連絡した。
『はいはい、碧ちゃーん、桐人お兄さんですよー』
「その挨拶が許されるのは園児のころだから」
『つれないなー、ところで何で連絡よこしたのかな?』
「いや、ちょっと聞きたいことがあって。何でさーモナル社はモナル社なわけ? キーア社じゃダメだったの?」
『あーそれね、創業者はグレイシア・キーア。婚約者にアレフ・モナルって人がいたんだ』
なるほど。
『ただアレフは結婚前にグレイシアを狙った連中に刺殺されて亡くなった。悲しんだグレイシアだったんだが、その時既にアレフの子がお腹に居たんだ』
創業前からそんな目に遭ってたんだ……。
『だから、子どもの父親でもあるアレフの名を残すため、社名をモナルにしたんだ。』
「……なんだか切ないお話だね」
『まぁな。ところで、すっげぇうるさい音するんだけど何?』
「私が桐人兄さんに連絡しようとしたら、ノウェムさんが嫌がって、それを見たトレースさんが『嫉妬は醜いですよ』って言ったら喧嘩になった」
『まぁ、彼奴らならそれ位の動きで喧嘩できるだろうが……うるせぇな』
「確かに若干うるさい」
『ちょっと音量大にしてスピーカーにしてくんね?』
「うん」
私は指示に従いスピーカーモードにして音量も上げた。
『お前らの喧嘩レティシアに告げ口すんぞバーカ!』
その一言で、殴りかかり合う二人の姿が止まった。
二人は気まずそうな顔でこっちを見る。
『言っとくけど、俺はまだノウェムと碧の結婚までは認めていませんからね!』
「ちょ⁈ 桐人兄さん⁈」
『あと、順にいっとけ‼ 産前産後の対応が夫婦間の仲を決める! 絶対レティシア一人に子育てさせんな、おめーもやれ!』
「桐人兄さん……」
この人は……本当に余計な一言が多い。
『あと、涼! お前が合コン行く度に傷ついてる女の子がいるのさっさと気付けバーカ!』
「え⁈ だ、誰々⁈」
普段なら流しそうな涼兄さんが、珍しく反応した。
『んじゃな‼』
通信が切れる。
「もー! また新しい謎が増えたじゃない! 誰なのその人!」
頭を抱える私を見て、ノウェムさんたちは苦笑していた。
ただ、みっちゃんだけは目を伏せ、小さくぎこちなく笑っていた。
どうしたんだろう?
下の人仕事ができすぎると上の人はプレッシャーかかりますよね、というお話でもあります。
下の人に全投げできないのが社長(碧)の悲しみ。
ただ、美奈と碧、どっちが社長に向いてるかと聞かれたら碧になります。
美奈は責任重大すぎる内容には手がつけられませんし、碧の様に現場を見ることもできませんから。
そして桐人の情報炸裂、最後に特大の爆弾を残していきましたねー(棒読み)
ここまで読んでくださりありがとうございました。
誤字脱字報告等ありがとうございます。
次回も読んでくださるとうれしいです。




